みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『あとは切手を、一枚貼るだけ』 小川 洋子 堀江 敏幸

 

あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)

あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)

 

おすすめ ★★★★★(実は4.5)

【内容紹介】

かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話…そして二人を隔てた、取りかえしのつかない出来事。14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。届くはずのない光を綴る、奇跡のような物語。

【感想】

かつて愛し合った男女の往復書簡。。まぶたを閉じて生きると決めた「私」と失明をした「ぼく」。。

「14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。。」という帯を読み、哀しい秘密とは?2人のあいだで起きた取り返しのつかない出来事とは?という謎に気づきたいという気持ちで2人の手紙を読み続けているうちに、、現実的な日常さえも幻想的な美しい世界に浸ってしまい、、まるで詩のような文章に急き立てられていた気持ちが収まり、、ゆっくりと焦らずに静謐な世界にだただ浸っていくばかり。。

「ぼく」が打つタイプライターの音。それを聴きながら編み物をする「私」。。「アンネの日記」や人工衛星で打ち上げられたライカ犬やパブロフの犬などの動物実験、まどみちおの詩、ユダヤの民の歌などの様々な知識と2人の思い出が織り交ぜ、、とても深く静かなやりとりが湖上の舟のようにふわふわと浮かび、オールを見事に漕ぐ「ぼく」の安心感に包まれていく幸せ。。だけど、2人は決して同じ舟には乗れない。

 

「目でなら さわっても いい?」
まぶたを閉じて、裏側で優しく撫でる。。まぶたはそれを許される場所。。胸がキュッとなる。。

 

「私」の時折見せる小悪魔的な気の強さと儚さ、閉じ込められた想い。。「ぼく」の柔らかい優しさ。。愛し合っていた二人の情景がひしひし伝わる。。二人の間に宿った小さな命への罪を背負うかのように、目を閉じた「私」はまぶたの裏側で思いのゆくまま生きていくのだろう。。

読み終わってから、もう一度、気になる箇所を読み返す。。また違う景色が見える。。今、慌ただしい日々の隙間に静かな世界とタイプライターの音を楽しみたい。。心地よすぎて、、寝てしまうこともしばしばだけど、、美しい結晶を眺めてるようでした。。

 

余談ですが、、わたしは中学生の時、タイプライター部に所属してました(めちゃマイナー笑)。。地味だけど、文字を打つ力強い音。。「私」が様々な音を聴きながら、、「限りのあるキーの数で無限の森へ旅立ってゆく」「打った人の証拠となる足跡を残さないズルさ」(鉛筆との比較)など表現していました。。タイプライターの思い出を読みながら、小川洋子さんの表現力、想像力の素晴らしさを改めて感じました。。