みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『スモールワールズ』 一穂 ミチ

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。

【感想】

一穂さんって、BL界の鬼才なんですね。初めて知りました。小さなリンクも楽しめる連作短編集です。

「ネオンテトラ」

不妊で悩み、夫の浮気を見て見ぬふりをする妻。ある日父親から虐待を受けている少年を見かけ、その少年が姪の同級生と知る。家庭、仕事で行き詰まりを感じるとき、夜のコンビニで時間を過ごす少年と出会う。特に示し合わすわけもなく、二人は夜のコンビニで会うようになる。(登場人物がどうしようもない人ばかりなんだけど、雰囲気の良さが漂っているのは、文章が軽やかだからかな。ラストがまあまあ怖い)

「魔王の帰還」

出戻ってきた巨体で豪快な姉に振り回される高校生の弟。クラスメイトの女子が店番をしている駄菓子屋さんで金魚すくいをする姉弟。それぞれ事情を抱えている3人が地域の金魚すくい選手権に出場し、優勝を目指す。(姉・真央。あだ名は魔王。物語よりキャラのインパクトが強い笑)

「ピクニック」

一人娘・瑛里子に女児が生まれ、初孫の誕生に幸せを感じる祖母・希和子。育児に不安を覚え、精神が不安定になっていく瑛里子を心配する希和子は孫を預かり、単身赴任をしている瑛里子の夫の元へ行かせる。夫婦水入らずで過ごす瑛里子に悲しい知らせが。。娘の不慮の死と希和子の逮捕。無実を訴える母に戸惑う瑛里子は母の秘密を知る。(ラストの衝撃は一番。不安感が残る。)

「花うた」

兄を殺害された新堂深雪は加害者が収監されている刑務所に手紙を送る。加害者・向井秋生は手紙を受け、返事を送る。こうして二人の往復書簡が始まり、感情をぶつける深雪と真摯に受け止める秋生。次第に気持ちの変化が...。(閉鎖的な世界と外の世界を繋ぐ唯一の手段が手紙だけとは...文字、言葉の重みがより一層感じられることでしょう。見えない相手だからこそ、素直な感情を伝えられる文通。まして加害者と被害者家族という関係性の往復書簡がどんな展開になるのか...。)

「愛を適量」

日々惰性で生きる高校教師。だらしない生活を送る冴えない中年の元に音信不通だった娘が男の姿に変わり、突然訪れる。性転換手術をするまで泊めてほしいと頼まれ、娘との共同生活が始まる。(ホロっときてしまった。親子関係って、繊細で脆いけど、強い。複雑なのに、単純で。めんどくさいけど、ホッとする。適量って、難しい。)

「式日」

高校時代の後輩から父親の葬儀に来てほしいと連絡が来る。高校時代を振り返る先輩と後輩。やがて後輩が壮絶な父親との思い出、中学時代の過ちを語り始める。(あれが、ここで、こうなのか。。)

 

夫婦、姉弟、親子...家族という小さな世界が秘密を抱えて生きている。どんな秘密?と読み進めるうちに少しずつ想像のふくらみが大きくなり、最後は大きな刺激を与えられる。人間よりネオンテトラの方が大事だったりする感情は時にはあると思う。生き別れ、死に別れのくりかえし。そう考えると誰もが激動の人生だ。「人が灯す明かりは幸せそうに見える」という一文があるが、明かりを灯している誰かも秘密を抱え、激動の人生を歩んでて、それをひた隠しに生きている。人間って怖くて優しくて狂気な生き物だなぁと思うのでした。