みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『芙蓉千里』 須賀 しのぶ

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

「大陸一の売れっ子女郎になる」夢を抱いて哈爾濱にやってきた少女フミ。妓楼・酔芙蓉の下働きとなった彼女は、天性の愛嬌と舞の才能を買われ、芸妓の道を歩むことになった。夢を共有する美少女タエ、妖艶な千代や薄幸の蘭花ら各々の業を抱えた姉女郎達、そして運命の男・大陸浪人の山村と華族出身の実業家黒谷…煌めく星々のような出会いは、彼女を何処へ導くのか!?…女が惚れ、男は眩む、大河女子道小説ここに開幕。

【感想】

舞台はハルビン。日露戦争後の様々な人種が行き交う国際都市。女衒に売られて日本から中国大陸へやってきた辻芸人あがりのフミ。一緒に売られたタエと共にハルビンの遊郭「酔芙蓉」で働くことになる。女郎で大陸一を目指すフミ。芸妓に夢見るタエ。宴席で舞を披露したフミは芸妓として頭角を現し、芸妓の道に。美しさに磨きがかかるタエは女郎の道に。皮肉にも夢とは真逆の道に向かう二人。フミとタエの魅力がとても良い。エネルギッシュで明るく快活なフミ。過酷な幼少期を送ったフミの物怖じしない力強さがかっこいい。一方泣き虫で、頼りなげなおっとりとしたタエ。花開くタエの美しさと逞しさには魅了される。お互いにない魅力に嫉妬しながら、尊重し合う関係性も素敵。姉女郎たちも魅力的で、「遊郭は女の地獄」「女郎にとって、恋は地獄」と、嫉妬と野望が渦巻く地獄で生きる女性たち。泥沼化するのではなく、個々に凛とした誇りを持ち、高めあっている様子が好ましい。お千代姉さんの哀切な生き方に涙した。。女郎の誇りと悲しい恋心。。かっこいいけど切なすぎる。恋には揺るがず現実を生きる男性たちも、かっこいい。危険な香りがする山村さんと華族出身の黒谷さん。。フミの恋もキュンと切ない。

時代背景もわかりやすく歴史が苦手なわたしでも、時代の流れが頭に入る。様々な人種、職種、階級などあらゆる人々が絡む国際事情など、須賀さんの描き方が素晴らしい。国際情勢に伴い、揺れ動く酔芙蓉。翻弄されつつも力強く生きる女性たち...少しだけ女度を上げてもらった気がする笑。続きも楽しみです❣️

 

文庫本には、タエの恋物語が収録されてます。タエに恋する男のヤキモキ感。女郎の恋は地獄..タエの葛藤。。二人の恋の行方は...💕

『薔薇のなかの蛇』 恩田 陸

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

変貌する少女。呪われた館の謎。 「理瀬」シリーズ、17年ぶりの最新長編!

英国へ留学中のリセ・ミズノは、友人のアリスから「ブラックローズハウス」と呼ばれる薔薇をかたどった館のパーティに招かれる。そこには国家の経済や政治に大きな影響力を持つ貴族・レミントン一家が住んでいた。美貌の長兄・アーサーや、闊達な次兄・デイヴらアリスの家族と交流を深めるリセ。折しもその近くでは、首と胴体が切断された遺体が見つかり「祭壇殺人事件」と名付けられた謎めいた事件が起きていた。このパーティで屋敷の主、オズワルドが一族に伝わる秘宝を披露するのでは、とまことしやかに招待客が囁く中、悲劇が訪れる。屋敷の敷地内で、真っ二つに切られた人間の死体が見つかったのだ。さながら、あの凄惨な事件をなぞらえたかのごとく。可憐な「百合」から、妖美な「薔薇」へ。

 

【感想】

理瀬シリーズの最新刊です。
まず残念だった点から...理瀬の視点ではない。シリーズ全て、理瀬の視点で物語は描かれていたので、理瀬の心理描写から魅力を感じていたのだけど、本作はアーサー視点なので、理瀬の心情に触れることがない。『黄昏の百合の骨』のような緊張感溢れる心理戦もない。理瀬の登場が少なく拍子抜け。

呪われた館の歴史、猟奇的な殺人事件、爆破事件、国家のスパイ、一族の秘宝・聖杯の謎など、、理瀬シリーズの静かな妖しさが漂う雰囲気とはまるで違う大作ぶりに困惑。

とはいえ、17年ぶりの最新作。待ちに待った続編なので、心躍る場面もあります。

ヨハン登場。『麦の海に沈む果実』で出会う理瀬の婚約者。ヨーロッパマフィアの後継者であり、美少年だったヨハンも大人に..。ヨハンの別荘に訪れた友人と館で起きた謎の事件を話す場面が挿入されています。どう繋がっていくのか?

神秘的な理瀬の禍々しい美しさに惹かれながらも警戒を強めていくアーサー。理瀬の底知れぬ魅力を印象付けていきます。理瀬視点じゃない!なんて拍子抜けしながら、理瀬の魅力には結局引き込まれてる。

美しさ、聡明さ、冷静さ、度胸、洞察力、妖しさをより一層高めた理瀬。危なげで可憐な少女から血なまぐい一族相手に目的を果たす謎の美女(登場が少ないのに確実な仕事をする峰不二子みたいな?)に変貌していました。まさに百合から薔薇に。。続編ますます楽しみにしてます🌹

『黄昏の百合の骨』 恩田 陸

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

強烈な百合の匂いに包まれた洋館で祖母が転落死した。奇妙な遺言に導かれてやってきた高校生の理瀬を迎えたのは、優雅に暮らす美貌の叔母二人。因縁に満ちた屋敷で何があったのか。「魔女の家」と呼ばれる由来を探るうち、周囲で毒殺や失踪など不吉な事件が起こる。将来への焦りを感じながら理瀬は...。

【感想】

前作(『麦の海に沈む果実』 恩田 陸 - みみの無趣味な故に・・・)の理瀬が更に芯が強く、聡明な美しい少女と成長し、より深い闇の世界に足を踏み入れていきます。

祖母の一回忌で集まる親族たち。祖母が洋館に隠した「ジュピター」という謎の存在を巡り、理瀬と叔母たち、従兄弟の稔と亘、友人の朋子が絡み、それぞれの心を揺るがしていく。不審死、毒殺、失踪と不穏な出来事が相次ぎ、女性たちの心理戦に緊張感が高まります。理瀬の魅力が怖すぎる。。魔性度アップで男性陣タジタジドキドキ💓亘との訣別が潔くてかっこいい。
「善など悪の上澄みの一すくい。悪の魅力に比べれば、早朝の儚い霧のようなもの」。。読む度に、この一文が強く印象に残る。祖母、父の血を受け継ぎ、生きる理瀬と幸福の中で生きる亘。善と悪は交差することはないと、理瀬は少女時代の自分と訣別をする。闇の世界で生きる覚悟を強く感じ、とても切ないけど、理瀬の魅力をグッと引き出され、とても好きなシーンです。

たたひとつだけ、朋子の結末が、なんでよ?って、腑に落ちないの。。これはないわって、結末なの(↓↓↓もうちょい下で↓↓↓思いっきりネタバレします)

でも面白い。洋館に似合う?怖い女たちばかりなので笑。

本作を読んだ後に「睡蓮」(『図書室の海』に収録)を読んでほしい。理瀬が洋館に住んでいた幼少期が描かれています。小学生の理瀬が祖母の前ではしっかりした孫娘、稔の前では完璧な女の子、亘の前では無邪気な妹と「女の子」を作りあげていきます。亘の前だけは少女でいられた理瀬と亘の淡い恋心など、理瀬の葛藤が伝わり、シリーズを通して読むと、より楽しめます。
次は最新刊、読みま〜す。楽しみ〜♪

 

さてさて、ちょいネタバレしますので、未読の方、要注意。

理瀬の友人で、近所に住む朋子。美人のお嬢様。亘に恋をしてるが、理瀬に夢中な亘には振り向いてもらえない。朋子に恋をする男子校生の田丸くん。朋子は全くその気がなく、迷惑な存在でしかない。田丸くん、謎の失踪。犯人は朋子。田丸くんは洋館の下の井戸(祖母の秘密が隠されている場所)に閉じ込められていた。朋子の企みは女子高生とは思えないほど、恐ろしい。理瀬への嫉妬、亘との関係を阻止する祖母への恨み、田丸くん失踪の罪を理瀬になすりつけようとする朋子の豹変ぶり。破壊ぶりが怖い。修羅場化する洋館で一人暴れをし、気絶する朋子の確保と井戸の中で倒れている田丸くんを救出をした稔たち。稔は祖母の秘密を世間に知られないように二人に暗示をかけて、洋館の秘密を封印。暗示をかけられた二人は誰もが羨む素敵なカップルとなり、ラブラブな日々を送るのです💓。。え?なんでよ?って事です。「幸せというのは、なんてグロテスクなものだろう」....理瀬は感慨深く思うのであった。。じゃなくて、何で暗示がかけられるの?医者だから?そんなわけない。。それに暗示を解かれた田丸くんの先行きが心配だわ。殺されかけた相手とラブラブって。。以上です。

『麦の海に沈む果実』 恩田 陸

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

【感想】

数年ぶりに再読。久しぶりの読書。大好きな理瀬シリーズの最新刊を読む前に、理瀬を振り返ります。何度読んでも理瀬の魅力に引き込まれる。

湿原に囲まれ、外界から孤立した全寮制の学園。高度な専門教育を受ける事ができ、良家の子女や才能溢れるエリート揃いだが、家族から存在を望まれず、寮に入れられた子など家庭事情が複雑な生徒たちばかり。学園の秩序を守る為に、生徒たちは徹底とした教育を受ける。専門的な学業や数々の行事、美味しい食事、自由で優雅な学園生活のようだが、全て学園の秩序のために費やす部隊のような生徒たち。謎の失踪が起きても、殺人事件?が起きても学園を乱すことは許されないのです。校長が全て処理をし、なかったことに...。校長の支配下にある生徒たち。この学園は優雅な牢獄のようなもの。。
二月に転入した謎の美少女・理瀬を巡り、疑惑に満ちた生徒たちは学園の謎に迫っていきます。徐々に精神が不安定になっていく理瀬が過去の呪縛から解き放たれ、本来の自分を取り戻す。。理瀬の魅力に目が離せなくなります。
登場人物たちの繊細な感情や思惑が渦巻き、破滅に向かう一方、最後まで崩れない幻想的な世界観を保つ学園(校長の権力と財力のおかげ笑)。。伝統を揺るがせない学園の存在、圧倒的な世界観がこの物語の魅力の一つなのだと、思う。再読すると新たな発見があって面白い。

読後、『三月は深き紅の淵を』の第四章「回転木馬」も再読。幻想の学園帝国に展開する悪魔のような世界に生きる人々たち。破滅的で混沌とし、深い闇に迷い込んでしまいそうな三月の国を小説家がまさに描こうとしてるお話...現実と虚構の狭間を行き交う作家の執筆過程や心理、不思議な感覚を体現されていて、興味深い。「見慣れた風景にだまされる気分。見せかけだけの都市。本当の姿はこうではない。どこかに見えない世界の尻尾がはみだしているのではないか。本当の世界の切れ端が落ちてはないかと外の風景に目を凝らす。見つかったためしはないけど...」この心境は共感を得る。三月の国を描いてくれて、恩田さんに感謝です。理瀬が広い世界で、どう成長を遂げるか、この先が見逃せない。大好きなシリーズです ^ ^

『暴虎の牙』 柚月 裕子

 

暴虎の牙 「孤狼の血」シリーズ (角川書店単行本)

暴虎の牙 「孤狼の血」シリーズ (角川書店単行本)

  • 作者:柚月裕子
  • 発売日: 2020/03/27
  • メディア: Kindle版
 

 おすすめ ★★★☆☆
【内容紹介】

博徒たちの間に戦後の闇が残る昭和57年の広島呉原。愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力とそのカリスマ性で勢力を拡大していた。広島北署二課暴力団係の刑事・大上章吾は、沖と呉原最大の暴力団・五十子会との抗争の匂いを嗅ぎ取り、沖を食い止めようと奔走する。時は移り平成16年、懲役刑を受けて出所した沖がふたたび広島で動き出した。だがすでに暴対法が施行されて久しく、シノギもままならなくなっていた。焦燥感に駆られるように沖が暴走を始めた矢先、かつて大上の薫陶を受けた呉原東署の刑事・日岡秀一が沖に接近する…。不滅の警察小説シリーズ、令和でついに完結!

【感想】

孤狼シリーズ完結。

第一弾の『孤狼の血』の大上刑事(ガミさん)が再登場。広島弁の言葉の凄みに圧倒され、堅気(←一般市民)を極道から守る熱き心に打たれつつ、愚連隊とヤクザの抗争をどう阻止していくのか?と期待をしていたのだが、、うーーーーーん。なんか違うなぁ。愚連隊の沖虎彦を中心に物語は広がるのだけど、ガミさんやガミさんを取り巻く素敵な?ヤクザたちの存在が薄い。。ほぼ登場しない。沖虎彦の不幸な生い立ちや危険な人物像や仲間たちの野望など、警察や極道より愚連隊中心なので、仁義も何もなく、暴走や暴力に萎える。ガミさんの悲しい過去にも触れるが、中途半端な感じで入り込めないまま、昭和時代が終わる。時は進み平成16年、ガミさんの遺志を継ぐ日高秀一が広島に戻ってきた。(←続編『凶犬の眼』面白い)。。日高くん登場は嬉しい。しかし前半のガミさん同様、日高くんの存在も薄い。そのうえ暴対法が施行され、警察もヤクザも動きが取れにくくなる。出所後、時代遅れの沖と、仲間たちの温度差が広がる(沖、暴力ばかりでやだぁ)。。違法捜査し放題の警察(ガミさんね)や、殺った殺られたのドンパチ騒ぎでハチャメチャな昭和の極道から暴力団排除の流れで暮らしにくくなる平成の極道。。物語も時代と共に熱から冷めていく。。現実社会に沿って描くと、小説的娯楽は味わえないのね。とてもリアリティ。。時代は変わったんだよ..確かに完結でした。

 

『デッドボール』 木内 一裕

 

デッドボール (講談社文庫)

デッドボール (講談社文庫)

  • 作者:木内一裕
  • 発売日: 2013/06/14
  • メディア: Kindle版
 

 おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

仕事なし、彼女なし、借金あり。とにかくツイてない。律儀なことが唯一の取り柄。そんなノボルに持ちかけられたのは、絶対に失敗するはずのない完全誘拐計画。その報酬は一千万円。人生を立て直すためのたった一度の犯罪。そう誓って受けたこの仕事。だが彼は、身に覚えのない事件の殺人犯になっていた。

【感想】

先に読んだ『不愉快犯』に出てくる登場人物たちが、別の役柄で登場してました。

成宮さんは相変わらず、不愉快だわ~笑

両作とも、痛快に駆け抜けていき、余韻も記憶も残さず駆け抜けていく感じ。。それが木内作品の良い所なんだね。

『不愉快犯』 木内 一裕

 

不愉快犯 (講談社文庫)

不愉快犯 (講談社文庫)

  • 作者:木内 一裕
  • 発売日: 2017/10/13
  • メディア: 文庫
 

 おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

人気ミステリー作家・成宮彰一郎の妻が行方不明になった。殺害の現場とされた潰れたビデオ販売店には、大量の血痕と成宮の靴跡が。「遺体なき殺人」の容疑で逮捕・起訴された成宮の、邪悪なる「完全犯罪」プランとは?天才悪役が、警察を、司法を、マスコミを翻弄する前代未聞の犯罪エンターテインメント小説。

【感想】

美しい妻を殺害したミステリー作家の完全犯罪。凶悪犯罪に芸術性を見出す不愉快な犯人。ずっと不愉快な感じが...イイね!(←これ、成宮の口癖?めちゃ不愉快)

シンプルなストーリー、面白いです。