みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『私の頭が正常であったなら』 山白 朝子

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

私の哀しみはどこへゆけばいいのだろう。切なさの名手が紡ぐ喪失の物語。
最近部屋で、おかしなものを見るようになった夫婦。妻は彼らの視界に入り込むそれを「幽霊ではないか」と考え、考察し始める。なぜ自分たちなのか、幽霊はどこにとりついているのか、理系の妻とともに謎を追い始めた主人公は、思わぬ真相に辿りつく。その真相は、おそろしく哀しい反面、子どもを失って日が浅い彼らにとって救いをもたらすものだった(「世界で一番、みじかい小説」)

その他、表題作の「私の頭が正常であったなら」や、「トランシーバー」「首なし鶏、夜をゆく」「酩酊SF」など全8篇。それぞれ何かを失った主人公たちが、この世ならざるものとの出会いや交流を通じて、日常から少しずつずれていく……。そのままこちらに帰ってこられなくなる者や、新たな日常に幸せを感じる者、哀しみを受け止め乗り越えていく者など、彼らの視点を通じて様々な悲哀が描かれる、おそろしくも美しい”喪失”の物語。

【感想】

乙一さんの別ペンネーム山白作品を初めて読みました。温かく入り込んでくる乙一...ではなく山白朝子流の優しさに心が解かれていき、ほろほろとしちゃいました。喪失感って突如心に隙間風を送り込むような、得もいえぬ不安感に沈み込んでしまうような・・・そんな時に小さな幸せを感じられる自分にホッと安心感が広がる。。この本が心に少し栄養を与えてくれたのです。

「世界で一番、みじかい小説」幽霊に取りつかれた夫婦。幽霊を冷静に考察し、分析する理系妻とただただ恐怖で会社を休み夫。ユーモアのバランスがとても良いよ~この夫婦の絶妙なバランスもね。ラストの一行にほろり。素敵な夫婦だわ。

「酩酊SF」大学時代の後輩Nの彼女は酩酊すると未来が見えてしまう。小説家の私はNから彼女の不思議な現象から金儲けをする物語を書きたいと相談をされる。

「布団の中の宇宙」スランプに陥っていた小説家仲間Tさんが、ある日、とある文芸誌に新作の短編小説を発表した。Tさんは不思議な布団を手にして、その布団の中で眠ると不思議な体験が...。

小説家には不思議現象は夢のようなお話なのかな?酩酊彼女も不思議な布団もひみつ道具のよう。ラストには更なる不思議が待ち受けてる...怖い。

「子どもをしずめる」高校時代のクラスメイトたちが、ことごとく自分の娘を殺す。「私」も娘を産むが、娘の成長と共にいじめで死んでしまった同級生が呼び起され、恐怖に...。自分の子だけど、自分の子ではない感覚って少なからずあるような気もする。育児って綺麗事だけでは済まされない感情が母親には宿るのです。でも母親の愛は深いと信じたい。

「トランシーバー」津波で最愛の妻と息子を失ってから2年。酒におぼれる毎夜。かつて息子と一緒に遊んだおもちゃのトランシーバーから息子の声が聞こえてくる。

これは涙腺決壊。喪った愛がどんな形でも現れてほしいけど...前にも進まないといけない。大切にしたい心に寄り添ってくれる人と出会い、残りの人生を歩めるってほんとに幸せなこと。これは今のわたしにまっすぐ入り込んできました。

「私の頭が正常であったなら」元夫が私の目の前で娘を道連れに自殺した。それから抗精神病薬を服用しながら実家で療養していたある日のこと。川のほとりを散歩していると「たすけて」と女の子の声を聞こえる。心の病気が起こす幻聴?いや、もし私の頭が正常であったなら...。

タイトルがいい。悲しい記憶は確かにある。うれしい、たのしい記憶も確かにある。時間がかかるかもしれないけど、たのしかった記憶をたくさん思い出してあげるのが、かなしみの救済なんだと改めて思いました。

かけがえのないものを喪失し、後悔し、悲しみ、生きる希望を失う。救われることはないのも現実。ラストの天使の話で「あらゆる人生、そのどれもが祝福に満ち、悲哀にあふれてる」死者に寄り添い、労わる天使のようにどの話も悲しみを優しく悼む物語でした。

 

 

 

、がなど全8篇。それぞれ何かを失った主人公たちが、この世ならざるものとの出会いや交流を通じて、日常から少しずつずれていく……。そのままこちらに帰ってこられなくなる者や、新たな日常に幸せを感じる者、哀しみを受け止め乗り越えていく者など、彼らの視点を通じて様々な悲哀が描かれる、おそろしくも美しい”喪失”の物語。【解説:宮部みゆき】