みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『化物園』 恒川 光太郎

 

化物園

化物園

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おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

スリルに憑かれ空き巣を繰り返す羽矢子。だが侵入した家の猫に引っかかれ、逃げた先で奇妙な老人に出会い……「猫どろぼう猫」自尊心が高く現実に向き合えない王司。金目的で父の死を隠蔽した後、家にやってきたのは……「窮鼠の旅」〈お手伝いさん〉として田舎の館に住み込むことになった、たえ。そこでの生活は優雅だが、どこか淫靡で……「風のない夕暮れ、狐たちと」
その他「十字路の蛇」「胡乱の山犬」「日陰の鳥」「音楽の子供たち」全七篇。

【感想】

人食いケシヨウ。時を超え、獣や猫、人間と姿を変え、、化物や妖魔と恐れられたり、神と崇められたり...人間界で、その実体が明らかにされず、とても不気味な存在として伝えられていく。前半の物語は現代の日本が舞台で愚かな人間をユーモアを交えて描かれています。人間の悪意や残虐さが破滅へ追い詰められていく様子をじっと見つめる一匹の生物。徐々に時代が遡り、日本から異国へ。物語も切なくて悲しい、寂しくて懐かしい。不思議な印象に変わっていきます。ラストの話は幻想的な異界。閉じられた場所に集められた12人の子供たち。風禍と呼ばれる謎の存在に捧げるために音楽を奏でる子供たち。平和を信じていた世界から破滅までをなんとも優美に描かれていて、浮遊感に包まれます。一番好きなお話でした。

人間は面白い。だが決して飼ってはならぬ。人間は凶暴にもなり、狡猾にもなり、制御できなくなる。それでも人間を愛するケシヨウは純粋で素晴らしい人間が育つと信じている。歪んだ欲望を抱え、悪意に染まり、狂気と化すのは人間そのもの。嫉妬、劣等感を生み出すのも、戦争を繰り返すのも人間。ケシヨウと人間のどちらが化物?