みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『夜が明ける』西 加奈子

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

15歳の時、 高校で「俺」は身長191センチのアキと出会った。 普通の家庭で育った「俺」と、 母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できることなんて何一つないのに、互いにかけがえのない存在に。 大学卒業後、「俺」はテレビ制作会社に就職し、アキは劇団に所属する。 しかし、 焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、 俺たちは少しずつ、 心も身体 も、壊していった。
思春期から33歳になるまでの二人の友情と成長を描 きながら、人間の哀しさや弱さ、そして生きていくことの奇跡を描く。
本書は著者が初めて、 日本の若者の生きていく上でのしんどさに真正面から取り組んだ作品。

西さんは「書きながら、 辛かった」と仰るこの作品。主なテーマは現代日本に存在する若者の貧困、 虐待、 過重労働。西さんの実体験で構築された物語は執筆中に出会う諸外国人の「日本の若者の貧困」に対する認識を痛感された西さんの想いが反映された、まさに5年かけて変化し続けた作品。

【感想】

西さんが身をすり減らしながら書いた渾身の作品だと思います。

すり減っていく「俺」に締め付けられる想いで読みました。努力と根性を強いられ、結果を出さないと無能呼ばわりされ、頑張ることの姿を懸命に装い、何も生み出さない自分を恥じる。。声を上げることを止め、一人で抱え込み、突然起きる負の連鎖に飲み込まれていく「俺」。

生まれながら貧困の中で育つ「アキ」の見える世界がとても暗くて、とても低い。自ら低く低く目線を下げ、地べたで生きる野生生物を観察し、同じ目線で生きる「アキ」。地を這う生活を選び、汚いと罵られ、地上に這い上がる術も知らずに、心身を壊していく。心が澄んでいて、優しさに包まれる「アキ」の最期は幸せであってほしいと心から願う。

 

「失敗してもいい。チャレンジし続けること」が大事と思っていた若い頃、大人になるにつれ、失敗に怯え、それを許さない世間に怯え、主張すれば、扱いにくい人間とみなされる。ネットで充満している歪んだ精神に無関心である事が生きる術となり、声を上げることを忘れてしまう。

虐待、貧困、ハラスメント、過重労働、奨学金制度、生活保護、、長年に渡るあらゆる問題を取り扱っているこの作品。自分の生ぬるさに熱湯をかけられた気分です。辛かった。痛かった。苦しかった。でもとても深くて強いメッセージを受け取った。「助けてください」と言えない人たち。自分を追い込まず、人に頼る事を恥じないで、「助けて」と声を上げましょう。