みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『家族じまい』桜木 紫乃

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「ママがね、ボケちゃったみたいなんだよ」
突然かかってきた、妹からの電話。両親の老いに直面して戸惑う姉妹と、それぞれの家族。
認知症の母と、かつて横暴だった父……。
別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。

【感想】

新しい商売に手を出しては借金を重ね、家族を振り回してきた横暴な父・猛夫と苦労しながらも共に歳を重ね、記憶を失くしつつある母・サトミ。両親の老いに直面して戸惑う姉妹と交差する人々。

第一章 長女の智代は子供2人が独立し、夫と江別市で二人暮らし。父・猛夫の店の後継ぎとして、理髪師となるが、借金を重ねる父と溝が深まり、結婚を機に実家との距離を置き、疎遠となる。
(子供たちが家を出た時に親が不安や空しさを感じる「空の巣症候群」って言葉にひっかかった。我が子も一人だけ巣立ったけど、まだまだ子育て真っ只中なので、その症候群には陥ってない。全員無事巣立ってくれたら、ホッとしたり、スカッとした気持ちにもなりそうだけど、どうかなぁ。)

 

第二章 陽紅は28歳バツイチ。仕事先の農協の窓口に訪れる高齢者から息子の嫁にと気に入られ、55歳の男性(智代の義弟)と結婚。義父母とは別居、介護なしという条件付きで、結婚相手も穏やか...恵まれた結婚生活ではあったが、この結婚の裏には隠された事情があり...。

(条件優先の結婚。アリですよね。好条件付き結婚の先には思わぬ事態が...。子供思いの親思いではあるが、陽紅にしてみたら、まさに青天の霹靂ってことね。うまい話には裏がある。。この物語の続きがとっても気になります。)

 

第三章 次女の乃理は夫、子供3人と函館で暮らす。痴呆症の母を介護する父が倒れたことをきっかけに同居を決意。暮らしは安定し、親孝行に満足する乃理だが、次第にアルコール依存となっていく。
(理髪師として父に期待をされていた姉への嫉妬心から、良き娘であろうとする乃理がアルコールに手を出し、精神を壊していくのが、辛い。スーパーで一番安い缶酎ハイ100円弱で心の隙間を埋め、安定を保つ。。このお手頃価格の魔力が怖い。)

 

第四章 サックス奏者・紀和。関わりのない他人から見た猛夫の家族が描かれる。猛夫は昔から妻子を殴るどうしようもない男なのだけど、いまだ妻を叩いてしまうと紀和に打ち明ける。
(家族という身近な存在には言えなくても遠い他人には身構えずに話せることもある。殴られてもすぐに忘れるサトミと殴る事に後悔をして苦しみ続ける猛夫。これは切ないわ。老老介護のやるせなさが伝わる)

第五章 サトミの姉・登美子は長年、阿寒で旅館の仲居を勤め、82歳になっても不自由なく元気に過ごす。長女の還暦祝いの日に親子の縁を切ると言われる。ふとサトミの事が気にかかり、妹の家に訪れると認知症が進むサトミと介護に苦しむ猛夫が...。
(登美子の家族への淡泊さは、見習うところがある。娘の縁切りもあっさりと受ける母を娘は情がない人と思うのもわかるが、決して薄情な人ではない。しっかりと娘と縁を切り、前へ進み、妹の記憶の片隅に残りたいと願う登美子の涙にホロリ。最終章にふさわしい家族の終い方でした。)

墓じまいではなく、家族じまい。両親、夫婦、子供...家族の終い方。いつまで家族のことを考えて生きるんだろう?自分の事だけを考えられた若い頃は選択肢が多かった。自由度も高い。親や子供の事で選択肢が狭まれていき、時間や体力、生活事情、金銭面と現実的な問題を抱える40代~50代。切実な問題だ。家族って近いけど、とても遠い。
親の介護、子供たちの巣立ち、そして夫婦と...家族から完全に「個」になるのは心細いけど、わたしなりの家族じまいを真剣に考えてしまう。