みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ

 

クララとお日さま

クララとお日さま

 

おすすめ ★★★★★

2021年発表の本書『クララとお日さま』は、6年ぶりの新作長篇でノーベル賞受賞第一作にあたる。

 

【感想】

語り手となるAF(Artificial Friend)と呼ばれる人工知能を持つ高性能AI・クララ。子どもたちの友達として開発された人工親友アンドロイドです。好奇心旺盛で、観察力に優れ、自然の世界や人間の心理、動きを観察し、心の成長をしていくクララを選んだ少女・ジョジー。クララの一人称で語られていくので、クララと共にジョジーを取り巻く環境を知るようになります。AIは労働をし、人間と共同生活をし、関係性を育み、人間や自身の心の動きを学んでいくこと。科学技術により遺伝子改編が可能となり、幼少期における教育の発達が向上させられる世界。裕福な家庭の子供は、より優れた能力を備えさせられることができ、高性能なAFを持つことができる。向上処置をしなかった子供の生活格差など、様々な未来のテーマがとても興味深く、倫理観も考えさせられ、時に残酷な決断に苦悩する場面など、AI視点なので断片的に説明される事でより想像し、考え、感情に訴えかけてきます。

特に魅力的なのがクララです。全てを観察し、吸収し、学習していく有能で愛情深いAI。栄養源である太陽光への強い想いがクララの原動力となり、太陽の恵みの奇跡を願うAIの不思議な心の揺らぎや純粋無垢の中に芽生える感情の成長。ゆっくりとわたしの心にも浸透していき、あたたまっていくのです。

 

少しネタバレをしますが、ラストのシーンで印象に残る場面。とある場所でクララがお世話になった店長さんと再会します。最新のAFではなかったクララを最高のAFと称えます。このシーンで家族と暮らすうちに人間として扱われていたクララはAIなのだと再認識しました。家族の望む事を全うしたクララの誇らしげな様子に、店長さんと同様にうれしくなる思いです。

 

科学技術の向上による子供たちの成長、AIに置き換えられてしまう労働、社会の場を失った人間の孤独を補うAIの存在、命に対する倫理観。。何事にも敏感になり絶望感に苦しむ人間と真摯に思考と向き合い心豊かに満ち溢れるAI。人の心とはどういうものか?未来の物語ではあるけど、現代にも通じる物語だと思います。自分に問いかけながら、深く考えることができた。。素晴らしかったです。

追記:ジョジーの母親の事はたくさんの思いがあるのだけれど、うまくまとまらない。クララに対する母の移り変わり。物から人間へ。娘とAI。向上処置の決断と責任。複雑すぎて。。再読した時に母に対しての感想を書いてみます。