みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『神よ憐れみたまえ』 小池 真理子

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発と国鉄の事故が同じ日に発生し、「魔の土曜日」と言われた夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。
母ゆずりの美貌で、音楽家をめざしていたが、事件が行く手に重く立ちはだかる。
黒く歪んだ悪夢、移ろいゆく歳月のなかで運命の歯車が交錯し、動き出す……。

【感想】

序盤から犯人が想定され、徐々に動機や犯行も明らかにされていくので、当事者たちがいつ真相を知るのか、ジリジリハラハラさせられる内容でした。この物語は犯人の真相を描くサスペンスというより、美しさと聡明さを兼ね備えたが故に狂わされてしまう黒沢百々子の波乱万丈な人生が描かれた物語です。

百々子は恵まれた環境で育ち、両親からの愛情を受け、ピアニストとしての夢に向かう少女。しかし女性としての体の変化に戸惑い、美貌に悩まされ、好奇の対象とされ、生き辛さを感じる12歳の多感な時期に突如、何者かに両親を殺害される。世間では「血塗られた令嬢」と揶揄される百々子の傷を癒し、無償の愛で支える家政婦のたづさん。裕福な黒沢家の家庭とはまた違う庶民の温かい愛情に守られ、百々子は過酷な人生にもがきながらも、喪失と向き合い、凛とした女性に成長する美人は災難に遭いやすいと聞くが、こんなにも壮絶で残酷な人生を送るものか..容赦なく不幸な出来事が起きるし、身の毛もよだつし...困難の重ね技にズンと沈む。

著者ご自身が10年もの間、身近な人々の幾つもの死や病、深い喪失を通り過ぎていた中で「黒沢百々子」を創り上げられたそうです。ご自身の心情に重ねたところもあったのではないかと思われる百々子が人生を振り返る一節。

「私は自分が特別に不幸な運命を背負って生まれた人間だったとは思っていない。生きていれば誰にでも様々な災難や不幸が襲いかかる。生涯にわたって平凡で何も起こらない人生を送る人など、いるのだろうか。不幸だったかどうか、というのは、主観の問題に過ぎないような気がする。」

誰もが、百々子のように予期せぬ不幸は降りかかる。それをどう受け止め、どう乗り越えるか。強い気持ちは持ち続けたい。これからも巻き起こる困難に立ち向かいながらも日常の小さな幸せをかいつまみながら、たくましく生きていきたいと思わせてくれるラストでした。