みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『うたかたモザイク』 一穂 ミチ

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

病める時も健やかなる時もーー。あなたの気持ちにぴったり寄り添ってくれる13の物語。甘くてスパイシーで苦くてしょっぱい、味わい深いあなただけの人生がここにある。書き下ろしショートストーリー「透子」も収録。

【感想】

sweet、spicy、bitter、salty、tastyと味わい深い13のストーリー。それぞれのカテゴリーから印象に残ったお話を紹介します。

(sweet)「Droppin‘Drops」雑誌モデルの杏はおとなしいクラスメートの藤井さんがYoutubeでアイドルグループの活動をしていることを知る。俗にいう「地下アイドル」。歌も踊りも下手で衣装も中途半端なグループを笑う友達だが、歌う藤井さんの姿を見て、杏は一瞬で心を撃ち抜かれる。誰にも気づかれないように推し活を始める。

(思春期女子たちのままならなさや素直になれない感情がもどかしくて、微笑ましい。アイドルもモデルも芽が出ることはなくても、誰かの心を埋め尽くすことができるのってすごいと思う)

(spicy)「ごしょうばん」人の食べものを食らう妖怪。家族や親友や犬や猫や..と姿を変え、人の食べものをいただく妖怪。

ご相伴にあずかる妖怪とは、おもしろい。お話はピリ辛。ごしょうばんがなぜ妖怪になってしまったのか?とても悲しい背景が隠されている。ごしょうばんは食べることへの慈しみを持つ人間の心という調味料で作られた料理を好む。食べ物を粗末に扱われる現代では心も腹も満たされない。食べ物を大切にする人の心に満ち溢れる世界になればいいのだが...戦や災害が起きないと本当のありがたみを感じられない幸せな現代人、とても複雑な思いに駆られる

(bitter)「Still love me?」4つ上の従兄に17年間片思いをする温。忘れられない恋人がいる従兄とのドライブの一幕。

(ボーイズラブです。淡い気持ちになるなぁ。人の想いや感情は計ることができないからこそ、永遠が長く感じるけど、想い続ける温の「永遠って、案外簡単やったりして」というのもわかる。「俺のこと、好き?」。短いドライブだけど、永遠に続いていきそうなくらい、とても長く深い物語だった)

(salty)「神様はそない優しない」事故死をした主人公が猫に生まれ変わり、妻に拾われる猫生。(身内の死は遺族にとって悲しみや後悔で身を削る想いになるのだが、故人が亡くなってからも後悔に苦しむのは、かなりしんどいだろうなぁと思った。神様ほんと優しないわぁ)

(tasty)「透子」周囲から不出来と扱いを受ける透子。月一、書店に祖父の購買本を取りに行くことがきっかけで店主との優しい交流をしていく。

(透子も店主も欠けているものを埋めていく。そのためにお互いがついた優しい嘘。自分がだれかの支えになってることって気づきにくいことなんだけど、ふとした「ありがとう」に心がきらめく。優しいお話)

言葉では言い表せないモヤっとした感情をSF、ホラー、青春、BL、ファンタジー、官能、ミステリーとバリエーション豊かなストーリーで描かれている。日常で消えゆく泡のようなことが、ふとした時に感情として湧き出てくる。そういうものに人は心揺れ動き、一喜一憂する。甘い出来事や苦い経験がモザイクのように集められ、さまざまな形となり、複雑化されながら、人の本質は形成されていくんだなと、うたかた~とはうらはらな思いが残る本でした。