みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『きみはいい子』 中脇 初枝

 

([な]9-1)きみはいい子 (ポプラ文庫)

([な]9-1)きみはいい子 (ポプラ文庫)

  • 作者:中脇 初枝
  • 発売日: 2014/04/04
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

17時まで帰ってくるなと言われ校庭で待つ児童と彼を見つめる新任教師の物語をはじめ、娘に手を上げてしまう母親とママ友など、同じ町、同じ雨の日の午後を描く五篇からなる連作短篇集。家族が抱える傷とそこに射すたしかな光を描き出す心を揺さぶる物語。

【感想】

よせあつめの町、よせあつめの家、よせあつめのこども、よせあつめの...と、評されたニュータウンで虐待を受ける子供と新米教師、娘に手をあげてしまう母親とママ友。事情を抱える我が子の友達を見守るPTA会長。戦争で家族を失い、孤独に生きる高齢者と小さな訪問者。虐待で苦しめられた認知症の母を世話する姉妹。表面化されにくい問題をテーマに描かれた連作短編集。

居た堪れない場面があります。理不尽な暴力や連鎖が引き起こす暴力。抵抗できない小さな体で耐える姿には目を覆いたくなる。。「わるい子だから、いい子じゃないから」と自分を責める子供たち。子供はみんな親に愛されたいという一心で毎日を過酷に生きてる。。親に抱きしめてもらう。。たったこれだけでも難しい親子はこの世界にたくさんいると思う。虐待のニュースは後を絶たない。コロナの自粛生活で苦しむ子供たちもいると聞きます。逃げ場の学校を失って。漠然とした感染よりも身近な辛い状況の方が遥かに彼らにとっては脅威なんだろう。。

大人になっても苦しめられる幼少の頃、母から受けた虐待の記憶。子供を愛したいけどうまく愛せない母親の苦しみ。虐待の連鎖を止められない人もいる。。止めてる人もいる。。綺麗事ではなく、こういう事実があるけど、光が射し込む希望があるんだと思いたい。

 

「しあわせってなんだっけ?」

「しあわせは、晩ごはんを食べておふろに入ってふとんに入っておかあさんにおやすみを言ってもらうときの気持ちです」

 

誰でも「ひとりぼっち」は怖い。誰かに寄り添っているだけでたくさんのおかあさんや子供たち、孤独に苦しむ人々を救えるんじゃないかなぁ。どんな不幸な事があっても幸せなひとときの記憶が一生支えてくれる。。幸せな記憶がたくさん増える社会になってほしい。

『カマラとアマラの丘』 初野 晴

 

カマラとアマラの丘

カマラとアマラの丘

  • 作者:初野 晴
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

いずれ迎える別離。それでも一緒にいたかった。廃墟となった遊園地、ここは秘密の動物霊園。奇妙な名前の丘にいわくつきのペットが眠る。弔いのためには、依頼者は墓守の青年と交渉し、一番大切なものを差し出さなければならない。ゴールデンレトリーバー、天才インコ、そして…。彼らの“物語”から、青年が解き明かす真実とは。人と動物のあらゆる絆を描いた、連作ミステリー。

【感想】

四季折々の花が一面に咲く美しい庭園にいくつか名前が付けられた小さな丘がある。ガルム、イシス、カマラとアマラ、シレネッタ、ヴァルキューリ...。その丘にはいわくつきのペットが埋葬されている。埋葬を依頼する人々が語る愛した動物たちの悲しい「物語」。。その語りを静かに聞く動物の心が読める墓守の青年。

 

幻想的な世界で語られる人間と動物のシビアな問題や殺人事件や失踪事件。。なんとも不思議なミステリーでした。掴みどころが難しかったけど、とても読みやすい。

驚いたのは動物にまつわるトリビア。題名にもある「カマラとアマラ」1920年にインドで狼に育てられた少女たちが発見された。野性から人間社会への順応ができず、病死したという悲劇。
愛玩犬は自殺する犬もいる。犬、猫、鳥でもストレスで自分の毛を抜く自傷行為に走る動物がいる(我が愛犬もたまにある(;_;))ひどくなると鬱状態に。人間に過度な愛情を注がれて、敵に襲われなくなった代償だとか。ペットを愛する事も時には危険を孕むのね。。
ネズミの危機管理力。危険な食べ物か仲間に毒味役を立て、毛繕いなどで健康チェック。安全確認をするとは...無闇に食べてるわけじゃないのね。。仲間に伝達する能力もあり、相互学習ができる希少動物(苦手な動物...ビクビクしながら読んだ)
他にも人と動物の刷り込み、異種臓器移植、能力が優れた動物たちの苦悩など興味深い部分もあるが、一貫して動物を扱う人間の傲慢さ、醜悪が強く投げかけられている。

小川洋子さんと堀江敏幸さんの共作『あとは切手を、一枚貼るだけ』(『あとは切手を、一枚貼るだけ』 小川 洋子 堀江 敏幸 - みみの無趣味な故に・・・)の動物実験をされた動物たちの話を思い出す。神話では人間、動物、植物の融合した生き物が存在し、分け隔てなく生きていた。。のちに人間以外は言葉を失い、人間に利用される存在となる。。感情のない生き物と人間の都合の良い考えによって...。人間の固定観念や解釈によって決められてしまう事。人間社会でも苦しめられることはあるが、物言わぬ動物たちの心はいかなるものか。。

動物とコミュニケーションができる青年が訴える命の不平等さ、責任が動物からの悲しいメッセージのようで、ザワッとしたり、モヤっとしたり不思議な印象を残すお話でした。

『活版印刷 三日月堂 雲の日記帳』 ほしお さなえ

 

活版印刷三日月堂 雲の日記帳 (ポプラ文庫)

活版印刷三日月堂 雲の日記帳 (ポプラ文庫)

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

小さな活版印刷所「三日月堂」。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記韻や、言えなかった言葉。仕事を続ける中で、弓子が見つけた「自分の想い」と、「三日月堂の夢」とは―。感動の涙が止まらない、大人気シリーズ完結編!

【感想】

活版印刷三日月堂と川越の地域の人たちで紡がれる物語。ついに完結篇!前作で三日月堂の転機が訪れ、弓子の夢への飛躍を感じられる予感。ぜひ前作を読んでから読んでほしい。

前作の感想(『活版印刷 三日月堂 庭のアルバム』 ほしお さなえ - みみの無趣味な故に・・・

 

「星をつなぐ線」本町印刷埼玉支社(前作の「川の合流する場所で」に出てくる盛岡の印刷所本社の埼玉支社)はプラネタリウム星空館から創業当時に販売された星座早見盤の復刻版の作製依頼を受ける。木口木版という手法で活版印刷の時代に作られた星座早見盤。。後輩の悠生(←前作に登場)が三日月堂に通ってると聞き...。

 

「街の木の地図」メディア表現のゼミ生が3人のグループで行う春休み課題。今年の課題は川越の街を取材し、雑誌を作り、販売する。つぐみはゼミの中で最も苦手な二人、自信家の草壁くんと病弱で繊細な安西さんとグループにさせられ、憂鬱になる。草壁くんに振り回されながら、川越にある三日月堂で雑誌作りをすることに。二人の意外な一面を知り、つぐみの心は揺れ動く...。

 

「雲の日記帳」古書店浮草の店主・水上は毎月浮草だよりというリーフレットを出している。おすすめ本の紹介のあとがき「雲日記」に水上は雲の思い出を書き綴けていた。ある日、大学時代の文芸部仲間の岩倉が訪れる。小さな出版社を営む岩倉は浮草だよりの雲日記を読み、水上の本を作りたいと申し出る。。水上は過去の苦い記憶を思い出し、断るが...。

 

「三日月堂の夢」イワクラ出版の岩倉から水上の書いた「雲日記」の本を活版印刷で作りたいと依頼が来る。本を作る夢を持つ弓子は喜びもあるが、不安も。現実的に考えると不可能に近い。。人手が必要となる本作りに弓子に関わった人達が協力して一冊の本を作る...。

 

今作はまさに集大成。

それぞれ立場が違う人々が人生の岐路に立ち、もがき、悩み、迷う。。悩み迷える人たちが三日月堂に訪れ、活字を通して、言葉に触れ、人と繋がり、自分と向き合い、前進していく姿が清々しい。天涯孤独だった店主・月野弓子の元に川越の地域の温かい人たちが集まり、かつての三日月堂の活気に戻った時の弓子の感慨深さにわたしも心躍り、静かに感動が押し寄せてきた。

人の想いは儚い。言葉という形で残していく事で心が繋がれていく。。

「言葉にも根っこがあるのかもしれない。」

木のように目に見える部分だけではなく、土の中にも広がりがあり、根っこと出会い、からまりあっていく。。聞いた言葉の意味は見える部分だけではない。どんな真意が隠されているのか...深いなぁ。

「水は地球を巡る。雨や雪となり、地上に流れ、海になり、雲になる。生き物の身体も水でできてる。人が生きるのは、雲になる練習のようなものかもしれない」

儚い一生のうちに、どれだけ何かに熱く打ち込める事ができるのだろうか?身体を喪ってもわたしだった魂のかけらが世界のどこかに残ってるのは、とても幸せだろうなぁと温かい気持ちが広がってきます。

三日月堂の「過去」と「未来」の番外編もあります。まだまだ楽しみだぁ〜(((o(*゚▽゚*)o)))...の前に第一弾を再読しちゃう。完結篇に懐かしい人々が登場したので、読みたくなっちゃう。

『活版印刷三日月堂』 ほしお さなえ - みみの無趣味な故に・・・

『活版印刷 三日月堂 庭のアルバム』 ほしお さなえ

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い。しかし三日月堂を続けていく中で、弓子自身も考えるところがあり…。転機を迎える、大好評シリーズ第三弾!

【感想】

今作も悩みを抱えた人たちが活版印刷に触れ、誰にも言えない心のわだかまりが解されて、前向きになれる優しい物語に心温まりましょう。

前作の感想(『活版印刷 三日月 海からの手紙』 ほしお さなえ - みみの無趣味な故に・・・

 

「チケットと昆布巻き」旅行雑誌の小さな出版社で編集者として働く竹野。大手勤めの大学同期たちと比べ、劣等感に苛まれる。。川越特集の取材で三日月堂の店主・弓子と出会い、時代錯誤な印刷業でひたむきに仕事をする弓子の姿から仕事への考え方が変わっていく...。

 

「カナコの歌」ふと手にした雑誌の川越特集。そこに載っていた親友に似た女性..。幼い子供を残して亡くなった親友カナコの娘、月野弓子だった。弓子に会いに三日月堂へ。カナコとの思い出や大学時代から認めたカナコの短歌を懐かしむ聡子は、もう一人の親友との苦い別れに後悔を募らせる..。母の旧友たちとの出会いで弓子はある気持ちが芽生え、さらに成長していく。

 

「庭のアルバム」学校生活、友達、美術部とトラブルなく過ごす楓は漠然とした不安や居心地の悪さを感じ、不登校に。家に飾られた短歌のカードの文字に興味を抱き、活版体験をしに三日月堂へ訪れる。弓子から活版印刷のイベントで楓が祖母の庭で描いた花の絵と異名を添えた植物のカードを販売する案を持ち出され、バイトをすることに。。

 

「川の合流する場所で」神保町で開催されている活版印刷イベントに盛岡で印刷所を営んでいる大叔父を連れて、見学する悠生は三日月堂の月野弓子と知り合う。お店の動かない古い平台(大型印刷機)と同機種を持つ大叔父に操作を教えてもらうため盛岡の印刷所に訪れる弓子の活版印刷への想いや打ち込む姿勢に心が揺さぶられていく悠生...。

 

自己評価や他人との比較で劣等感や自信喪失に陥り、ズドンと心暗くなるお悩みを抱えた人たち。。弓子の活字に対する仕事の打ち込み方に胸熱ものを感じ、重荷を下ろして、明るい光が射し込むのが、こちらまで心軽やかになった気分。。

弓子が盛岡で読む詩「踊」の一節。

「きつく死をみつめた私のこころは桃子がおどるのを見てうれしかった」

死に向かって歩いていた人の言葉なのに、美しくて、ただ澄んでいて、しんと明るかった。言葉に向き合わなければ、わからなかった。

心に響く言葉は心境や感情によってその時々で変化をするけど、ずっと心に留めたい言葉はある。言葉は素晴らしい。

今作では母の旧友との出会いにより、弓子の背景やルーツが明かされ、幼い頃に亡くした母の思い出や故郷に触れ、弓子の感情や思い描く未来や夢が伝わり、グッと存在感が増しました。今までは語り手である依頼者に寄り添う存在だったので、どちらかというと、脇役に徹してる感じがしたのですが、最後の物語(この話が一番良かった)は三日月堂の転機、活版印刷への熱意、幅の広がりを感じられる。弓子の人生にも変化がありそうな予感に次巻が楽しみで仕方がない。。

『活版印刷 三日月堂 海からの手紙』 ほしお さなえ

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。物静かな店主・弓子が活字を拾い、丁寧に刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い……。活字と言葉の温かみに、優しい涙が流れる感動作。

【感想】

シリーズ第二弾。またホロッとさせられるかなぁ。。

前作の感想→『活版印刷三日月堂 星たちの栞』 ほしお さなえ - みみの無趣味な故に・・・

 

「ちょうちょうの朗読会」朗読講座の生徒たちが朗読会に参加。図書館司書の小穂は仲間たち4人とあまんきみこさんの「白いぼうし」に挑戦。それぞれの声を送り出す初の朗読会。プログラムを活版印刷で作ることに...。

 

「あわゆきのあと」小学五年生の広太は担任から教わった活版印刷が気になり、三日月堂へ。壁一面木の棚に並ぶ活字に心奪われる。。父から「実は...広太には、お姉さんがいたんだ」と告げられ、生まれて三日で亡くなった姉「あわゆき」の存在を知り、死というものは?生きるということは?と思い悩む...。

 

「海からの手紙」恋人と別れた昌代はいとこの子供から白い名刺をもらった時に「活版印刷」という言葉に惹かれ、三日月堂に訪れる。活字や印刷機に触れ、大学で学んだ銅版画を思い起こす。弓子と銅版画と活版印刷を組み合わせた豆本を制作する。弓子との共同制作を進める内に、意外な人の過去と自分の過去を振り返る...。

 

「我らの西部劇」心臓発作を起こし、一命を取り留めたが、会社復帰はできず、無職に。妻と子供二人を連れ、実家で暮らすことに。懐かしい町を歩くと古本屋さんで豆本を手にする。そこには、子供の頃、ライターだった父と訪れた三日月堂の名前が。。かつての父子の確執と今の息子との葛藤。活版印刷に残された父の原稿に知られざる父の素顔が...。

 

どの話も、温かいものが込み上がり、涙が溢れる。。引っ込み思案の小穂が朗読会で役の気持ちを汲み取れず苦悩し、葛藤しながら、自分らしさ、自分でいいんだと思えた時、自分に重ね合わせ、スッと心が軽くなる。たった3日しか生きられなかった姉の存在に「生と死」への不安に駆られる広太の家族への優しさに涙したなぁ。精一杯生きた命を忘れたくないね。。三日月堂の懐かしい雰囲気や活字、印刷機の音、インクの匂いが過去に回帰して、忘れていたほろ苦い記憶が蘇り、活字の温かい言葉に心解され、過去の自分と決別し、新たな自分と前へ進んでいく。。

 

「海からの手紙」の一文に「もう元に戻れない。生きることはいつも一方通行だ」と書かれている。この言葉が心に染みる。過去の自分と今の自分でひとつのことに取り組む事で今までの価値観や生き方がガラリと変わる瞬間がある。

世界がウィルス感染防止の為、外出自粛をしている今現在、日々変わりゆく社会から離れ、家で過ごす時間。。今までの生活習慣が変わり、価値観や意識が大きく変わってきた。不便な生活を強いられた今だからこそ、古き良き時代に触れ、新しい生き方を見出していく。。三日月堂に訪れるとこんな気持ちになるのかもしれない。。

『ダイナー』 平山 夢明

 

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

  • 作者:平山夢明
  • 発売日: 2019/03/29
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

ひょんなことから、プロの殺し屋が集う会員制ダイナーでウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。
そこを訪れる客は、みな心に深いトラウマを抱えていた。一筋縄ではいかない凶悪な客ばかりを相手に、 カナコは生き延びることができるのか? 次々と現れる奇妙な殺し屋たち、命がけの恋──。

人の「狂気」「恐怖」を描いて当代随一の平山夢明が放つ、長編ノワール小説。

【感想】

平山夢明さんの雑誌インタビューを読むたびにしばしば興味を抱いていました。抱いていたけど、本を手に取る事までの勇気がなく、おかしな発想力や着眼点、可愛らしい笑顔に惹かれているだけで留まっていました。ついに、美味しそうなハンバーガーにも惹かれ、手に取ったのが...数年前。。温め温め、ようやく読んだ。

冒頭の暴力シーンに驚愕し、読む気力を一気に失わせる「狂気」。。期待通り、いや期待以上である。。どうにか乗り越えたら、美味しいお料理が待っていた。。しかし贅沢な高級ハンバーガーの添え物は常に暴力。。残酷とくだらなさのトッピング。ウェイトレスとして働くオオバカナコの果てしない地獄のサバイバル。。だって気に入らなくて殺す奴もいれば、気に入って殺す奴もいる。。お客様は皆怪物。。生き抜きしてたら瞬殺されそう。。恐怖の極限状態でハンバーガーに喰らい付くカナコ。。常に最後の晩餐状態。。とても恐ろしくとても魅惑的で、どんなお味か?想像を掻き立てられる。。来店する凶悪な殺し屋たちのトラウマも心抉られるほど壮絶。。圧倒される暴力描写から悲しみが滲み出る。。なぜこれほどまでに悲しい人間を作り出すのだろう。。破茶滅茶な殺し屋たちの真っ直ぐな生き様に迂闊にも心打たれてしまった。。

凄まじい暴力の数々に一気に読む事はできず、時間をかけて読んだけど、一気に駆け抜けた気持ちになった。。暴力もお料理も人間も、そしてユーモアに対する作者の筆力に圧倒されっぱなしでした。面白い表現力に感嘆しちゃう。。強烈な平山ワールドに吸い込まれました。生命力が上がったような気がする笑。

『よこみち余話』 木内 昇

 

よこまち余話 (中公文庫 (き37-2))

よこまち余話 (中公文庫 (き37-2))

  • 作者:木内 昇
  • 発売日: 2019/05/23
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

その路地は秘密を抱いている。ここは、「この世」の境が溶け出す場所。お針子の齣江、“影”と話す少年、皮肉屋の老婆らが暮らす長屋。あやかしの鈴が響くとき、押し入れに芸者が現れ、天狗がお告げをもたらす。

【感想】

お針子の齣江が暮らす長屋の住人たちが織りなす連作短編集。。実家の糸屋を継ぐ頼りない跡取り息子、魚屋の兄弟・浩一と小学生の浩三、齣江の家に入り浸る皮肉屋老婆・トメさんや雨降らしと呼ばれる謎の男、昆虫採集部の遠野さん、妖怪や天狗も登場。。住人たちの日常と浮世離れをした幻想が混ざり合う不思議な世界には何か秘密が隠されてるみたい。

職人、商売人の大切な心得も教えてくれる。。特に質屋の話が好きです。口数が少なく愛想がない質屋の主人は梅雨を好む。町で客とすれ違っても傘で顔を隠して知らぬふりができるから。客に気まずい思いをさせない主人の計らい。痺れる〜。

さて影と話せる浩三が踏み込んでしまった世界。。秘密が見え隠れしてくると、切なくて寂しさが募る。この世界に長く浸りたい思いのままラストへ。。読後は余韻を引きずる。温かい余韻です。。秘密を抱えて、読み返してみた。齣江やトメさんの言葉をもう一度振り返ると、儚さに胸打たれ、より深く刻まれていく。この世にあるものはみんな、本当は実体がなくて空じゃないの。。こういうのも好きです。