みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『夜と霧』 ヴィクトール・E・フランクル

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

〈わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。
では、この人間とはなにものか。
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ〉

【感想】

数百万人の命が奪われた負の世界遺産として知られているアウシュビッツ強制収容所。先日、強制収容所の内部がテレビで放送されていました。映像からも重苦しい空気やおぞましさが伝わります。この本が強制収容所で尊厳を奪われた人間の運命をより一層感じさせたと思います。

「心理学者、強制収容所を体験する」

ユダヤ人である心理学者・フランクルがアウシュビッツで過ごした体験記。過酷な状況下における人間の心理を分析する。収容時から、過酷労働を経て、解放後までの人間の心の動きが綴られています。

全ての「自分」が奪われてしまう。地位も名誉も財産も荷物も身に着けているもの全てが奪われ、権利も希望も尊厳も失う。こういう極限状態に陥ると人は自己防衛のために感情を消滅してしまう。死体を見ても何の感情もなく、食事を取る事もできるようになる。どんな環境下でも人間は慣れていくものとはいえ、衝撃的です。無関心や冷淡さ。生命維持のために必要な感情。フランクルは「生存競争の中で良心を失い、暴力も盗むことも平気になってしまった。そういう者だけが命をつなぐことができた。いい人は帰ってこなかった」と記しています。

被収容者は先が見えない恐怖に不安を感じ苦しめられます。いつまで続くのか....人間は目的を見すえて生きることができなくなると精神の崩壊現象が始まる。精神的苦痛は想像を絶するものだったでしょう。しかし「目標」や「希望」を持っても同時に失う喪失感は人間の「死」をもたらすことも。。人間心理の奥深さ、繊細さが伺える。。精神的正常を保つのが自然や芸術、ユーモアに触れる事、愛する人を想い、「希望」に目を向ける事。全てを奪われても「精神の自由」は決して奪われない。「希望」や「勇気」を保ち続けることが「生きる」術となるのです。収容所から解放された人間の精神状態もかなり過酷です。残酷な歴史の罪の深さ、責任の重さを感じます。絶望の上に更なる絶望が..。その絶望の中でも「希望」を失わずに人間は生きていかなければならない..未来には何が待ち受けているのかを見届けなければならない..「生きる意味」があるなら「苦しむ意味」もある。心理学者の冷静な分析で人間とは?生きるとは?を真剣に考えさせられました。