みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『よこみち余話』 木内 昇

 

よこまち余話 (中公文庫 (き37-2))

よこまち余話 (中公文庫 (き37-2))

  • 作者:木内 昇
  • 発売日: 2019/05/23
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

その路地は秘密を抱いている。ここは、「この世」の境が溶け出す場所。お針子の齣江、“影”と話す少年、皮肉屋の老婆らが暮らす長屋。あやかしの鈴が響くとき、押し入れに芸者が現れ、天狗がお告げをもたらす。

【感想】

お針子の齣江が暮らす長屋の住人たちが織りなす連作短編集。。実家の糸屋を継ぐ頼りない跡取り息子、魚屋の兄弟・浩一と小学生の浩三、齣江の家に入り浸る皮肉屋老婆・トメさんや雨降らしと呼ばれる謎の男、昆虫採集部の遠野さん、妖怪や天狗も登場。。住人たちの日常と浮世離れをした幻想が混ざり合う不思議な世界には何か秘密が隠されてるみたい。

職人、商売人の大切な心得も教えてくれる。。特に質屋の話が好きです。口数が少なく愛想がない質屋の主人は梅雨を好む。町で客とすれ違っても傘で顔を隠して知らぬふりができるから。客に気まずい思いをさせない主人の計らい。痺れる〜。

さて影と話せる浩三が踏み込んでしまった世界。。秘密が見え隠れしてくると、切なくて寂しさが募る。この世界に長く浸りたい思いのままラストへ。。読後は余韻を引きずる。温かい余韻です。。秘密を抱えて、読み返してみた。齣江やトメさんの言葉をもう一度振り返ると、儚さに胸打たれ、より深く刻まれていく。この世にあるものはみんな、本当は実体がなくて空じゃないの。。こういうのも好きです。