みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『累犯障害者』 山本 譲司

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

殺人、売春、放火、監禁、偽装結婚……。彼らはなぜ、罪を重ねなければならなかったのか。
障害者の犯罪をめぐる社会の闇に迫る。刑務所や裁判所、そして福祉が抱える問題点を鋭く追究するルポルタージュ。

 

【感想】

何度も服役を繰り返す老年の下関駅放火犯。加害者の家族のほとんどが障害者だった、浅草女子短大生刺殺事件。売春を繰り返す知的障害女性たち。障害者を利用する偽装結婚の実態。性的虐待を受け、多重人格となった障害者たち。ろうあ者たちの閉鎖社会の犯罪。知的障害者に対する誤認逮捕事件など...知らなかった世界。衝撃の波が何度も押し寄せてきました。犯罪を犯し、服役後の障害者たちの行き着く先はホームレスか閉鎖病棟か...またはヤクザに利用されて、知らぬ間に犯罪に手を染めてしまう人たち。。彼らにとって刑務所の外はとても生きづらく、むしろ刑務所が安住の地となるのです。加害者家族のほとんどが障害者のため福祉に頼る知識がなく、過酷な生活の果て、殺人を犯してしまう障害者も。なにより卑劣な事はその障害者たちを利用した犯罪。彼らがわからないまま戸籍を利用され、偽装結婚や養子縁組による障害者手当の着手、女性は売春をさせられたり。。とても驚いたのが、ろうあ者たちの教育と加害者も被害者もろうあ者同士という閉鎖的な犯罪。ろうあ者の教育は手話で行われるのかと思っていたが、日本の聾学校はあくまでも口語法によるコミュニケーションを学ばせるとのことでした。彼ら独特の手話が主流となるので、テレビで使われている一般的な手話は彼らには通じないこともあるそうです。彼らが犯罪を犯し、裁判をしても手話通訳が曖昧になり正確な供述を得ることができなくなり、結果的に聴者の常識によって裁かれていくのです。ろうあ者の加害者は訴えることもできず、ただ下された判決に従うだけとなる。裁判は事件の関係者たちのためにあるのだから、不確かな情報で判決していいのか?と疑問も抱いてしまう。しかし、ろうあ者だけではなく、重度の知的障害者たちの裁判もコミュニケーションの困難さにより聴者の判断に委ねるしかない現状も...なんともやるせない気持ちになってしまう。

一方で犯罪をしてしまう障害者たちの安住の地は刑務所だけではなく、利用する側の人間の存在にもある。彼らが生活する社会はとても生きづらく、この生きづらさを解消してくれるヤクザや売春利用客は彼らにとっての社会の場に必要な存在になっているのです。服役後に行き先のない障害者(閉鎖病棟で隔離部屋に行く事も)を養子縁組という形で引き取るヤクザも。。まるで社会にとっての必要悪となっている現状にも驚きがありました。

著者は触法障害者の問題について。「日本の福祉の現状を知るには、被害者になった障害者より受刑者になった障害者に視点をあてた方が、より実態に近づくことができる。」日本社会の陰の部分が見えてくるからこそ、障害者を刑務所に向かわせない福祉、教育の必要性を訴え続けています。マスメディアにおける障害者の犯罪はタブー化されているので、認知度がかなり低い。この本を読まなければ知らなかったこと。自分が何ができるかはわからないけど、知識を得たことだけでもよかったと思います。