みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『麦の海に沈む果実』 恩田 陸

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

【感想】

数年ぶりに再読。久しぶりの読書。大好きな理瀬シリーズの最新刊を読む前に、理瀬を振り返ります。何度読んでも理瀬の魅力に引き込まれる。

湿原に囲まれ、外界から孤立した全寮制の学園。高度な専門教育を受ける事ができ、良家の子女や才能溢れるエリート揃いだが、家族から存在を望まれず、寮に入れられた子など家庭事情が複雑な生徒たちばかり。学園の秩序を守る為に、生徒たちは徹底とした教育を受ける。専門的な学業や数々の行事、美味しい食事、自由で優雅な学園生活のようだが、全て学園の秩序のために費やす部隊のような生徒たち。謎の失踪が起きても、殺人事件?が起きても学園を乱すことは許されないのです。校長が全て処理をし、なかったことに...。校長の支配下にある生徒たち。この学園は優雅な牢獄のようなもの。。
二月に転入した謎の美少女・理瀬を巡り、疑惑に満ちた生徒たちは学園の謎に迫っていきます。徐々に精神が不安定になっていく理瀬が過去の呪縛から解き放たれ、本来の自分を取り戻す。。理瀬の魅力に目が離せなくなります。
登場人物たちの繊細な感情や思惑が渦巻き、破滅に向かう一方、最後まで崩れない幻想的な世界観を保つ学園(校長の権力と財力のおかげ笑)。。伝統を揺るがせない学園の存在、圧倒的な世界観がこの物語の魅力の一つなのだと、思う。再読すると新たな発見があって面白い。

読後、『三月は深き紅の淵を』の第四章「回転木馬」も再読。幻想の学園帝国に展開する悪魔のような世界に生きる人々たち。破滅的で混沌とし、深い闇に迷い込んでしまいそうな三月の国を小説家がまさに描こうとしてるお話...現実と虚構の狭間を行き交う作家の執筆過程や心理、不思議な感覚を体現されていて、興味深い。「見慣れた風景にだまされる気分。見せかけだけの都市。本当の姿はこうではない。どこかに見えない世界の尻尾がはみだしているのではないか。本当の世界の切れ端が落ちてはないかと外の風景に目を凝らす。見つかったためしはないけど...」この心境は共感を得る。三月の国を描いてくれて、恩田さんに感謝です。理瀬が広い世界で、どう成長を遂げるか、この先が見逃せない。大好きなシリーズです ^ ^