みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『神様の暇つぶし』 千早 茜

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

夏の夜に出会った父より年上の男は私を見て「でかくなったなあ」と笑った。女に刺された腕から血を流しながら。―あのひとを知らなかった日々にはもう戻れない。

【感想】

男性と恋をしたことがない大学生の藤子が写真家・全さんと出会い、恋に落ち、初めての感情に心も身体も揺さぶられていく物語。千早さんの小説でこんなに激しく惹かれあう男女の熱情を描いた作品を読んだのは初めて。藤子が感じる全さんの男性的魅力が綺麗ではなく、汚らしい不潔感が混じる表現。だからこそ全さんに惹かれていく様子が生々しく伝わってくる。友人たちとの交流から藤子の純粋で実直な性格や友人との距離感など、さりげなく描かれる藤子の日常が、より二人の濃密な恋愛の上手な演出にも思える。誰一人、何一つ干渉されずにただただ思いのまま愛し合う二人だけが追求する愛。やがて訪れる別れ...。

「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫してようが、歳の差があろうが、略奪しようが、自分たちの恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ち悪い...だからって止められるもんじゃない」

全さんを知らなかった日々にはもう戻れない。後悔、渇望、虚無..喪失に苦しむ藤子。封印していた全さんが残した藤子の写真集を開く。そこには匂い立つ生命力を放つひとりの女のすべてが写し出されていた。写真集の描写は千早さんの表現力の力強さに圧倒され、胸が熱くなり揺さぶられる瞬間でした。恋というのは人生のたった一コマに過ぎないのかもしれないけど、生涯焼き付けてしまう恋。過去の自分を目の当たりにし、どんなに努力しても得られないあの時のすべてにうちのめされてしまう衝撃(恋をする女は最強..写真は罪深いわ)あとがきにも書いてあったが、千早さんの本を読むとお腹が空くの。食べたくなるの。食事シーンも相変わらず美味しそうでした。

久しぶりに恋愛小説に浸りました。