みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『かんむり』 彩瀬 まる

 

かんむり

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

私たちはどうしようもなく、別々の体を生きている。夫婦...血を分けた子を持ち、同じ墓に入る二人の他人。かつては愛と体を交わし、多くの言葉を重ねたのに、今は...。

【感想】

虎治と光は若い頃に恋をし、夫婦となり、一児の父母となる。10代から70代までの夫婦の心の機微が描かれています。夫婦として一生を添い遂げるが、育児、教育、仕事の価値観の違いなど亀裂は生じる。それでも夫婦関係を継続する二人。夫婦のもどかしさを嫌というほど感じるが、共感もしました。夫婦って面白くもあり、難しくもあり。馬鹿みたいに「男とは...女とは...夫とは...妻とは...父とは...母とは...」にこだわる。育った環境や思考や学び、生理的感覚などのあらゆる要素、そして何より性別が全く違う他人が夫婦となるのだからぶつかり合い、寄り添い合い、時には妥協をしながら...継続していこうと努力をする。努力をするくらいなら離婚すればいいじゃない?と思うのですが(虎治と光の息子もなぜ一緒にいるのか?と疑問)、離れていく決定的なものがない夫婦は割といると思う。それは結果的には「愛してる」というところに行き着くのだと思う。年を重ね、体を重ねるごとに夫の体や営みの変化を愛おしく思う光(夫婦の夜の営みの描写..夫の体の観察が..かなり際どくて少し不快に感じるかもしれません)。。夫の変わりゆく心と体を疎ましく思うこともあれば、愛おしく思うことも..この感情は光にとっては自然な受け入れなのだが...虎治にとっては「妻を愛らしいと思う機能を持つこと」を保つ...。とても苦い気持ちにさせられる笑。

恋愛から結婚に移り変わると理想から現実のズレが生じる。「こんなはずじゃなかった」という気持ちは誰にでも訪れるだろうし、結婚生活を振り返れば分岐点を誤ることに悔やむこともあると思う。自分の「かんむり」(輝かしいはずの人生)はどこに置いてきてしまったのかと落胆するかもしれないけど、人生を愛おしいと思えた時に自分の頭上に「かんむり」があるのだと思う。