みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『透明な夜の香り』千早 茜

 

透明な夜の香り

透明な夜の香り

  • 作者:千早 茜
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

香りは、永遠に記憶される。きみの命が終わるまで。

元・書店員の一香(いちか)がはじめた新しいアルバイトは、古い洋館の家事手伝い。 その洋館では、調香師の小川朔が、オーダーメイドで客の望む「香り」を作る仕事をしていた。人並み外れた嗅覚を持つ朔のもとには、誰にも言えない秘密を抱えた女性や、失踪した娘の手がかりを求める親など、事情を抱えた依頼人が次々訪れる。一香は朔の近くにいるうちに、彼の天才であるがゆえの「孤独」に気づきはじめていた――。
「香り」にまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。

【感想】

高台にある森に囲まれた古い洋館。様々な植物が生育する庭園。人を寄せ付けない謎多き天才調香師・小川朔。心に傷を負い、秘密を抱える家政婦・若宮一香。仕事の仲介役兼探偵・新城(柄が悪いけど、朔の理解者。結構好き)。庭園管理人・源さん。洋館に訪れる事情を抱えた一筋縄ではいかない依頼人たち。。うわぁ〜非現実的な世界〜こういうの大好き💕

朔は嗅覚が鋭く、あらゆる匂いを記憶し、全てを読み取り(人の体臭から病気、年齢、感情、生還習慣、嘘までも見破ってしまうほど)人間の裏側を嗅覚で感じ取ってしまう。依頼される香りも様々。幸せな香りもあれば、危険な香りも。。お互いの孤独を感じ取る朔と一香の二人の関係も...気になる...が、朔の声がとっても気になる。。一香曰く「深い紺色の声」..どんな声だろ?想像しながら読んでみた。。午後の陽だまりの中、深みのある穏やかな紺色の声で香料の蘊蓄話...聞いてみたい。

想像を掻き立てる香りの数々。。
ハーブやスパイスを使ったお料理やお茶も美味しそう。嗅覚が鋭くなっていきそう(一香も鋭くなってた)
恐ろしく上品な香り。嗅いでしまったら後戻りができない最高級のイリスの香り。。欲しい。

彼の色に染まるのではなく、彼の好みの匂いに染められていく。。\(//∇//)\キャーって頭の中で蝶が飛んでる気分になりましたが、香りが永遠に記憶され、人の心の香りを感じ取ってしまうのは苦しみが募ると思う。。繊細で傷つきやすい朔の心の変化や朔を受け止める優しい人々に救われます。ラストは素敵な香りを残してくれました🌹

 

『名作文学に見る「家」謎とロマン編』 小幡 陽次郎 横島 誠司

 

おすすめ  ★★★★☆

【内容紹介】

「夢想大工」を自称する読書家と建築家が、日本と世界の傑作から、その舞台となった「家」や「店」などのイメージを読みとって、具体的に間取り図を描きおこしてみせる。空想の翼を広げる喜び、自分の想像していた空間と比べてみる面白さ…名作を二度楽しみたい人のための、楽しい文学ガイド。

 

【感想】

文学と建築。。どちらも興味深い。

ある大学の建築学科は吉本ばななさんの『キッチン』を学生に読ませて、登場するマンションの間取り図を描かせるという課題を出したそうです。面白い。この本は読書好きの建築家・横島誠司さんが文学から架空の建材で仮想の家を建てる幻の住宅集です。文の担当が小幡陽次郎さん。図の担当が横島さん。名作に出てくる家はどんな家なんだろう?

 

最初に作品のあらすじが紹介されます。次に家の情報が書き出され、それを元に作図をします。作図ポイントも書かれ、意外な発見あり。

スティーヴンソン『ジーキル博士とハイド氏』の博士の二面性が現れる不気味な間取り。江戸川乱歩『怪人二十面相』の怪人の地下美術館は豪華。カフカ『変身』のカフカのもがく姿が目に浮かぶ檻のような部屋。オールコット『若草物語』の四姉妹が育った家はあまり裕福ではないが温かみのある柔らかさを感じる家などなど。30棟程の住宅が紹介されています。

住宅描写を忠実に設計していますが、登場人物の暮らし、風土、心情も取り入れた家づくりになっています。間取り図を見ながら、どういう暮らしをしていたのか...ここであんな事件が?と想像すると作品も更に楽しめますね。

読んでみたい名作が増えました。佐藤春夫『西班牙犬の家』は夢見心地になることの好きな人々のための短編だそうです(夢見心地大好き)パールバック『大地』はノーベル文学賞、ピュリッツァー賞の栄誉に輝く本。一族の三世代にわたる盛衰を雄大に描いた作品。モーパッサン『女の一生』薄幸の女性の一生を描きながら、ある家の生涯も綴った(胸が張り裂けそう)山本周五郎『さぶ』(あらすじを読んだだけで泣けてきた)

わたしの住みたいお家は田辺聖子『夜あけのさよなら』の須磨のバラ屋敷。バラ風呂に入って窓から庭が見えて夢見心地になれるようです。(夢見心地大好き笑)

 

『ザリガニの鳴くところ』 ディーリア・オーエンズ

 

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。 6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。 以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。 しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…… 。
みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。

【感想】

素晴らしかった。湿地を深く考えたこともないけど、湿地の自然描写が美しく、緩やかに流れる川、水面の陽光、棲息する生物たちの生々しい姿や声、生態全てが興味深く、静寂な湿地に魅力を感じる。。

1969年に湿地で青年の死体が発見され、湿地に住む少女が関与を疑われる事件と1952年から広大な湿地で家族に見捨てられ、たった一人で生きる少女の成長譚。二つの物語から構成される。

「湿地の少女」と呼ばれるカイアは文字も読めず、知恵もないが、飢えを凌ぐ為に生きることで精一杯。母がいつか帰ってくるという希望と笑い合った家族との思い出を胸に。。船着場の黒人夫妻や幼馴染みが遠くから温かく見守り、カイアを支えていく優しさに安堵も広がる。思春期から大人になる多感期は感情が揺さぶられ、胸が締め付けられた。圧倒される深い孤独から衝き動かされる本能と求める愛。。辛い辛い辛い。。成長したカイアと事件が絡み合っていくにつれ、心震える不安が押し寄せてくるけど、最後まで止まらなかった。。

善悪の判断など無用で、悪意はなく、あるのはただ拍動する命だけ。差別や偏見、環境問題と...残酷さが自然を生きる厳しさを物語る。。ただカイアの湿地や生物、草花、ひとつひとつに対する生き生きとした感性が美しく、愛おしい。。

作者(70歳)は動物学者でこの作品で作家デビュー。。読み手をここまで惹きつけられる描写に静かに感動してます。

『復活の日』

 

復活の日

復活の日

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

1982年 秋 世界は死滅した。南極大陸に863名を残して...。から始まり、前半は死滅していく世界が描かれる。

偶然作られた細菌兵器(MM-88)を巡る各国の争い。搬送したヘリコプターがアルプスの山岳地帯で墜落。(色々、突っ込みたくなる展開)

気温上昇により爆発的に増殖する特性を持つウィルス。スピード感染で世界は大パニック。見えないウイルスは徐々に生態系を壊しはじめ、なすすべもなく、人類も次々に命を奪われていく。ウィルスだけではなく、絶望で自死をする人間も。。南極の各国基地に唯一ウィルスの脅威もなく生存する部隊が最期の人類の生き残りとして、希望を託し、大統領は南極基地の外出禁止、外からの侵入禁止命令。最後の大統領令です。

ウィルスの危機から逃れても、人間たちの争いが...。863名の中で女性は8名のみ。男性からの性暴行多発。。女性は生命を生む貴重な資源として、政府が性交渉管理。。女は産む機械って表現...ひどい。。新しい命に喜ぶ男性と身籠る女性たちの暗い表情。。このギャップ...居た堪れない。

そんな状況で新たな脅威が...。ワシントンで大地震が発生すると予知される。ちなみに主役の甘いマスク草刈正雄さんは日本の地震学者・吉住を演じてます。さてさて、南極ではざわつきが。。なぜなら、アメリカの自動報復装置が作動されたら、世界各地に核ミサイルが発射される。。恐ろしい!戦争はほんといい事ないわ。

装置発動を阻止するために決死隊として参加した吉住。。あともう少しのところで、大地震発生。。吉住‼︎あともう少しでスイッチーーというところで、発射。。あぁぁ。絶望的だわ。。吉住、失敗報告。無念。

 

「世界は二度死んだ」

 

ラスト15分がさらに怖いの。。世界に取り残された吉住はどこに向かうのか...。

 

あらゆる危機を乗り越えて、希望に向かう人間の力強さは感じた。。南極の風景が美しい。。草刈正雄さんの顔が甘い。。夏八木勲さんの英語が綺麗。。今の時代だったら世界滅亡を阻止できるだろうなぁと朝からツッコみどころ満載の昭和映画を見て、平和を願うのでした。

 

 

 

『神さまのビオトープ』 凪良 ゆう

 

神さまのビオトープ (講談社タイガ)

神さまのビオトープ (講談社タイガ)

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

うる波は、事故死した夫「鹿野くん」の幽霊と一緒に暮らしている。彼の存在は秘密にしていたが、大学の後輩で恋人どうしの佐々と千花に知られてしまう。うる波が事実を打ち明けて程なく佐々は不審な死を遂げる。遺された千花が秘匿するある事情とは?機械の親友を持つ少年、小さな子どもを一途に愛する青年など、密やかな愛情がこぼれ落ちる瞬間をとらえた四編の救済の物語。

【感想】

一話一話読むごとに寂しさと幸せが入り混じる不思議な感覚。。幸せのカタチは誰にも理解されなくても、自分が幸せなら、それがその人の幸せのカタチ。。心は自由で阻むものではない。。なんて静かに心に響かせてくれるんだろう。

2020年の本屋大賞受賞した凪良ゆうさん。受賞作品の『流浪の月』を読みました。衝撃的でしたが、言葉が入り込む。心に何かを残してくれる。。本作も文章が心地よく、異形な愛のカタチから、それぞれの完結した愛を感じられました。

本は本屋大賞の影響か入荷待ちだったので、電子書籍で読みました。入荷待ってます。本が届いたら再読したい。

 

『罪のあとさき』 畑野 智美

 

罪のあとさき (双葉文庫)

罪のあとさき (双葉文庫)

  • 作者:畑野 智美
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

ある事情からカフェでアルバイトをしている楓は、中学時代の同級生・正雄と再会する。 正雄はカフェで使う家具を製作する工房で働いているのだが、かつて、同じ中学の同級生を殺害していた。 「連絡をください」という正雄に楓の気持ちは揺れる。
――楓が語る「現在」と、正雄が語る「過去」。それらが重なるとき、新たな世界が生まれる。 少年犯罪を通して描く、命と旅立ちの物語。

【感想】

楓が語る現在。再会した正雄はとても真面目で優しくて少し幼さを感じるが安心感のある人物。元彼から執拗なストーカー被害を受けた恐怖と辛い出来事を背負う楓は正雄に惹かれていく。

正雄が語る過去。家族関係に苦悩し、将来の不安を抱えながら、友情、初恋に思い巡らせる日々。。衝動(事件)まで、正雄の精神状態が心配になるほど、切ない。

 

少年犯罪加害者のその後。とても重いテーマですが、淡々として全体的に軽やかでした。ストーカー行為や暴力描写があるので、不快感はあります(わたしは心塞ぎ込んだので、女性は厳しいかもしれない)

 

現在部分(特にラストの部分)があっさりして残念。加害者家族の心情や楓がなぜ惹かれていくのかが少し曖昧。守るべき命への想いと覚悟など、もう少し掘り下げて欲しい部分が多かった。。殺意と実行。。実行するのはどんな事情でも美化する事でないなぁと思いましたが、2人の幸せは明るい未来であって欲しいと強く思います。

『BUTTER』 柚木 麻子

 

BUTTER

BUTTER

  • 作者:柚木麻子
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。

【感想】

なんてカロリーの高い物語なんだろうか。。

スタイルを維持するストイックな女性記者・里佳、里佳に憧れる親友・伶子。二人の友情が梶井真奈子との関わりにより大きく変えられていく。。梶井の容姿は決して美しいわけではないのに男性から貢がれ、愛され、女性としての自信に満ち溢れてる。拘置所の中でも輝きが失せない彼女の魅力は何なのか?里佳は梶井と面会を重ねるうちに梶井に薦められるレシピで手料理をし、指定されたお店で食事をし、食生活、スタイル、心情が徐々に変化し、梶井に心酔していく。そんな里佳に戸惑い、苛立ち、不安を抱える伶子。。人の心を暴く側が梶井に心を操られ、抉られていく。。女性として不足してるものは?女性らしさの正解は?生き方を見失ってしまった女性たちの複雑な心情にはヒリヒリさせられるが、傷ついても、ドン底に落ちても、環境を整えていく。やはり女性は強くてたくましいわ。

ところで、タイトルにもなってますが上質バターをたっぷり使った料理が出てきます。こってりとした濃厚な描写が、想像をかき立てられ、食欲が湧き立つ。読後にグラタンを作りました。バターましましで笑。エシレバター醤油ごはんが食べたい。

 

梶井真奈子のモデルでもある木嶋佳苗(本人は納得行かずに憤慨したようです)に関する書記の感想はコチラ↓

『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』 北原 みのり - みみの無趣味な故に・・・