みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『掌に眠る舞台』 小川 洋子

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

交通事故の保険金で帝国劇場の『レ・ミゼラブル』全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす「失敗係」の彼女。金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ『ラ・シルフィード』。お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私。
演じること、観ること、観られること。ステージの此方と彼方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。

【感想】

 

演劇という優美な世界に憑りつかれてしまったような静かな狂気。小川さんの美しい文章の中に忍ばせる異常性は改めてすごいなぁと思う。非日常、異質な世界に浸りたい人におすすめです。

「指紋のついた羽」金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ「ラ・シルフィード」(第一話の冒頭、工場地で働く父を持つ少女は小さな工具箱をひっくり返す。「地面からほんの数センチ隔てられただけで、そこが特別な場所になると、少女は知っている。簡単に踏みつけられる小さな工具箱が、手の届かないはるか高みを生み出すと、分かっている」この文章を読んだだけで、油のにおいが漂いそうな場所でどんな素敵な世界が待ち受けているのだろうと少女のような気持ちにさせられる。小川さんの感性は素晴らしい

「ユニコーンを握らせる」女子高生が大学受験を受けるために昔女優だったらしいローラ伯母さんの家に滞在する5日間(人生の中で輝かせた小さな一瞬。その魔法が解けないまま永遠を生きるローラから幸せを感じる。この話が一番好き。これこそ『掌に眠る舞台』のような物語。

「ダブルフォルトの予言」帝国劇場の『レ・ミゼラブル』全公演に通い始めた私が出会った女性は、劇場に暮らす「失敗係」だった(虚構と現実の境が曖昧になっていく不思議な話。全公演を観続けるとこんな夢のようなひとときが味わえるのかもしれないなぁ...夢から覚める千秋楽..劇場ロスが長引きそう)

華やかな演劇の世界ではなく、かすかに残る芝居の余韻が、まさに掌に眠るような..タイトルも秀逸です。全体的に物足りなさを感じますが、淡い光に照らされているような余韻が心地よいので読み返したくなりますね。