みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『性的不能者裁判』 ピエール・ダルモン

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

17、8世紀、狂人、貧民、同性愛者、神を冒涜する人、錬金術師らと並んで、社会ののけものとされた人びとがいた。かれらは、性的能力がないとみなされたために、法廷に立たされて、「男らしさの神話」の代償を払わされた…。本書は、この法と宗教のつめたい機械にこなごなにされた不幸な犠牲者たちの知られざる歴史ドラマを通して、かれらを執拗に迫害した人たちの心性にひそむものを探りだす。

【感想】

離婚が認められない時代。障害から婚姻無効とし、結婚をなかったことにする。16世紀に障害のうち特に重要視されたのが性的不能者の結婚。神学者たちは法医学的に性的不能についての定義に基づき、裁判で協議する。

不能は先天的なものなのか、相手によるものなのか、結婚前後で要因があるのか...はたまた呪いか...この見極めが難しい。性的不能を証明することが不明瞭で推定により証明する場合もあるので、裁判官の判定は罪深いと思う。裁判により、洗いざらい夫婦の性生活を暴露される精神的苦痛..身体的苦痛..さらに追い討ちをかける厳しい罰則。離婚、慰謝料、罰金、再婚の禁止。ほとんどの人が財産をなくし、理性も失い、悲嘆のあまり命までなくす人も。。

結婚の制限までもされるケースもある。両性具有者は法学者から性を決定されてしまい、他方の性を持つ人との結婚を許可される。決定される性と自己の意識との相違を訴えても、同性愛の罪で火刑に処されるという悲惨な運命に。。恐ろしい。。更に性の主張をするためにあらゆる身体の検査を受けなければならない。悲劇の連続。

老人の結婚も不能者として扱われてしまうのです。夫婦の年齢差‼︎夫65歳妻14歳。妻に訴えられ...というのも稀ではない。。一番驚いたのは「老いは一種の病気」という見解。乱暴すぎる笑。

健全な不能者との心の繋がりを求める結婚も認めるか否かを教皇たちで議論され、純潔、禁欲生活はいずれ危険に及ぶと結婚を禁じられる。

第一に結婚は子孫繁栄の為とされるもの。。不能を理由に離婚が認められるのは男性が性的主張をした場合のみ。女性からは認められない時代もあった。。夫は妻の頭領で離縁の権利は夫の側のみ。。「夫は妻を所有し、使用権を持つ」って夫の持ち物のような扱いの言葉が飛び交う。。女性の人権無視、女性蔑視には憤りを感じるが...裁判自体が..人権無視である。

裁判の流れは尋問から性器の鑑定(処女の執着が...純潔のしるしと崇拝されてるのに、荒々しく鑑定される。怖い)

性交実証...コングレ...鑑定者の前で妻と性交する能力があるか実証しなければならない。ここまで来ると、ヘトヘト。。もはや夫婦は実験材料と化していくのです。

しかし男の性的能力は男のシンボルだそうで、能力を証明する戦い!と、意気込んでコングレに挑戦する夫たちが相次ぐ。。憐れみの夫に一夜を捧げる妻。コングレはすべてに打ちひしがれている男たちに投げられる救命具...のようなものだそうだ...疲れる。

 

コングレ支持者と反対派(医師、法学者、神学者、文学者など)の論争が起き、波乱を巻き起こす。。多方面からの豊富な知識で糾弾しても、最大の論点は「破廉恥さと効力なし」

やっと気づいた?そう、破廉恥だよ。証明しようってのがそもそも無理だよ。。ゾウを見習って欲しい。

ゾウの営みは奥深い隠れ場でされ、その後、新鮮な流木の中で身を清めるように体を洗う...コングレな人間たちを考えるとゾウの慎み深さに神々しさを感じる。(←ここだけ感動した笑)

 

数々の裁判判例が紹介されていました。ドロドロの泥仕合ばかり。。

離婚が許されない時代。財産目当てで夫を...DV夫を...義母が婿を...性的不能として訴える偽造裁判もあります。。正当な理由で離婚ができない時代や裁判の拒否権がない妻には同情してしまうよ。

それにしても内容が濃い。驚きの連続。わたしには難易度が高くて、休み休み読みました。一年以上かかったかなぁ。。知らない世界をまたひとつ知ることができました。。ふぅ。