みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『おいしいごはんが食べられますように』 高瀬 準子

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。第167回 芥川賞受賞作品。

【感想】

入社7年目の二谷くん。仕事は有能でクール。職場でそこそこ上手くやってる人。食べ物に対する意識は低い。食欲が満たされていれば問題ない。むしろ食にこだわりを持つ人に嫌悪感を抱いてる。入社5年目の押尾さん。仕事は努力家で優秀。二谷くんと定期的に飲み屋で苦手な芦川さんの不満を漏らす仲。この二人の視点で「仕事」「食」「芦川さんにまつわる人間模様」が綴られています。
この物語のザワつきのカギとなる人物・芦川さん。入社6年目。仕事は体調不良を理由に休みがち。職場的にはこじらせ社員なのだが、優しく思いやりがあり、頼りなさとか弱さで周囲から守られる女性。料理上手で丁寧な食生活を心がける。二谷くんと恋人関係(職場には内緒...だけどバレてる)

現代の職場での人間関係や、働き方への価値観、会社員の抱える複雑な感情がわかりやすく言語化されていて、読者はざらりとしたモヤモヤ感が広がっていくでしょう。受賞会見で著者が仰っていた作品を描く原動力は「むかつき」。。職場は他者と働く場。日々顔を合わせ、困難な状況も多々あり、その状況下で働かなければならない。頭痛で大事な仕事でも早退する芦川さんを注意することができない今どきの職場事情。芦川さんの仕事は周りがフォローする。「(芦川さんが)できないことを理解している職場」「自分の仕事の残業と他人の残業はしんどさが違う。」...上司に訴えて、波風を起こそうとまでいかない、こういう微妙なむかつきがリアル。無理をしない働き方をする芦川さん。体調不良でも真面目に仕事に取り組む押尾さん。「みんな自分の仕事のあり方が正しいと思ってる」職場とは、違うルールで生きている人たちで成り立つ。だからこそ厄介ではあるが、様々な「正しさ」があって、みんな違うのだと理解すれば、気持ちがいくらか楽になる..かも。
著者の着目点が面白かった。特に「食」の思考。

「人と共有するおいしいの能力は力強く生きる人間に必要ない」という言葉が印象的。助け合いの精神は手放され、個々に生きることに成長した現代。誰かと食べるより、ひとりで食べたほうがおいしいに進化?したのは同調圧力の疲れの表われなのかもしれない。。あと...二谷くんの闇は深そう。食もだけど、好きな女性への..。一番ザワつく人物..笑。

タイトルのほっこり感とは裏腹に著者の「むかつき」のパワーを確かに感じられました。