みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『スカートのアンソロジー』 朝倉 かすみ他

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】
わたしは、わたしの好きな作家たちに、わたしの決めたお題でもって小説を書いてもらったのだった。(中略)胸が高鳴り、読む喜びをぞんぶんに味わった。その喜びが分厚くなっていく。「スカート」というお題で、みんなで遊んでいる感じ。待って、楽しい。なにこれ。(「まえがき」より)
朝倉かすみが「お願い」した九人の人気作家によるスカートモチーフの短編集。

【感想】
スカートといえば、ひらひら、ふわふわとした可愛らしい印象もあれば、キュッとタイトに引き締まるかっこよさもあって、女性の個性を引き立たせるファッションです。男性も想像を膨らませるものがあるのではないでしょうか。。スカートのふくらみのように。この本はスカートへの想いを巡らしてくれるアンソロジーです。

 

「明けの明星商会」朝倉 かすみ

学歴も年齢もバラバラな同期入社の女性3人。転職、結婚を機に職場を退社したアヤチョとわたしと最後まで会社で勤めたコマちゃん。コマちゃんの突然の訃報を聞き、コマちゃん宅で形見分けを。クローゼットの中に会社の制服が...。

(OLさんの制服に憧れた時期があったなぁ。わたしの職場は私服だったので、制服を着る機会はなく...。コマちゃんの体形の変化とともに変わりゆく制服サイズ..9号から15号まで仕事を頑張ったコマちゃん。しんみりせず、淡々とした形見分け。ゆったりと優しい空気感が友だちとの良き関係を表していると思う。)

「そういうことなら」佐原 ひかり

彼氏が突然スカートを穿いて登校。そこに触れずに過ごす1か月。小学時代の児童館にいた懐かしのお人形・リリちゃんと再会...。

(主人公は女子高生。クール。彼氏が突如スカート姿で登校しても、周りからからかわれても、冷静。彼のスカートを穿く理由はわからないが、問題は自分側。彼氏に追及するのではなく、行動の裏側を理解しようとする気持ちに好感。制服の自由化がすすんでいく今の時代、色んな想いがあるだろうね)

「くるくる回る」北大路 公子

70歳一人暮らしの女性。オレオレ詐欺被害を助けてくれたをきっかけに世話をしてくれる年下の友人ナナヨ。親切で頼りがいがある女性だが、少し不審な行動が...。

(読み進めていくと、何か胸騒ぎが起きる。。スカートが切ない。ネタバレしてしまうので詳しくは書けないけど、後悔のない人生は、ないとはいえ、切ないなぁ)

「スカートを穿いた男たち-トマス・アデリン「黒海沿岸紀行」抜粋」佐藤 亜紀

カーチの男たちはスカートを穿く。髪を腰を越えるほど長く伸ばす。髪を梳かし、結い、馬に跨り、競い合う。男たちの世話をする女たち。女たちはスカートを穿くことを許されない。スカートを穿かない者は美しくない。すなわち女は美しくない。

(これは、なかなかでした。ラストのオチまで見逃せない笑。)

「スカート・デンタータ」藤野 可織

朝の満員電車。スカートに忍び寄る男の手。突如悲鳴が。男の手首がスカートによって噛み切られる。女たちの逆襲。痴漢たちの奮闘。ラストは涙の...。

(ほんとに痴漢はこの世からいなくなってほしい。)

「ススキの丘を走れ(無重力で)」高山 羽根子

故郷の友人との再会。小学時代のクラスメート「ヤスダ」の話題に。亡き祖母のスカートを穿き続けた「ヤスダ」を大人たちから守るクラスメートの思い出。

(清涼飲料水のような清々しさ。このタイミングが良い。夢や希望を持ちたい現代に心地よい物語)

「I,Amabie」 津原 泰水

アマビエの妖怪コスプレで話題になる男子高生・颯太。母は新興宗教に入信し、高額なグッズを購入したり、家に帰らない日々も。(カルトの世界に足を踏み込んだ家族の苦しみ。最近も話題になりましたね。アマビエを描く祈りも教祖様の教えも...人間の心の安寧に繋がるのかな?少し...悲しい)

「半身」 吉川 トリコ

人気子役だった有原きよみ。夫と娘との暮らし。子供の教育や躾の価値観の違いからママ友や夫と少しずつズレが..。そんな時、知り合いの映画監督から娘を子役に起用したいとお願いされる。

(子供の教育や躾の不安というものは確かにあるけど、他の子と比べても仕方がないとはいえ、悩みや焦りが深刻になればなるほど周りが見えなくなっていく。。これ、気持ちブルーになるわ)

「本校の規定により」中島 京子

昭和初期に東京郊外にある女子高の体育教師となったナカムラタメジ。同時に拝命された生活指導。女子生徒たちとスカートの攻防戦を繰り広げるのであった。

(昭和初期から現代に至るまでの制服スカートの歴史。モンペからスカートに。ロングスカートからショートに。ハニワを経てズボンに。制服スカートの歴史は長い。わたしの制服時代はロングの終末期、ショート到来でした。制服自由化で女子もズボンを履く時代になりつつあります。「シドウ」と女子生徒にあだ名をつけられるほど、熱心にスカートと向き合ったシドウ先生、お疲れさまでした)

 

朝倉かすみさんのリクエストアンソロジー。スカートというアイテムを見事に活かし、とてもバラエティ豊か。「小説宝石」の掲載順そのままだそうです。OLさんの制服から始まり、女子高生の制服で終わる奇跡。佐原ひかりさんがとても気になる存在でした。こんな出会いもあるからアンソロジーも面白い。