おすすめ ★★★★☆
【内容紹介】
「逃げなきゃ。この女のそばにいるのは危険すぎる」新人作家・汐田聖が目にした不倫妻の独白ブログ。ありきたりな内容だったが、そこまで登場する「不倫相手の母親」に感情をかき乱される。美しく、それでいて親しみやすさもある完璧な女性。彼女こそ、聖が長年存在を無視され、苦しめられてきた実の母親だった。ある時は遠い異国で、ある時は港の街で。名前も姿さえも偽りながら、無邪気に他人を次々と不幸に陥れる。果たして彼女の目的は、そして、聖の理解不能の母にどう向き合うのか？
【感想】
１話は不倫で家族を失う女性の話。なんてことない？不倫の話なのだが、読み終わると街中で偶然出会う不倫相手の母親の存在が不穏を残す。その後の短編では海外赴任の夫と暮らす優雅なマダムやいじめに遭う女子中学生など時代も場所も違う物語の主人公にそっと優しく寄り添う女性が登場する。美しく、親しみやすく、頼りがいのある女性なのだが、つかみどころのない存在感を出している。それぞれの主人公はわけもなく不穏と混乱に陥っていき、胸に小さな棘のようなものを残したまま物語は終わる。
「その女は悪意なく、歌うように噓をつく」
最後の「きみに親はいない」では作家の聖が苦しめられた母親のことを執筆する物語。その母親が各話で主人公たちに寄り添い、風のように去っていく女性・英利子。彼女の口から出た言葉はどこからが真実でどこまでが嘘なのか？すべてが嘘？..怖い。えげつない毒を持つ母親ですが、わたしは毒親の本を読むたびにいつも「父の不在」が気になっていたのです。母親ばかりが責め立てられるが、子供たちを救おうとせず、何もしない父親の存在が無視されている。本書は「父の不在」に触れていて、わたしの疑問に思っていたことが少し解消されました。優しく見守るだけで何もしないのも、子供にとっては不幸なのではないのか？母親が多大なる悪影響を及ぼすと理解しているのなら、父親が救うべきなのではないか？といつも頭に過ることを書いてもらえて、心救われました。
