みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『キャベツ炒めに捧ぐ』井上 荒野

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「コロッケ」「キャベツ炒め」「豆ごはん」「鯵フライ」「白菜とリンゴとチーズと胡桃のサラダ」「ひじき煮」「茸の混ぜごはん」..東京の私鉄沿線のささやかな商店街にある「ここ家」のお惣菜は、とびっきり美味しい。にぎやかなオーナーの江子にむっつりの麻津子と内省的な郁子、大人の事情をたっぷり抱えた3人で切り盛りしている。彼女たちの愛しい人生を、幸福な記憶を、切ない想いを、季節の食べ物とともに描いた話題作。

【感想】

期待通りの美味しさ❣️こだわりの新米、お手製のがんもどき、熱々のあさりフライ、バターとニンニクで炒めたちぎりキャベツ、さつまいもと烏賊の炒め煮、切り干し大根、新キャベツのコールスロー、きゅうりのお漬物、穴子のちらし寿司...食材を丁寧に手間暇かけて作る家庭料理。食欲がそそるわぁ。品数豊富な惣菜屋「ここ家」で働く大人の事情を抱えた60歳の女性たち。離婚した夫を忘れられない江子。夫と息子を亡くした郁子。一途な恋に一喜一憂する麻津子。愛おしい幸せな記憶があるからこそ、失ってしまった悲しみはとてつもなく大きい。どうしようもない気持ちを抱えながらも、折り合いをつけて生きていく3人が痛々しさもあり、愛おしさもあり。。くだらない話をしながら惣菜を考案したり、美味しいお料理とお酒で気分を上げるが、悲しみは決して癒すことはできない。それでも日々は過ぎていく。
「芋版のあとに」の章で、郁子夫婦が毎年欠かさず作っていた年賀状用の芋版。喪中のため、作る必要が無くなってしまう。季節を巡る習慣や家族の営みがふと無くなってしまったと気づいた瞬間の悲しみは胸にくるものです。苦い過去は何度も振り返ってしまう。その度に落ち込むし、心が荒む。でも今を生きて、季節を巡り、旬の食べ物を楽しむ。これだけで傷は癒やされなくても、前を向くことはできる。アッ!麻津子のダーリンの名前は旬だった...今、思い出した。旬の〇〇を楽しむ...江子がいたらキャハハハって大笑いされるな笑。60歳になったら、落ち着いた大人の女性になりたいけど、江子たちのように落ち込んだり、楽しいことにはしゃいだり、恋をしてるかわからないけど、解決されないことを思い悩んだり、家事炊事をしてるんだろうなぁ。あれ?今と変わらない。成長しない人生..笑。

とにかく出てくるお惣菜がどれも美味しそうで食べた〜いというより、作りたい!という気持ちが湧き上がる本でした。