みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『雪と心臓』 生馬 直樹

 

雪と心臓

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

クリスマスの夜。燃え盛る民家。取り残された少女。灼熱の地獄に飛び込んだ、一人の男。
炎の中から助け出された少女は、そのまま男に連れ去られた。

【感想】

救出劇から一転して、誘拐事件?と思わせる衝撃のプロローグ。彼が起こした衝動の裏には何があったのか?

場面は変わり、里居勇帆の視点から2卵性双生児の姉・帆名や友達との青春時代が語られていきます。。友達と遊び、喧嘩もし、身勝手な大人たちの理不尽さに怒り、気になる女子に恋をする、どこにでもいる男子学生の勇帆ですが、生まれた時に自分の全能力を奪ったのではないかと思うほど、優れている帆名に劣等感を抱き、帆名の常識を逸した破天荒っぷりに振り回され、投げかけられる言葉に傷付いていきます。帆名の言動にはハラハラさせられますが、揺るぎない言葉の裏にある優しさ、強さには魅力を感じます。

本編は双子との関わりにより、成長していく友人や家族を見守っていく感じです。帆名を除けば、至って普通の人々が普通に暮らしているのに、なぜか追いかけたくなるのです。。追いかけた先には...不幸な出来事が...そしてエピローグへ。なぜ、男は少女を連れ去ったのか?理由が判明しますが、プロローグの衝撃が強すぎて、印象に残りにくいラストになってしまったようです。

ここからは、ネタバレ含みますのでご注意を。

少女を連れ去ったのは勇帆です。勇帆の両親は離婚問題で揉めていたのですが、離婚が決定し、高校最後のクリスマス、家族全員で過ごすはずの夜に火事で勇帆以外の家族は焼死をしてしまいます。八年後のクリスマスの夜。勇帆の目の前で燃え盛る家から救出した少女に帆名を重ねたのでしょう。救った後、なぜ連れ去ったのか?という理由が「今度は、助けたかったから」なら、なぜ連れ去る必要かあったのか?と少し疑問。警察に追われ、事故をし、生死を彷徨う勇帆の意識の中に現れた帆名は、勇帆を迎えにきたのか?帆名が現れたことで、本編の回顧録は事故後の瞬間に帆名と共に思い出していたように感じます。記憶を失った勇帆に帆名の強い力が宿ってる気がしました。大胆な行動も帆名だったら...という思いがそうさせたのかも..と思うとやっぱり切ないです。

ストレートにキツい物言いをする帆名ですが、誰よりも勇帆を心配し、守ってくれる強い姉でした。勇帆は生きて未来を歩いていってほしい。誰よりも帆名がそう思ってるはず。