みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『同志少女よ、敵を撃て』 逢坂 冬馬

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?

 【感想】

女性狙撃兵からの視点で描く独ソ戦。

狙撃兵の訓練所で出会った同志たち。「何のために戦うのか?」...子供たちを...女性を守るため、自由を得るため...。それぞれの想いを胸に秘め、最前線で敵を撃つ。狙撃シーンの圧倒的凄まじさと少女たちの高揚感が高まるにつれ、緊張感、恐怖感も高まる。実戦を重ねていくうちに躊躇なく人を殺し、戦果を競い合い、称えあう少女たち。戦争とは無縁の生き方をしてきた少女たちが...と彼女たちも戦争の被害者なんだなと活躍の場が増えるたびに胸が痛む。「戦争は人を悪魔にする性質」と教えられるセルフィマ。女性に対する尊厳を踏みにじる男たちの恥ずべき行動に怒りつつ、「女性を守る」とはどういう事なのか?狙撃兵としてどう行動すべきなのか?と思考を巡らしていきます。ラストの戦闘で女性狙撃兵たちが戦う意味を全うする行動に目が離せませんでした。

 

狙撃戦の緊迫感がすごい。脳内で爆撃音が響き渡るかと思えば、射撃の瞬間の静寂さで無になり、血の匂いすら漂うかのような...リアリティ、臨場感のある戦闘シーンに圧倒されました。女性狙撃手だけでなく、兵士、捕虜、戦況下で生き抜く人々の立場、性質、心情、誇りが丁寧に描かれ、特に兵士たちの精神性が強く伝わってきます。

戦争という特殊な環境を利用し、倫理を捻じ曲げる思考がとても怖い。一人ひとりの生が、不特定多数の死として片づけられてしまうのがやるせない。今、ウクライナで起きている戦争が過り、極限状態の中で生きる人々の精神状態が生々しく感じられ、胸に迫る思いに駆られる。戦争物を読むと、命とは?尊厳とは?と考えさせられます。今回は女子狙撃兵たちのその後も、読むことができ、人民を苦しめるのは、いつも圧制者であることがまざまざと感じられます。実在する最強女性狙撃手・リュドミラ・パブリチェンコの手記を読んでみたい。