みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『去年の今日』 長島 有里枝

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

かけがえのない存在がいなくなってからの日々。互いに思いやりながらの関係と優しい距離。悲しみに寄り添うこと。

【感想】

愛犬PB(ピビちゃん)を亡くした家族の喪失が描かれた作品。PBが亡くなるまでの苦しみは何度も本を閉じてしまうほど、辛かった。いずれは訪れる愛犬とのお別れ。読んでるだけで動悸がしてしまう(いま感想を書いてる時も涙がうっすら)のに、その時に覚悟が持てるかなぁと落ち込んでいくのです。ため息を漏らすわたしの足元で寝息を立てるココア(我が家の愛犬14歳♀)...ギュっと抱きしめたいけど、ぐっすり寝ているので、やめとく。気を持ち直し、また本を開く...。

PBを亡くしてから、喪失感で精神が不安定になる母・未土里(みどり)を支える大学生の息子・樹木(きぎ)と母の恋人・睦(あつし)。。結婚生活をし、誰かと共に暮らすことの難しさを知る未土里は樹木が幼いころに離婚をし、仕事と育児の両立をする。幼い樹木に弟や妹をあげることはできないと悩んでいたところ、小さなPBと出会う。それから十数年が経ち、世界は新型コロナウイルスで緊急事態宣言。感染の猛威を振るう中、PBの体に異変が起こり、お別れの時が...。

深い悲しみは愛犬家としては十分伝わるのだが、文体がわたしには読みにくく、頭に入りずらいため、物語としてはとても印象が薄い。各章、樹木と睦それぞれの視点からPBと未土里との関係性が語られているのですが、突然視点が「わたし」に代わり、混乱してしまう。前触れもなく、行間もなく、、本当に突然。わたし(未土里)の描写や心情が急に描かれるので、とても不自然な流れに感じるのです。あと一人称に惑わされる。「樹木」と名前で語られていたのにまたも突然「僕」と一人称が現れる。この「僕」は誰?と見返すと紛れもなく樹木なのです。またも混乱が起きる。いま誰の話?と理解するまで、すこし時間が要する。煩わしさが生じる。疲れる。しかし愛犬の喪失感に共感をするので、寄り添い涙する...という、激動の読書だったのです。最後の章がこれは誰だ?状態でしばらく読んでいたら天国にいるPBだった。。丁寧語で綴られているので、ちょっと笑った。苦しみもなく幸せそうで良かった。

読み辛さはあったけど、未土里の壊れ方はわたしも起きそうな予感がするので他人事ではない。樹木は幼いころから一緒に育った可愛い妹のPBを失って辛いはずなのに、不安定な母の壊れていく姿に不安をし、そばから離れずそっと見守りながら、悲しみや喪失を静かに受け止めている。そのことに気づけない未土里は後悔で苦しみ、恋人や息子に思いをぶつける勝手な人のように思えるけど、かけがえのない存在を失うって少し心が壊れる。。わたしも経験があるので、我が子たちの不安が樹木から伝わり、心苦しさを感じた。PBの写真を美容院に持って同じ色に染めてもらう未土里の行動に犬の写真を持ってくる人は初めてと美容師さんが驚くという場面があったが、わたしもココアの髪型が可愛いから、同じにしてと写真を持ち込んでボンバーヘッドにしてもらったことがある。。確かにすごい驚かれた笑。

お別れは避けられないし...何をしてあげても後悔はするだろうし...だからこそ今の時間を大切にして、愛情を注いでいこうと深く思いました。しばらく動物の小説は離れよう。。涙が枯れるほど泣いてしまうから、動物の小説は苦手だ。

『君が手にするはずだった黄金について』 小川 哲

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの? 青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。彼らはどこまで嘘をついているのか? いや、噓を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか?

【感想】

就職活動中、エントリーシートを書くことに失敗した僕(小川哲)は小説を書くことに...というプロローグが、まず引き込まれる。僕の考察が独特でまた面白い。

「三月十日」が好きなお話で、東日本大震災当日の記憶の詳細は誰もが記憶をしているが、前日の記憶は曖昧。前日の記憶を探る僕。平凡な一日を過ごしていた自分を真剣に探るという行為に惹かれたのです笑。確実に存在していたその日の記憶を忘れる。忘却という作用は生きる上でとても重要な役割だと思う。忘却作業と同時に記憶の改ざんという自分に都合の良い処理をするので、過去の記憶は曖昧に変化してしまう。忘却ってご都合主義にも使われるし..笑。わたしの三月十日の記憶は...。

表題作は投資講座や会員向けの有料ブログで儲けた人気のトレーダーの嘘が暴かれ、SNSで炎上した詐欺師(元同級生)の話。悲しい話で、才能という黄金を手にしたい男の哀れな末路とSNSの恐ろしさにため息が出てしまう。余談ですが、炎上について...SNSに書き込む言葉は本当に自分の言葉(思想)としてどのくらい存在してるのか...過激な言葉が日々垂れ流されていて、目にするだけで疲労感が伴う。浅い情報(知識)だけで発信される言葉たち。武器に使われる言葉たち。言葉たちに病んでしまう人たち...と、なんだか疲れます(愚痴ってすみません)。。話を戻すと、元同級生から小説家の僕は「お前の仕事は才能がないとできない」と言われ、「作家はむしろなんの才能もない人間のために存在する職業だ」と答える。小川さんは小説家には社会に進むことができない「人としての欠損」が必要で、たまたま小説をたくさん読んでいたから、書けそうだなと選んだ職業と仰いますが、物語を描くこと、受賞作品を生み出すこと。凡人のわたし(特に読書を好む人間)にとっては素晴らしい才能だと認識したうえで、作家さんのこういう捉え方もあるのかと、面白いなと思うのです。

6つの短編を読み終え、プロローグのエントリーシートの書き方に悩む僕に指針をする恋人の言葉を振り返る。

「エントリーシートに小説を書けばいいのです。就職活動はフィクションです。あなたはフィクションの登場人物です。話が面白ければ別に嘘でもいいのです。真実を書こうとする必要はありません。」

この作品はどこまでが著者の事実でどこからがフィクションなのか。主人公の小説家を自分自身にすることで、より小説家に迫っていくって面白い発想。哲学的で難解なところもありますが、引き込まれていくのは著者の知的な文章と魅力的な思考だと思う。独特な考察をする著者の着眼点も興味深い。ユーモアもあり、真面目さもあり、めんどくささもありで小川哲さんという人物の入門書のよう。とても面白かった。

 

『リカバリー・カバヒコ』 青山 美智子

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。

【感想】

青山さんらしいハートウォーミングの物語。ちょっとつまずいた人の心の浄化本ですね。

成績不振で自信を失う高校男子生。ママ友と馴染めず孤立をしてしまう母親。体調不良で休職中のウェディングプランナー。仮病をして駅伝大会を免れた小学生男子。高齢の母との親子関係に悩む息子夫婦。悩みを抱える人たちがカバのアニマルライドに悩みを打ち明け、自身の心と向き合っていく。。身近な悩みなので、共感する人は多いと思う。どの物語もそっと背中を押してもらえ明日も、がんばろう!という前向きな気持ちになります。カバヒコがかわいい。わたしはカバが大好きなので、カバのアニマルライドがあったら乗りたいなぁ。と、ほっこり心温まる物語ではあるの..ですが..少し残念な感想を..単調な展開に物足りなさを感じる。カバヒコが住民たちの心の拠り所になるほどの存在感というのも薄く(子供ならわかるが、現代人の大人たちがアニマルライドに...違和感がある)、お決まりパターン(セリフも)に苦笑いをしてしまう。いい話だけど、傑作ではないかな。。ハートウォーミングに釘を刺していると心の澱みを披露しているかのような気分になるなぁ...(;^ω^)

しかし青山さんの本は見事に悪い人が登場しないので、疲れた時は安心して読める作品であることは間違いないです。だから負担なく軽やかな気持ちで読めます。大丈夫です(何が?笑)

『星を編む』 凪良 ゆう

 

星を編む

星を編む

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おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

第20回本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』続編。『汝、星のごとく』で語りきれなかった愛の物語。櫂と暁海を支える教師・北原が秘めた過去(「春に翔ぶ」)、櫂の小説『汝、星のごとく』と、櫂と尚人との未完の漫画を刊行するために魂を燃やす編集者・植木と二階堂の物語(「星を編む」)、繋がる未来と新たな愛の形(「波を渡る」)の3編が収録。

【感想】

前作『汝、星のごとく』は2作目の本屋大賞受賞作品となり、会見で本屋大賞への想い、出版社や書店員さんたちへの感謝を涙ながらに語る凪良さんの姿が今でも思い浮かびます。。昨年の2月、前作を読んでいた頃のわたしは自分に降りかかる現実を受け止める余裕がなかったため、櫂と暁海の生きにくさがしんどかった。余裕を失うと生き辛さに苦しみ、悪循環に陥るとこの物語からまざまざと教えられつつ、当時のわたしも余裕がなく、心に鞭を打たれ、苦悩と衝撃に疲労感が残るという。つくづく心の余裕は優しさや思いやりを生み出すのだと、そんなことを思い起こします。それでも続編が出版されたことに喜び、すぐに手元に置きながらも開くことのないまま..先日本屋大賞ノミネート作品発表。。選ばれました(続編も選ばれるのかぁ)

瀬戸内にある小さな島で17歳の櫂と暁海が出会い、親や夢、恋にもがき、駆け抜けた15年の物語(『汝、星のごとく』)..頭の片隅に淡くぼんやりと存在していた二人。続編を読み、鮮明に脳裏に浮かび、懐かしさも混じる中、登場人物たちそれぞれの「生きる」リアリティに深く入り込むことができました。

特に表題作「星を編む」が良かった。櫂と尚人の才能を見出した植木さんの無念さや後悔、櫂の小説刊行に向けて奮闘する二階堂さんの熱い想いに胸打たれるものがある。仕事と家庭の男女の役割や出版社の仕事が描かれていて、特に女性編集長で活躍する二階堂さんの仕事像は現代のはたらく女性たちに突き刺さるのではないかと。そして男性の嫉妬...おぞましい。。一冊の本を作り上げるまでの出版社の仕事には頭が下がります。原作者の生み出す力、最大限に引き出す編集者。「作家と作家の表現を守るのが編集者の仕事だろう」(熱い!)読書好きのわたしは書店員さんを含め、出版に関わる人たちに感謝です。

櫂と暁海を支える北原先生の物語も描かれています。。前作で「正しさなど捨ててしまいなさい。もしくは、選びなさい」先生のお言葉に心の付箋をつけていました。壮絶な人生(ため息が出る決断をします)ではあるが、自分で道を選び、光を見つけ、前進する北原先生だからこそのお言葉なのかと、さらに心に沁みました。

「普通」とは何か?って永遠のテーマのようで、難しい。困難な時ほど、「普通」を追い求めたくなる。澱んだ過去に苦しむ人や、今大きな荷物を背負ってる人、なにげない「普通」の幸せが見えなくなることがある。期待してなかった手作りごはんが美味しかったり、天気予報は曇りだったのに、思いのほか晴れて洗濯物がすっかり乾いてたり、現金支払いがピッタリ払えたり...こんな小さな幸せの積み重ねが背負ってる肩の荷を軽くしていくのかな..。ノミネート作品、優しい本でスタートできて幸せです。スピンの色も優しいピンクで、なんかあったかい💕

『成瀬は天下を取りにいく』 宮島 未奈

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。

【感想】

この話題作の主人公はどうやらとてつもなく面白いらしい。去年ネットで沸かせた「成瀬」という少女の存在を密かに気にしながらも、お祭りムードには乗る気になれないひねくれっぷりが突如現れ、お友達から借りていたにも関わらず、積んだまま年明けに。。最近続編が出るとか、もう出たとか、続編のレビューをちらほら目にするとか。。またも「成瀬」が話題に。。

「成瀬」ってどんな子なの?と表紙をめくると、そこには「ありがとう西武大津店」と書かれたマスクをし、西武ラインオンズのユニフォームに制服のスカートを着た強い意志を感じる眼差しでまっすぐこちらを見つめる少女がいた。その姿を残したまま、物語へ。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」という書き出しにクスっと。。地元のデパート閉店まで毎日通う。。お笑いの頂点を目指し、漫才を始める。。自分の髪で長期実験に取り組む。。そして夢は「二百歳まで生きる」。。可能性を妥協せずに納得のいくまで行動をする。結果ではない。やり始めること。途中でやめてもいいし、続けてもいい。ついつい結果を想像して、行動に躊躇してしまうが、この突き進む成瀬精神が気持ちが良い。成瀬の魅力を最大限に引き上げた島崎さんの存在はかなり大きいと思う(武士道シリーズの西荻早苗のよう)

「成瀬と一緒ならできると思った。わたしはずっと楽しかったよ」

成瀬あかり史を見届け、滋賀をこよなく愛する成瀬ほど熱量のない島崎さんの地元愛も良かった。成瀬あかり史に注目したのはブランチ大津京のもしかめ回数を競う大会で成瀬が四時間過ぎても玉を落とさず優勝した記録。。これはすごい。過去最高82回しかできなかったわたしのけん玉意欲に火が付いた瞬間でした。続編も楽しみにしてます。

『負けるな、届け!』 こかじ さら

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

「社長があなたを嫌っているから」と、25年勤続にもかかわらずいきなりリストラされたかすみ。プライドはずたずた、崖っぷちに立たされたかすみが這い上がるきっかけは、東京マラソンの沿道で縁もゆかりもないランナーたちを応援する友人の姿だった――。独身アラフィフ、無口な夫との生活に飽き飽きしている専業主婦、社内で「客寄せパンダ」的にしか振る舞えない中堅女性社員。それぞれが「人を応援すること」を通し人生を見つめ直していく連作短篇集。読めば元気が出る、疲れた心に贈る栄養剤小説!

【感想】

いつかマラソン大会に出場してみたいなぁという程度の願望を持ちながらふらふらっと走っているわたしにとっては夢のある本でもあり、人生に躓いた人にエールを送る応援本でもありました。応援をする喜びも子供たちの部活を通して実感しているので、共感することも多かった。東京マラソンの応援計画も面白かった。移動方法と所要時間、応援ポイントなど効率的な応援。走りやすい服装や靴など...都営地下鉄内の移動でランナー並みに走るとか、応援側もかなり体力を使うことを初めて知った。頑張ってる人を応援したいという気持ちはわかるし、頑張ってる人から勇気や希望を与えてもらえるのもわかる。応援した日に走りたい!という高揚感からフランスの「メドック・マラソン」にエントリーするかすみの行動力には驚く。準備を入念にしてからじゃないと行動できないわたしは見習いたいところ。ゴールした後のボルドーの高級ワインは美味しいだろうなぁ~🍷わたしも目指せ!ホノルル!と夢を大きく持ち、まずは小さな大会からコツコツと。。やる気があるんだかないんだか笑

『かたばみ』木内 昇

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

「家族に挫折したら、どうすればいいんですか?」
太平洋戦争直前、故郷の岐阜から上京し、日本女子体育専門学校で槍投げ選手として活躍していた山岡悌子は、肩を壊したのをきっかけに引退し、国民学校の代用教員となった。西東京の小金井で教師生活を始めた悌子は、幼馴染みで早稲田大学野球部のエース神代清一と結婚するつもりでいたが、恋に破れ、下宿先の家族に見守られながら生徒と向き合っていく。やがて、女性の生き方もままならない戦後の混乱と高度成長期の中、よんどころない事情で家族を持った悌子の行く末は……。

【感想】

タイトルの「かたばみ」とは道端に生えている雑草。根深く、茎が良く伸び繁殖が早いので駆除に困る厄介な雑草なようで..。酢の物、天ぷらなどで食べられる。酸味が強いようで味はすっぱそうなどなど、気にも留めなかった雑草もこの本を読み終えたときに愛おしく思えてくる。


主人公・悌子は岐阜から上京し、学校で槍投げ選手として東京五輪の出場を目指していたが、戦争で大会中止となり、怪我をきっかけで引退。結婚するつもりでいた憧れの幼馴染との恋に破れ、失恋。傷心の悌子は下宿先の家族と暮らしながら、小学校教師の職に就く。戦中、戦後の子供たちの教育に奮闘する悌子を支える下宿先の家族がとても良い!惣菜店を営む姑のケイと朝子。戦争で片腕を失った朝子の夫・茂樹。朝子夫妻の子供たち。疎開してきた朝子の母・富枝。そして、悌子の夫となる朝子の兄、権蔵。権蔵が憎めないキャラ。好き。恰幅の良い悌子とは反対に虚弱体質。そのため、徴兵を免除され、大学卒業後は定職につかず、世間を気にしながら、ひっそりと生きる。やや卑屈な性格で男子は強く!の世の中で弱音を吐く権蔵の正直に生きる姿が悌子には眩しく見え、夫婦となる。家族愛の背景にある悲惨な戦争。戦中は一億国民総武装と唱えられ、子供たちまでも竹槍を武器に訓練を受けさせられる。理不尽な世界を権蔵は皮肉を言い、正直な気持ちを口にする。自由な発言も禁止された世の中では権蔵は異端児と思われるだろうが、権蔵のような気持ちでいた人は多かっただろう。戦争で奪われた大切な命、あたりまえの日常を取り戻したいという願い、夢や希望を口に出せず、胸に秘めていく人々の先の見えない不安。戦争がいきなり終わりを告げ、戦後の教科書から戦争関連の言葉が黒塗りされ、消されていく。これまで信じていたものを否定されるつらさ。兵士として尊敬していた父親を裏切っていると感じる子供たち。価値観を打ち砕かされていく人々の思いを想像するだけでもとてつもなく胸が痛む。戦争は命だけでなく、たくさんのものを奪っていく。。特に成長過程の子供たちの心の傷を癒しながらの教育は困難だっただろうなぁ。

「教師も親も、子供の手本になろうとする。でもそれは間違いだと思う。人はどこまでいっても未熟で不完全。だから一生懸命生きてる正直な姿を子供たちに見せるほかないように思うのです」

不安が残る戦後を懸命に明るく生きる人々の姿が現代社会でも見習うべき点が多々ある。

血縁がなくても家族になれること。

悌子夫婦はあることがきっかけで、血のつながらない幼児・清太を養子に迎え、父母となる。一生懸命親子関係を築こうとする悌子と権蔵。二人を支える祖母たち、朝子と茂樹、その子供たち。夫婦も嫁姑も血縁はない。それぞれ生活していくうちに関係性を作り、共に成長をし、結びつきを強くしていくことで家族になっていく。血縁があろうがなかろうが、人との結びつきで、受け継がれていくもの、受け継がれないものがある。運動苦手なわたしがランニングや筋トレを始められたのも子供たちから受け継がれたおかげです笑。

「かたばみ」の花言葉に温かいものが胸に広がっていき、ホロリとさせられました。新年に読んでまさかの今年のベスト入り本に出会えるとは幸せ~♪