みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ベルリンは晴れているか』 深緑 野分

 

ベルリンは晴れているか

ベルリンは晴れているか

  • 作者:深緑野分
  • 発売日: 2018/10/26
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

戦争が終わった。
瓦礫の街で彼女の目に映る空は何色か。

ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死んだ 。孤独な少女の旅路の果てに明かされる真実とは...。

1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4ヵ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり――ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。

【感想】

初めての深緑作品は本屋大賞ノミネートされた『この本を盗む者は』でした。ファンタジーが色濃く描かれた作品と違い、本作はドイツの第二次世界大戦時代の歴史ミステリー。戦災孤児のドイツ人少女が体験するナチス政権の戦前から戦後を描き切った作品。
暴徒化による人権差別、虐殺など、戦争の歴史は過去に読んだ本を通して、残酷さ、悲惨さ、理不尽さに胸を痛めながら、繰り返してはならないと、実感のない恐怖を抱いてきました。この作品は、他作品と違い、心の支配をされた国民の死の判断の狂いに怖さを感じました。死が隣り合わせの世界で綺麗事では生き抜けない現実を通過した敗戦国の戦後。。更なる過酷な現実を目の当たりにする苦しみ。。正義、信念、迷い、後悔...。どこから間違っていたのか?最初から間違っていたのか?今も間違ったまままなのか...。国民の壮絶な意識や葛藤を、強く投げかけられ、深く心を抉ってきます。
主な物語は、少女の恩人の不審死を巡るミステリーです。過去(戦前から戦中)と現在(戦後)が絡み合い、ラストの思いがけない真相に繋がっていきます。引き込まれました。戦争で隠された闇も震撼させられます。
この一文が頭から離れない。
「いつから狂ってしまったんだろう。人の死を願うことを、死の引導を渡すことを、躊躇なく正しいと思うようになったのだろう。狂ってるのは世界の方じゃないのか?...もうわからない」
「ただの人」も狂わされ、弱者を追い込み、罪を抱えさせられる。。こんな恐怖は決して味わいたくないな。。とても読み応えのある作品でした。