みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『レーエンデ国物語』 多崎 礼

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

異なる世界、聖イジョルニ帝国フェデル城。家に縛られてきた貴族の娘・ユリアは、英雄の父と旅に出る。呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタンだった。
空を舞う泡虫、乳白色に天へ伸びる古代樹、湖に建つ孤島城。その数々に魅了されたユリアは、
はじめての友達、はじめての仕事、はじめての恋を経て、やがてレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていく。

【感想】

ファンタジーの世界が好きで、書店で見る度に気になりつつも手に取ることはなく、いつか読んでみようと思っていた作品。今年の本屋大賞にノミネートをされたことでついに読む機会を得た(勝手に審査をしているので笑)。楽しみにしていた本だが、信頼なる読書友(審査員仲間)の辛評価で雲行き怪しく...。

プロローグで「レーエンデの聖母」と呼ばれ、革命の鍵を握る運命の女性・ユリアの存在が記されている。「呪われた土地」と呼ばれるレーエンデに聖イジョルニ帝国の騎士団長・ヘクトルと娘・ユリアが旅をするところから物語は始まる。

空を舞う淡く儚い泡虫の群れ、乳白色の幹がはるか蒼天へと延びる古代樹、湖に浮かぶ孤島城。レーエンデで暮らす民を脅かす国特有の風土病・銀呪病。満月の夜に現れる幻の海に飲まれると病に罹り、年月を経て、全身が銀の鱗に覆われていく。特効薬も治療法もない不治の病。ユリアは古代樹に住むレーエンデ傭兵団の元弓兵・トリスタンと出会い、レーエンデ全土の争乱に巻き込まれていく...

幻想的なレーエンデの世界感がとても良い。銀呪病をふりまく満月の夜が神秘的で美しい。美しさに魅了されてしまうから、恐ろしい。情景、舞台設定が結構好きで、非現実的な世界観に没頭してしまうはずが、、読むのに苦労してしまったのです。

人物の描き方が粗い。人物像が読み進めていくうちにブレていくのが残念。寡黙で冷静だったトリスタンが幼い。英雄と呼ばれ、民に全幅の信頼をされるヘクトルが国より娘中心で、なんとなく軽薄。重要な任務を果たす立場のふたりの会話が稚拙でやたらと無駄話が多く、騒がしい(子供の会話)。特に残念なのが、主人公(なのか?)のユリア。序盤の犠牲の精神や使命感の強さがあったものの、徐々に自分本位な思考が前面に。冒険をするわけでもなく村に留まり、ぬくぬくとした生活を楽しむところから革命を起こす要素がない(ある意味面白くて注目はする。革命の起こし方が強引...笑)。。と、主要人物の魅力がないのが、この物語の入り込めない理由なのです。主要人物が浅く見える一方で世界観だけが秀でていて、、その落差が読みにくさを助長させていくのです。とてももったいない作品です。