みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ふたりぐらし』 桜木 紫乃

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

元映写技師の夫、信好。母親との確執を解消できないままの妻、紗弓。一緒に暮らすと決めたあの日から、少しずつ幸せに近づいていく。そう信じながら、ふたりは夫婦になった。ささやかな喜びも、小さな嘘も、嫉妬も、沈黙も、疑心も、愛も、死も。ふたりにはすべて、必要なことだった。

【感想】

元映写技師の信好は、映画関係の仕事をするが、収入は少なく、妻の紗弓が看護師として家計を支える。夫婦それぞれの視点から交互に日常が語られる10篇の連作短編集。

母の突然の死別、実家の処分、映画関連の仕事、家計を支える妻への配慮、義父母との微妙な距離感に悩む信好、母親との確執を抱えながらも実家や、夫とのささやかな暮らしを大切にする紗弓。。自分に照らし合わせながら読むと共感をする場面が多く、深部が小さく揺さぶられ、一編読むごとに、波紋が大きくなり、息苦しさもありました。
悪気なく、何でも口にする母親、その言葉に傷つく紗弓。娘を労り、妻への想いを語る父。これこそ、どこにでもある家族像なんだろうなぁ。。わたしも何度も味わった事があります。「母が嫌い」と口に出すが、「紗弓のお父さんとお母さんのこと好きだな」と投げかけられる夫の言葉に心弾む紗弓の気持ちもとてもわかる。
信好と紗弓だけではなく、それぞれの両親、近隣の老夫婦など、様々なふたりぐらしを通し、幸せとは?と考えさせられる。亡き夫の分まで食材を買っては腐らせてしまう信好の母、家庭持ちの男を狭い部屋に置かれたダブルベッドと共に待つひとり暮らしの女など、大人の物寂しさに身を焦がしてしまう。。桜木作品の薄暗い雰囲気...淡々とした言葉...突き刺す現実...妙に沁みる...やはり好きです。

夫や妻は「理想の人」?
恋愛時期は...と、遠い目(´-`)...結婚は夢や理想だけで、生活できない事は実感してる。喜びとやりきれなさの連続。小さな嘘、沈黙は時には必要です。日常を駆け巡る事で精一杯。ふたりぐらしの幸せのカタチを考える余裕もないですが...年を重ねて、どんな諍いも娯楽だったと思える人生は、幸せなんだろうなぁ。

「隣に紗弓がいるあいだ、自分は真のかなしみに出会わずに済む気がした。ふたりでいれば、親の死でさえ流れゆく景色になる....ひとりではうまく流れてゆけないから、ふたりになったのではないか」

幸せな「ふたりぐらし」の先にある「ひとりぐらし」を思うと...胸が張り裂ける想いにもなるのです。