おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い。しかし三日月堂を続けていく中で、弓子自身も考えるところがあり…。転機を迎える、大好評シリーズ第三弾!
【感想】
今作も悩みを抱えた人たちが活版印刷に触れ、誰にも言えない心のわだかまりが解されて、前向きになれる優しい物語に心温まりましょう。
前作の感想(『活版印刷 三日月 海からの手紙』 ほしお さなえ - みみの無趣味な故に・・・)
「チケットと昆布巻き」旅行雑誌の小さな出版社で編集者として働く竹野。大手勤めの大学同期たちと比べ、劣等感に苛まれる。。川越特集の取材で三日月堂の店主・弓子と出会い、時代錯誤な印刷業でひたむきに仕事をする弓子の姿から仕事への考え方が変わっていく...。
「カナコの歌」ふと手にした雑誌の川越特集。そこに載っていた親友に似た女性..。幼い子供を残して亡くなった親友カナコの娘、月野弓子だった。弓子に会いに三日月堂へ。カナコとの思い出や大学時代から認めたカナコの短歌を懐かしむ聡子は、もう一人の親友との苦い別れに後悔を募らせる..。母の旧友たちとの出会いで弓子はある気持ちが芽生え、さらに成長していく。
「庭のアルバム」学校生活、友達、美術部とトラブルなく過ごす楓は漠然とした不安や居心地の悪さを感じ、不登校に。家に飾られた短歌のカードの文字に興味を抱き、活版体験をしに三日月堂へ訪れる。弓子から活版印刷のイベントで楓が祖母の庭で描いた花の絵と異名を添えた植物のカードを販売する案を持ち出され、バイトをすることに。。
「川の合流する場所で」神保町で開催されている活版印刷イベントに盛岡で印刷所を営んでいる大叔父を連れて、見学する悠生は三日月堂の月野弓子と知り合う。お店の動かない古い平台(大型印刷機)と同機種を持つ大叔父に操作を教えてもらうため盛岡の印刷所に訪れる弓子の活版印刷への想いや打ち込む姿勢に心が揺さぶられていく悠生...。
自己評価や他人との比較で劣等感や自信喪失に陥り、ズドンと心暗くなるお悩みを抱えた人たち。。弓子の活字に対する仕事の打ち込み方に胸熱ものを感じ、重荷を下ろして、明るい光が射し込むのが、こちらまで心軽やかになった気分。。
弓子が盛岡で読む詩「踊」の一節。
「きつく死をみつめた私のこころは桃子がおどるのを見てうれしかった」
死に向かって歩いていた人の言葉なのに、美しくて、ただ澄んでいて、しんと明るかった。言葉に向き合わなければ、わからなかった。
心に響く言葉は心境や感情によってその時々で変化をするけど、ずっと心に留めたい言葉はある。言葉は素晴らしい。
今作では母の旧友との出会いにより、弓子の背景やルーツが明かされ、幼い頃に亡くした母の思い出や故郷に触れ、弓子の感情や思い描く未来や夢が伝わり、グッと存在感が増しました。今までは語り手である依頼者に寄り添う存在だったので、どちらかというと、脇役に徹してる感じがしたのですが、最後の物語(この話が一番良かった)は三日月堂の転機、活版印刷への熱意、幅の広がりを感じられる。弓子の人生にも変化がありそうな予感に次巻が楽しみで仕方がない。。