みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『カマラとアマラの丘』 初野 晴

 

カマラとアマラの丘

カマラとアマラの丘

  • 作者:初野 晴
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

いずれ迎える別離。それでも一緒にいたかった。廃墟となった遊園地、ここは秘密の動物霊園。奇妙な名前の丘にいわくつきのペットが眠る。弔いのためには、依頼者は墓守の青年と交渉し、一番大切なものを差し出さなければならない。ゴールデンレトリーバー、天才インコ、そして…。彼らの“物語”から、青年が解き明かす真実とは。人と動物のあらゆる絆を描いた、連作ミステリー。

【感想】

四季折々の花が一面に咲く美しい庭園にいくつか名前が付けられた小さな丘がある。ガルム、イシス、カマラとアマラ、シレネッタ、ヴァルキューリ...。その丘にはいわくつきのペットが埋葬されている。埋葬を依頼する人々が語る愛した動物たちの悲しい「物語」。。その語りを静かに聞く動物の心が読める墓守の青年。

 

幻想的な世界で語られる人間と動物のシビアな問題や殺人事件や失踪事件。。なんとも不思議なミステリーでした。掴みどころが難しかったけど、とても読みやすい。

驚いたのは動物にまつわるトリビア。題名にもある「カマラとアマラ」1920年にインドで狼に育てられた少女たちが発見された。野性から人間社会への順応ができず、病死したという悲劇。
愛玩犬は自殺する犬もいる。犬、猫、鳥でもストレスで自分の毛を抜く自傷行為に走る動物がいる(我が愛犬もたまにある(;_;))ひどくなると鬱状態に。人間に過度な愛情を注がれて、敵に襲われなくなった代償だとか。ペットを愛する事も時には危険を孕むのね。。
ネズミの危機管理力。危険な食べ物か仲間に毒味役を立て、毛繕いなどで健康チェック。安全確認をするとは...無闇に食べてるわけじゃないのね。。仲間に伝達する能力もあり、相互学習ができる希少動物(苦手な動物...ビクビクしながら読んだ)
他にも人と動物の刷り込み、異種臓器移植、能力が優れた動物たちの苦悩など興味深い部分もあるが、一貫して動物を扱う人間の傲慢さ、醜悪が強く投げかけられている。

小川洋子さんと堀江敏幸さんの共作『あとは切手を、一枚貼るだけ』(『あとは切手を、一枚貼るだけ』 小川 洋子 堀江 敏幸 - みみの無趣味な故に・・・)の動物実験をされた動物たちの話を思い出す。神話では人間、動物、植物の融合した生き物が存在し、分け隔てなく生きていた。。のちに人間以外は言葉を失い、人間に利用される存在となる。。感情のない生き物と人間の都合の良い考えによって...。人間の固定観念や解釈によって決められてしまう事。人間社会でも苦しめられることはあるが、物言わぬ動物たちの心はいかなるものか。。

動物とコミュニケーションができる青年が訴える命の不平等さ、責任が動物からの悲しいメッセージのようで、ザワッとしたり、モヤっとしたり不思議な印象を残すお話でした。