みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『かたばみ』木内 昇

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

「家族に挫折したら、どうすればいいんですか?」
太平洋戦争直前、故郷の岐阜から上京し、日本女子体育専門学校で槍投げ選手として活躍していた山岡悌子は、肩を壊したのをきっかけに引退し、国民学校の代用教員となった。西東京の小金井で教師生活を始めた悌子は、幼馴染みで早稲田大学野球部のエース神代清一と結婚するつもりでいたが、恋に破れ、下宿先の家族に見守られながら生徒と向き合っていく。やがて、女性の生き方もままならない戦後の混乱と高度成長期の中、よんどころない事情で家族を持った悌子の行く末は……。

【感想】

タイトルの「かたばみ」とは道端に生えている雑草。根深く、茎が良く伸び繁殖が早いので駆除に困る厄介な雑草なようで..。酢の物、天ぷらなどで食べられる。酸味が強いようで味はすっぱそうなどなど、気にも留めなかった雑草もこの本を読み終えたときに愛おしく思えてくる。


主人公・悌子は岐阜から上京し、学校で槍投げ選手として東京五輪の出場を目指していたが、戦争で大会中止となり、怪我をきっかけで引退。結婚するつもりでいた憧れの幼馴染との恋に破れ、失恋。傷心の悌子は下宿先の家族と暮らしながら、小学校教師の職に就く。戦中、戦後の子供たちの教育に奮闘する悌子を支える下宿先の家族がとても良い!惣菜店を営む姑のケイと朝子。戦争で片腕を失った朝子の夫・茂樹。朝子夫妻の子供たち。疎開してきた朝子の母・富枝。そして、悌子の夫となる朝子の兄、権蔵。権蔵が憎めないキャラ。好き。恰幅の良い悌子とは反対に虚弱体質。そのため、徴兵を免除され、大学卒業後は定職につかず、世間を気にしながら、ひっそりと生きる。やや卑屈な性格で男子は強く!の世の中で弱音を吐く権蔵の正直に生きる姿が悌子には眩しく見え、夫婦となる。家族愛の背景にある悲惨な戦争。戦中は一億国民総武装と唱えられ、子供たちまでも竹槍を武器に訓練を受けさせられる。理不尽な世界を権蔵は皮肉を言い、正直な気持ちを口にする。自由な発言も禁止された世の中では権蔵は異端児と思われるだろうが、権蔵のような気持ちでいた人は多かっただろう。戦争で奪われた大切な命、あたりまえの日常を取り戻したいという願い、夢や希望を口に出せず、胸に秘めていく人々の先の見えない不安。戦争がいきなり終わりを告げ、戦後の教科書から戦争関連の言葉が黒塗りされ、消されていく。これまで信じていたものを否定されるつらさ。兵士として尊敬していた父親を裏切っていると感じる子供たち。価値観を打ち砕かされていく人々の思いを想像するだけでもとてつもなく胸が痛む。戦争は命だけでなく、たくさんのものを奪っていく。。特に成長過程の子供たちの心の傷を癒しながらの教育は困難だっただろうなぁ。

「教師も親も、子供の手本になろうとする。でもそれは間違いだと思う。人はどこまでいっても未熟で不完全。だから一生懸命生きてる正直な姿を子供たちに見せるほかないように思うのです」

不安が残る戦後を懸命に明るく生きる人々の姿が現代社会でも見習うべき点が多々ある。

血縁がなくても家族になれること。

悌子夫婦はあることがきっかけで、血のつながらない幼児・清太を養子に迎え、父母となる。一生懸命親子関係を築こうとする悌子と権蔵。二人を支える祖母たち、朝子と茂樹、その子供たち。夫婦も嫁姑も血縁はない。それぞれ生活していくうちに関係性を作り、共に成長をし、結びつきを強くしていくことで家族になっていく。血縁があろうがなかろうが、人との結びつきで、受け継がれていくもの、受け継がれないものがある。運動苦手なわたしがランニングや筋トレを始められたのも子供たちから受け継がれたおかげです笑。

「かたばみ」の花言葉に温かいものが胸に広がっていき、ホロリとさせられました。新年に読んでまさかの今年のベスト入り本に出会えるとは幸せ~♪