みみの無趣味な故に・・・

読書、時々映画、絵画鑑賞の感想を書いてます。

『「国語」から旅立って』 温 又柔

 

「国語」から旅立って (よりみちパン! セ)

「国語」から旅立って (よりみちパン! セ)

  • 作者:温又柔
  • 発売日: 2019/05/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

母国語とアイデンティティ、歴史と境界線。芥川賞候補、日本エッセイストクラブ賞受賞の台湾生まれで「中国語がへたくそ」な日本語作家のライフワークを、今この国に生きる若い人たちに。「日本語は日本人のためだけのものじゃない」

【感想】

2歳の頃に台湾人の両親と日本に居住し、日本で育つ著者は自然と日本語を話し、学校で「国語」を習い、積極的に日本語に興味を持つ。中学に進む頃、他人から台湾人なのに中国語が話せない事を指摘され、母国語について、台湾人と中国人について、自分の言語について...苦悩していく。思考や表現の全て、日本語を使うことが普通ではあるが、母国語とは言い切れず、その気持ちが強くなるほど、日本語を書く行為に依存していく。「日本語しか話せないただの日本人」ではなく、「中国語ができない日本育ちの台湾人」である自分は「ふつう」じゃない。中国語を取り戻したいと上海へ訪れるが、「中国人にしては中国語が下手」と言われ、生まれつき中国語ができて当然という立場に局面し、さらに苦しみ、祖国(母国語)という幻想に縛られていく。

著者が思い悩む母国語への想いがうまく想像できず、読み進めるのが大変でした。中国と台湾の国意識の違いなど微妙で繊細な関係性を著者の言葉を拾いながら、少しずつではあるが、理解を深めていくことにより、次第に「ふつう」とは何か?今の自分は「ふつう」に日本語を話し、「ふつう」に日本人として生きてる。この「ふつう」を強く求め、苦しみ悩んでいる人がいる。だからこそ「日本語」を大切にし、書く事に依存し、表現することを強く希望した結果、アイディンティーの葛藤を言語化し、伝達する事ができたのだと思います。。

 

『深淵の怪物』 木江 恭

 

深淵の怪物

深淵の怪物

  • 作者:木江 恭
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

おすすめ ★★★★⭐︎

【内容紹介】

美術教師が殺害された事件を追う女刑事。彼女と事件を繋ぐのは、少女の写真をアップしているアングラサイトだった。
事件の真相は彼女自身も抱える捻れた愛によることに気づき……。
第39回小説推理新人賞奨励賞に選ばれた「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」を含む四編を収録した短篇集。
謎が解かれた先の、人の感情の揺れを丁寧な筆致で描く期待のデビュー作!

【感想】

冒頭のニーチェの言葉

「怪物と戦う者は、自分もそのため怪物とならないように用心するがよい。そして、君が長く深淵を覗き込むならば、深淵もまた君を覗き込む。」心の深淵をテーマとする短編集。なかなか興味深いです。

 

「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」

美術教師変死事件を追う女性刑事。死んだ教師が残した遺書と娘の裸の撮影データ。「父が、好きでした」と語る娘。罪悪感から教師は自死を選んだのか、それとも...。

(父と娘の真相に迫ると同時に女性刑事の過去の父とのトラウマに苦悩し葛藤をしていく。心の深部を見つめたことで彼女は真相に辿りつく。娘と美術部の男子生徒の心の内側にある愛憎と悲痛の叫び..おぞましさすら幻想的に思えてくる)

「人でなしの弟」

二人きりで生きてきた兄弟。親代わりになって弟を育ててきた過保護で優しい兄。兄の転落死がきっかけで知られざる兄のもう一つの顔が浮かんでくる...。

(見えていた部分が覆される事の衝撃。次々と明らかにされる兄の冷血さを知る弟の怒り。人間って多面性があり、一面ではない。。最後の弟の言葉がうれしかった)

「さかなの子」

小さな漁村で父を殺された少年。彼を気遣う教師。教師の元に記者が現れ、事件現場へ。教師の不可解な様子に記者は...。

(これは完成度が高い‼︎すごく良かった。信頼する健気な少年と無自覚に悪意を潜ませる教師。その深部を追い込む記者。複雑な人間心理の描写が素晴らしかった。久々に興奮してしまった。これはぜひ読んでほしい)

「メーデーメーデー」

交通誘導員の青年が突然見ず知らずの女子高生から声をかけられる。街角で起きた小さな交通事故の調査依頼をされ、ある人を探してほしいと...。

(無気力でめんどくさがりの青年と強引で正義感溢れる女子高生。高校の頃に好きだった女子からの言葉をきっかけに他者との関わりを避けてきた青年。暴いた真相や女子高生の真意に迫るうちに高まる優越感、幸福感。深い人間関係から遠ざかっていた青年の心の変化に...わたしも駆け出したくなった)

 

「君が長く深淵を覗き込むならば、深淵もまた君を覗き込む。」

ニーチェの言葉は以前違う本で知り、とてつもなく怖かったので書き留めた覚えがあります。心の深部は美しくありたいけど、残酷を孕んでて、清くありたくても、醜さも潜んでて...そういう心の深淵を描き切る作品がデビュー作とは...凄い‼︎の一言でした。後半二作で五つ星なんだけど、期待を込めて星四つ(*^^*)これからも追い続けたい作家さんです。

『闇に香る嘘』 下村 敦史

 

闇に香る嘘 (講談社文庫)

闇に香る嘘 (講談社文庫)

  • 作者:下村敦史
  • 発売日: 2016/09/09
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★⭐︎

【内容紹介】

村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。

【感想】

全盲の村上和久は孫への腎臓移植を望むも適さないと診断され、兄の竜彦に頼むが、移植どころか検査さえも拒絶される。竜彦の態度に違和感を覚え、疑念を抱く。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。目の前の男は実の兄なのか?兄だと信じていた男は偽者なのか?兄の正体に迫るべく真相を追う和久に驚愕の真相が待ち受ける。。

全盲の主人公が真相を追うこと。。視覚の情報がないので、その他の五感を頼りにしなければならない。生活をする上でも慎重に集中して行動をしなければ、常に危険が隣り合わせの視力障害者。実の兄が偽物かもしれない、孫の苦しみを解放してあげたい。確執のある娘との絆を取り戻し、孤独から抜け出したい。。その焦りから疑心暗鬼になり、不信に陥り、嘘なのか?真実なのか?不安に駆られる和久の恐怖がゾワっとする怖さでした。

全盲の閉塞感や五感で探る描写がとても丁寧で和久の生活の苦労、失明による家族への理不尽な怒り、妻子との別れ、孤独、残留孤児への否定的な考え、卑屈な性格や言動が繰り返し繰り返し描かれています。正直、気が滅入る、苛立ちやもどかしさも感じました。それこそがこの物語の真相に強烈な効果を与えていると思います。真相解明からは数々の伏線が気持ちよくスッキリ回収。全てがひっくり返される。ラストは見事に光が照らされ、視界が開ける感覚になりました。素晴らしい❣️

『ジャッジメント』 小林 由香

 

ジャッジメント (双葉文庫)

ジャッジメント (双葉文庫)

  • 作者:小林 由香
  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★⭐︎

【内容紹介】

大切な人を殺された者は言う。「復讐してやりたい」と。凶悪な事件が起きると人は言う。「同じ目にあわせてやりたい」と。犯罪が増加する一方の日本で、新しい法律が生まれた。目には目を歯には歯を―。この法律は果たして被害者とその家族を救えるのだろうか!?第33回小説推理新人賞受賞。大型新人が世に問う、衝撃のデビュー作!!

【感想】

犯罪抑止のために設けられた「復讐法」...被害者遺族から一名が自らの手で加害者に同じ目を合わせて死刑執行をする報復の権利。裁判の判決後、実刑判決か復讐法かを被害者遺族は選択する。復讐法を選び、執行する「応報執行者」と執行者の保護、監察をする「応報監察官」の双方の葛藤と苦悩が描かれている。

 

大切な人の命を奪われた人々の深い悲しみ、強い怒り、やるせなさ、自責の念が痛みとして心に襲い掛かる。応報執行者の痛切な心情が身につまされる。「自らの手で殺さなければならない」という恐怖感。永遠に背負わなければいけなくなる重み。この苦しみを思うと耐えられないが、苦しみだけではなく救いになる人もいる。被害者が守りきれなかった命に対する自責の念に強く感情を揺さぶられた。被害者と加害者の境界線がなくなっていく怖さ。

 

そして国民感情も怖い。他人事の世論や誤報が飛び交い、凶悪犯への制裁という正義論や復讐法反対団体の強い訴え、被害者遺族の個人情報流出、誹謗中傷、嫌がらせと暴徒化していく。

 

いろいろな立場の感情が入り混じり、自分に投げかけられているようで、苦悩しながら読みました。特にラストの話は虐待を受けた兄妹。幼い妹を殺された兄の復讐法。子供が親に訴えかける言葉の数々。。。辛く重く引きずる...。「赦し」ってなんて難しい事なんだろう。。重いテーマに未だ考えがまとまらないです。

『看守の流儀』 城山 真一

 

看守の流儀

看守の流儀

  • 作者:城山 真一
  • 発売日: 2019/12/09
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

刑務所、そこは更生の最後の砦―。シャバ以上に濃厚な人間関係が渦巻く場で起きた五つの事件。仮出所した模範囚の失踪、暴力団から足を洗う“Gとれ”中に起きた入試問題流出事件など、刑務官たちの矜持と葛藤がぶつかり合う連作ミステリー。『このミス』大賞受賞作家、渾身の一作!刑務所を舞台に描く重厚な人間ドラマ。

【感想】

タイトルの刑務所用語にまつわる五つのミステリー。専門用語、何かに役立つかなぁ笑

「ヨンピン」服役期間の四分の一を残して仮出所する模範囚。「Gトレ」暴力団が受ける更生プログラム。「レッドゾーン」高齢の受刑者の終の住処。「ガラ受け」受刑者の身柄を引き受ける家族や後見人。「お礼参り」...恨みを持つ警察関係者への報復行為。


刑務官と受刑者の絆、更生の難しさ、高齢者受刑者への介護、受刑者の家族など刑務所で起こる様々な難題、看守のお仕事、内情、受刑者への心情...どれも興味深く、読み応えがあり、楽しめました!

一番興味深いのが刑務官や特別待遇受刑者・三上順太郎(人気歌手)から語られる謎に満ちたエリート刑務官・火石司。整った顔立ちには大きな傷があり、頭が切れ、洞察力に優れ、誰もが一目置く存在。刑務官と距離を保ちながら、裏でさりげなく解決に導く「火石マジック」まさにマジック‼︎驚きの真相‼︎気持ちよく騙されました。見事に騙されて、読み返さずにはいられない笑。面白かった〜(*^^*)

『奇譚蒐集録 弔い少女の鎮魂歌』 清水 朔

 

奇譚蒐集録: 弔い少女の鎮魂歌 (新潮文庫nex)

奇譚蒐集録: 弔い少女の鎮魂歌 (新潮文庫nex)

  • 作者:朔, 清水
  • 発売日: 2018/10/27
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★⭐︎⭐︎

【内容紹介】

大正二年、帝大講師・南辺田廣章と書生・山内真汐は南洋の孤島に上陸した。この島に伝わる“黄泉がえり”伝承と、奇怪な葬送儀礼を調査するために。亡骸の四肢の骨を抜く過酷な葬礼を担う「御骨子」と呼ばれる少女たちは皆、体に呪いの痣が現れ、十八歳になると忽然と姿を消す。その中でただひとり、痣が無い少女がいた。その名はアザカ。島と少女に秘められた謎を解く民俗学ミステリ。

【感想】

沖縄の孤立した離島・恵島で伝わる「黄泉がえり」(死後、青の化け物と呼ばれる鬼となる言い伝え)を防ぐために行われる葬送儀礼。「御骨子(ミクチノグヮ)」と呼ばれる少女たちの仕事は鬼の力を封じ込めるために亡骸の四肢の骨を抜く「抜き御骨(ヌジミクチ)」と、洞窟内で洗骨する「後御骨(アトミクチ)」。遺体から漂う腐敗臭や蛆虫の群れに耐え、働く御骨子たち(10歳の最年少御骨子・アダンが泣きながら仕事をしてるのが辛い)。少女たちの身体には次第に原因不明の青い痣が現れる。島では呪いのしるし、青の化け物と言われ、十八歳になると忽然と姿を消す。御骨子で唯一呪いのしるしが現れない美少女・アジカ。御骨子の姉さん達を敬い、妹達を愛し、誰よりも仕事を懸命にするアジカ。なぜ彼女だけ痣が出ないのか?十八歳になる御骨子の行方は?島に伝わる黄泉がえりとは?御骨子を取り締まる祓い屋の人身売買疑惑...数々の謎を解明するために元薩摩藩士の華族、帝都大学生物学講師の南辺田廣章先生と書生の山内真汐は島を調査する。

島の習俗・伝統・風習とはいかに残酷な物であろうと神聖化され、禁忌となり根強く島の儀式として執り行われる。それこそが呪いのよう。その儀式に縛られ、過酷環境下で働く少女たち。この物語の唯一の魅力だと思う。少女たちの「人として生きていきたい」というあたりまえな願いも奪われてしまう運命。外界から閉ざされた島の洗脳、闇の深さがとても恐ろしい。希望の光を照らす訪問者たちに救って欲しい、この一心だけが高まるも...読後はやるせなさが残る。

物語のテンポは早いです。ただ島言葉が慣れず、言葉で躓く。(途中からルビがなくなり、御骨子をオンコッコとオリジナルの呼び名で読んでました。島の情緒、無視😅)
帯の「恩田陸絶賛‼︎民俗学好き、ホラー好きプラス美少年好きなあなたを満足させる新シリーズ開幕に注目!」でしたが、美少年書生・真汐くんの魅力があまり感じられず(だって、少女たちが唯一の魅力だから)民俗学、ホラー、美少年要素はどれもやや薄めでした。失礼とは思いつつ恩田さんが描くアジカ、御骨子たちの少女の物語を読みたいと強く思ってしまい、なんとなくごめんなさい💦な気持ちです。

『晴れ、時々くらげを呼ぶ』 鯨井 あめ

 

晴れ、時々くらげを呼ぶ

晴れ、時々くらげを呼ぶ

  • 作者:鯨井 あめ
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: 単行本
 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

高校二年生の越前亨(えちぜんとおる)は、感情の起伏が少なく、何に対しても誰に対しても思い入れを持つことがあまりない。父親を病気で亡くしてからはワーカホリックな母と二人で暮らしており、父親が残した本を一冊ずつ読み進めている。亨は、売れなかった作家で、最後まで家族に迷惑をかけながら死んだ父親のある言葉に、ずっと囚われている。
図書委員になった彼は、後輩の小崎優子(こさきゆこ)と出会う。彼女は毎日、屋上でくらげ乞いをしている。雨乞いのように両手を広げて空を仰いで、「くらげよ、降ってこい!」と叫んでいるのだ。いわゆる、不思議ちゃんである。
くらげを呼ぶために奮闘する彼女を冷めた目で見、距離を取りながら亨は日常を適当にこなす。八月のある日、亨は小崎が泣いているところを見かける。そしてその日の真夜中、クラゲが降った。逸る気持ちを抑えられず、亨は小崎のもとへ向かうが、小崎は「何の意味もなかった」と答える。納得できない亨だが、いつの間にか彼は、自分が小崎に対して興味を抱いていることに気づく。

【感想】

クラゲ乞いをする不思議ちゃんの小崎さん。学校の屋上で空に向かって「来い!クラゲ!降ってこい!」確かに不思議だ。怖いくらい不思議。その小崎さんを冷めた目で見つめる越前くん。作家である父を亡くし、父の本棚から一冊ずつ読み進めるが父の本は読むことをしない。父は家族に迷惑をかけた。その事に囚われ、無感情のまま読書を続ける中、小崎さんがクラゲを降らせた。

この物語は不思議なだけではなく、世の中の理不尽な事や家庭環境、友情など身近な困難に苦しみながら高校生活を送る生徒たちが世界をちょっとだけ変えたいと真剣にクラゲを降らせようとする少年少女たちの青春ストーリーなのです。

いつのまにかわたしも「降ってこい!」と心の中で願い続けた。途中までゆっくり読んでいたけど、残り数ページ、感情が揺さぶられ、気づけば涙を流しながら必死に文字を追っていた。

 

「無関心であることは人に優しくできないということ。自分勝手であることは感情の矛先を間違えるということ。優しさの本質は他者への興味だ」

 

友情を育みながら、父とのトラウマに向き合い、本当の優しさと出会う越前くんの成長物語でもある。

不思議だからと読まないのはもったいない。特に読書好きには楽しめる一冊。本を読む楽しさや大好きな作品をたくさんの人に読んでもらいたい図書委員の思いを込めたPOP製作、本を語り合う本好きたちに共感し、読んでいてワクワクしてくる。「嫌いなことは説明できるけど、好きって本能」...確かに。

本が好きな人も本を読まない人も、読んでほしい作品。空を見上げたくなる。わたしも時々クラゲを呼びたい。時代はクラゲだ!でもクラゲは水槽の中でゆらゆら浮遊していてほしいのが本音(*´艸`)

現役女子大学生のデビュー作!すごい。これからも読み続けたい(*^^*)