おすすめ ★★★★★
【内容紹介】
かなわぬ恋こそ、美しい―雨の気配を滲ませた母子に宿命的に惹かれ、人生設計を投げ捨てたエリート医師(「弱法師」)。編集者の愛を得るために小説を捧げ続けた若き作家(「卒塔婆小町」)。父と母、伯母の不可思議な関係に胸をふるわせる少女(「浮舟」)。能のモチーフをちりばめ、身を滅ぼすほどの激しい恋情が燃えたつ珠玉の三篇。
【感想】
一番良かった「卒塔婆小町」
壮大な長編を読んだよう。。息が止まりそうになり、生気を吸い取られた気分。どっと疲れた。
編集者の愛の為に作品を描き続ける作家。作品を貪る女の執念に圧倒された。。男が女に身を捧げる狂気の愛。。男の描く小説だけを愛し、男の命を貪り、才能を一滴残らず搾り取る女の容赦ない愛。。
「一匹の悪魔と百匹の天使を自身のなかに飼い馴らしているのが作家なら、百匹の悪魔と一匹の天使をおのれの内に棲まわせているのが編集者だ。それがわたしだ。」鳥肌が立った。その執念に応え続ける作家の最期にも震えた。
作家と編集者の愛の矛先が最期まで全く違う。だからこそ踏み込んでは行けない狂気の世界に作家は静かに入りこんでいく。凄まじいほど狂い、苦しみ、恐怖で震えながらも...。女にふさわしい美しい最期にも心突き抜かれる。。この作品は恐ろしいくらい読者に緊張感と衝撃を与える。
余命わずかな息子とその母を愛した医師(「弱法師」)、愛した女とその弟に同じ愛を注ぎ、一生を終えた妻(「浮舟」)、叶わぬ恋へ身を焦がすというより、身を滅ぼす過剰愛。深き森のような危険な美しさに惹き寄せられ、沼に嵌り、這い上がれなくなる恐れがある。身を滅ぼす果てには死があり、残された者たちの苦渋が果てしなく続く。
なんと息苦しく、切なく、恐ろしい羨望に駆られる狂おしい恋愛小説を描く作家さんなんだろう。
中山可穂さんは初めて読みました。あとがきで書かれてましたが、過激な性描写を描く恋愛小説を十年間描き続け、性描写抜きの物語を書いたのがこの作品だそうです。新境地なんですね。すごく良かったです。これからも読み続けたい作家さんです。