みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『収容所から来た遺書』 辺見 じゅん

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

敗戦から12年目に遺族が手にした6通の遺書。ソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働のシベリア抑留中に死んだ男のその遺書は、彼を欽慕する仲間達の驚くべき方法により厳しいソ連監視網をかい潜ったものだった。悪名高き強制収容所に屈しなかった男達のしたたかな知性と人間性を発掘した労作。
「非力もかえりみず偉大なる凡人の生涯、それもシベリアの地で逝った一人の男の肖像を描きたいと思ったのは、その不屈の精神と生命力に感動したからに他ならない。

【感想】

終戦後、満州からソ連軍に連行された日本人捕虜たちは各地の強制収容所(ラーゲリ)で長い年月、強制労働をさせられる。食料も医療も不十分なうえ、重労働と栄養失調で身体が蝕まれ、死にゆく人もいれば、極寒がさらなる追い打ちをかけ、心身衰弱していく人も。。そんな状況の中、帰国(ダモイ)の希望を信じ、仲間たちを励まし続けた人がいます。日本の文化、文学を楽しみ、俳句会を発足し、仲間たちと俳句を愉しむ山本幡男さん。社会主義に傾倒し、大学でロシア語を学び、戦時は満州鉄道に勤務し、特務機関に配属される。収容所では通訳を担うのですが、経歴から戦犯とされ、極寒地シベリアの収容所に送られ、かなり厳しい立場に身を置かれます。長い歳月の末、病に侵され、帰国の願いも叶わず、命を亡くされた山本さんの妻、母、子供たち、それぞれに向けた遺書の全文が記載されています。戦争で家族に会えないまま命を落とした人たち、一人ひとりの悲痛な想いがこの遺書に込められているようで、涙を誘います。。遺書を家族の元に届ける約束を果たすまでが彼らの終戦だったのでは...。敗戦後、12年。。長すぎるよ。なぜもっと早く..と、悔やまれます。

どんな苛烈な環境下の中でもシベリアの情景を美しいと思う心のゆとり、俳句や詩に思いを馳せる感受性の豊かさ、逆境でも人間の尊厳、希望を失わず、収容所に光を与え、仲間たちに希望を持たせる。まさに不屈の精神。俳句や短歌が素晴らしい。特に「海鳴り」の、ろんろんが心に響きます。自然や芸術に触れ、ユーモアを持ち、愛する家族を想い、目標と希望を持ち続けることが生きる精神力に繋がるというのが、ユダヤ人の心理学者・フランクルのアウシュヴィッツ収容所の体験記『夜と霧』に通じるものがあります。今後は戦争経験者の高齢化が進み、次世代に語り継ぐことが課題となるのでしょうが、本や資料、映像から伝わることもたくさんあると思う。風化させないためにも読んでもらいたい一冊です。