みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ハンチバック』 市川 沙央

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

第169回芥川賞受賞。

「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた」

井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。
両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす。

 

【感想】

介護士やヤングケアラーなど支える側の視点から描かれる作品はいくつか読んできたけど、支えられる側の障害者視点からの作品を読み、身体の苦痛や疎外感が赤裸々に綴られて、想像の及ばなさにショックを受けました。

主人公・釈華は筋疾患を患う女性。「生きれば生きるほど私の身体はいびつに壊れていく」という身体的苦痛や、自らを「怪物」と呼ぶ強烈な表現、羨望する性への過激な言葉が、ナイフのように突き刺さってくる。

重度障害者の実態、健常者の特権性、異性入浴介助...。障害者に目を向けない日本社会への怒り、人としてごく普通の訴えすら共感されない驚き、敵わぬ強者に対しての憎しみ、痛み、苦しみに削られる思いになります。同時に人間の尊厳を守りたいという強い力も感じました。「涅槃」という言葉が多用されています。命の尊さ..まだその境地にはたどり着けていないという釈華の気持ちを目にして、体の内から込み上げるものを感じ、胸が熱くなったのです。

以前『累犯障害者』というノンフィクションの本を読み、障害者に対する生活支援不足やメディアのタブー化から社会に蓋をされてしまう現実が著者の感じる「疎外感」を強くしていくのだと思いました。身を削る読書でしたが、読んでよかったです。