みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『床下仙人』 原 宏一

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

「家の中に変な男が棲んでるのよ!」念願のマイホームに入居して早々、妻が訴えた。そんなバカな。仕事、仕事でほとんど家にいないおれにあてつけるとは!そんなある夜、洗面所で歯を磨いている男を見た。さらに、妻と子がその男と談笑している一家団欒のような光景を!注目の異才が現代ニッポンを風刺とユーモアを交えて看破する、“とんでも新奇想”小説。

【感想】

サラリーマンたちの悲鳴が聞こえてきそうな短編集です。それぞれのテイストは違うけど、共通するのは主人公たちが企業社会の犠牲者たち。働く人々の悲哀をユーモアを交えて描かれています。

「床下仙人」

愛する家族の暮らしを守るために日夜働き続ける夫。マイホームに変な男が棲んでいる。しかも変な男と一家団欒をする妻と子を目撃。幸せそうな妻と子の姿に愕然とする夫。棲みついた男は何者?(仕事人間には痛切な物語だと思う。)

企業戦略に巻き込まれてしまう50代の平社員が会社を潰す野望を抱く「てんぷら社員」

硬直した男社会に宣戦布告をし、戦争を始める女たち「戦争管理組合」

社長代行会社から社長を派遣したデザイン会社の1か月「派遣社長」(これ面白かった)

最後の「シューシャイン・ギャング」が、面白さとほろ苦さが絶妙に入り交じっていて良かった。

リストラされ家族から見捨てられた初老の男が渋谷のスクランブル交差点で強引に靴磨きをして生活費を稼ぐ少女に出会う。少女と靴磨きの仕事をすることとなり、奇妙な共同生活が始まる。この少女は家族を捨てた女子高生で、二人は徐々に疑似親子関係に。

会社から見放された男たちの苦悩の先には家族の悲しみもある。現実的ではないだろうけど、疑似親子には明るい未来であってほしい。

 

リストラ、不況、家族不和といった現代社会の風刺がユーモア仕立てに。どの話もかなり突飛な設定です。こんなことありえないわと思いながらも、妙に納得させられてしまう。床下に住む男を妻が次第に支えていくとか、社長自らが社長を派遣するってありえないでしょ?と思うのだけど、これもアリかもねって、納得させられてしまうから不思議。これを読んで床下を調べる人がいるかもしれない。