みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『横道世之介』 吉田 修一

 

横道世之介 (文春文庫)

横道世之介 (文春文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

大学進学のため長崎から上京した横道世之介18歳。愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる。友の結婚に出産、学園祭のサンバ行進、お嬢様との恋愛、カメラとの出会い…。誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。


【感想】

時代は令和ですが、、昭和満載のお話を読んで、声を出して笑いました。。

横道世之介。。お気楽で、人の頼みは断れないお人好し。そんな世之介の大学生活1年間の日常が描かれてます。友の結婚、一目惚れした年上の女性、お嬢様との恋愛、帰省する度に東京に染まっていく世之介。。
初めはバブル期の健全なる男子学生の青春謳歌話を延々と読み、、なんて平和な時代なんだろ?と、笑ったり、呆れたり。。クルージングデート、バイトのチップ1万円とか。。バブルってすごい。。勢いがあって、迷いがない。。世之介だから?時代だから?

お嬢様・祥子との出会いから世之介の味わいが深く浸透してくる。。祥子の人生が激動でとても興味深い女性。。個性強めの彼女との恋愛がゆっくり進むところがとても良かった。。別れるのが早いけど。。笑。

「あいつ...どうしたっけ?」と常に気になるわけではないけど、ふと思い出したくなる存在。。誰かの思い出の中に自然体で入り込める世之介の魅力。。最後のページを読んで、表紙を見るとじんわりと胸に込み上げてくる。。

大人の世之介がどんな人生かなぁ。。祥子ちゃんとは続いてほしかったなぁ。。人生において、学生の頃の出会いや出来事は刹那的だけど、、思い出すと色鮮やかに蘇る。。そんな青春時代が描かれた明るい吉田作品もいいなぁ。。

『儚い羊たちの祝宴』 米澤 穂信

 

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

【感想】

「身内に不幸がありまして」
丹山家のお嬢様のお世話役・村里夕日の手記から物語が綴られる。ある日丹山家で、惨劇が。翌年も翌々年も同日に丹山家の親族が次々と殺害される。お嬢様をお守りしたい夕日は...。(殺害理由...呆然ゾワリ)

 

「北の館の罪人」
母が亡くなる前に「六綱家に行きなさい」と言われ、六綱家の屋敷に訪れた内名あまり。北の館にいる人物の世話をするようにと命じられる。その人物は...。(歪みの上塗り...血縁ゾワリ)

 

「山荘秘聞」
家政婦としての腕を見込まれた屋島さんは、辰野嘉門の別荘管理を任される。。雄大な屋敷を完璧に管理するが、、一年経っても誰も泊まりに来ない。。そこに...。(完璧の失態...来客者ゾワリ)

 

「玉野五十鈴の誉れ」
小栗家の王として振る舞う祖母に厳しく育てられる純香。15の誕生日に贈られた使用人・玉野五十鈴。同年代の友達との交際を禁じられた純香にとって、同い年の五十鈴はかけがえのない存在となる。命令に従順な玉野五十鈴の誉れは...。(使用人の鑑?...後味ゾワリ)

 

「儚い羊たちの晩餐」
ある一冊の日記の最初の頁に書かれていたのは「バベルの会はこうして消滅した」
バベルの会を除名された毬絵。成金の父が雇う新しい料理人・夏。珍しい食材を調理する凄腕の料理人。毬絵が命じた入手困難な食材のお料理は...。(お嬢様のお戯れ...最恐ゾワリ)

 

五つの物語に登場する「バベルの会」教養と品格のある優雅な会員制読書会。。覗いてみたいなぁ。。その存在が明らかになるのはラストのお話。。覗きたい気持ちが一気に打ち消される。。いずれもお屋敷に住む上流階級の人たちと従順な使用人たちの狂気、歪みがひたひたと胸に迫ってきて、ラストに冷たい恐怖が広がります。。お話は真っ黒で後味はあまり良くありません。。作中に出てくる本を読んだ人はもっと楽しめそうです。。いや、楽しんでいいのかな?
初めての米澤さん。。他の作品も気になります。

『草花たちの静かな誓い』 宮本 輝

 

草花たちの静かな誓い

草花たちの静かな誓い

 

おすすめ  ★★★☆☆

【内容紹介】

ロサンゼルス在住の叔母の、突然の訃報。弦矢は謎を追い始める―。叔母・菊枝の死を知り、甥の弦矢が渡米すると、巨額な遺産の相続人として彼が指名されていた。また、幼くして病死したはずの叔母の娘が、実は死んだのではなく、ずっと行方不明なのだと知らされる。なぜ叔母はそのことを黙っていたのか。娘はどこにいるのか。

【感想】

叔母の大豪邸に納骨を済ませるまで、しばらく住む弦也。。一人で大豪邸に住み、莫大な遺産の目録を渡され、病死したと思っていた従姉妹が生きてるかも?探さないと?どうやって?と、、混乱しますよね。。でも意外と冷静な弦也。。叔母の作ったスープの数々を楽しんだり。。何種類の花が彩る庭園で草花たちとおしゃべりしたり。。自分と対話して独り言が多くなったり。。叔母が誰にも悟られないように隠した秘密を見つけては、謎を深めたり。。叔母と親交してきた人々と出会い、叔母の思い出を振り返り。。カフェで恋心を抱いたり。。そんな優雅な暮らしを満喫してる弦也ですが頭の中を大きく占めてるのはもちろん従姉妹の行方。。これが大きな目的。。一人では探せるわけがない。。雇った敏腕私立探偵・ニコ。。仕事が抜群に早い男。。ニコの登場からゆったりした話が大きく動き出す。

 

ネタバレします。

真相解明へ。。やるせなかったなぁ。。子を守り抜く母親の強い想いがさせた行動は、とても悲しい。。アメリカで子供の行方不明の年間件数の多さ。子供を一人にさせてはいけないというルールがあるアメリカで、なぜ菊枝が子供を一人にさせたのか?序盤から意図的にした事だと気づく。。二十七年間、子を懸命に探すフリをしながら、遠くの子供を見守ること。。夫の娘への異常行為。。小さな疑惑から母、妻、女の勘は鋭く、娘の心身を案ずる。。夫を問い詰めることはできない。。娘を父親から守るための苦肉の策とはいえ、辛い決断。。夫への愛も深く、娘への愛から嫉妬へ変化する自分への恐怖。。苦しみはとても辛い。。異国の地だからこその話なんだろうけど、他に対策はなかったのか悔やまれる。。経済的に豊かで、恵まれた環境でも母の一転する孤独さをとても感じる話でした。。

 

菊枝が作り続けたスープ。。どんな想いだったんだろう。。花園の草花たちの声を聞きながら、キクエのスープを食べたいなぁ。。できることなら、レシピもほしい。。

『まつらひ』 村山 由佳

 

まつらひ

まつらひ

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

夏祭りが近づくたび、艶夢のなかで激しく乱れる舞桜子。どれだけ過去から逃れても、年の離れた男しか愛せない秋実。夫との夜がなくなって以来、熾火のような欲求を抱え続ける小夜子…。神々を祭らふ夜。男と女は、人の世の裂け目を踏みはずす―恋愛と官能の第一人者が多様な“性”を描き尽くす!六つの禁断の物語。

 

【感想】

祭。。神事。。神々を祭らふ夜。。こんな夜に...。こんな夜だから...?

 

「夜明け前」長野県の農家に嫁いだ舞桜子。愛する夫、可愛い娘、優しい姑と、たまに帰郷する義兄と幸せな暮らしをする。。
(闇が深いよ。夜が明ければいいけど...。)

 

「ANNIVERSARY」夫と息子との生活に幸せと喜びを感じる妻が幼い頃に遊んだ秘密の儀式から思わぬ人生が。。
パラレルワールド。。自分の歩んだ人生を追い求める人生。。なかなか興味深い)

 

「柔らかな迷路」離別した夫婦の再生の話。。
(元夫婦の再生って、ファンタジーに思えちゃう)

 

「水底の華」眩しく光り輝く夫が脳梗塞で倒れ、不自由な体に。。献身に支える妻の行き場のない思い。。
(謙虚な妻の奥底の傲慢さが見え隠れ。。辻村さんの『善良と傲慢』を思い出すなぁ)

 

「約束の神」ピアノ教師の友春が「神」と崇める幼馴染の剣児との永遠の約束。2人で参加した故郷の裸祭「蘇民祭」など思い出を語る。。
(友春の少年期の苦しみも蘇民祭の話で吹っ飛んでしまった。極寒の中の裸祭。髪がバリバリに凍る。苦行の印象が強烈。覚悟のいるお祭りはすごいなぁ)

 

「分かつまで」写真家の秋実とふた回り年上のライター・穂村は福島県の相馬野馬追の取材に訪れる。。
(この話が一番好きです。相馬野馬追祭りの臨場感があって良かった。年配者、若者、子供達の甲冑に身を包んだ騎馬武者たち。侍そのものの凛々しい姿がかっこいい。あらゆる紋様の旗を掲げる武者たちを乗せて歩く馬の姿も美しいだろうなぁ。危険区域に残された馬の突き放された愛情を重ねる秋実の心の内にも胸が打たれる)

 

神々を祭らふ夜は、人を惑わせる何かが漂うのでしょうか?どのお話も日常から非日常の境界線ギリギリを歩いているような、ふっと足を踏み込んでしまいそうな危うい男女のお話でした。

『スコーレ NO.4』 宮下 奈都

 

スコーレNo.4 (光文社文庫)

スコーレNo.4 (光文社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

自由奔放な妹・七葉に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは…。ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。

 

【感想】

骨董品屋さんで生まれ育った三姉妹。。長女・麻子は真面目で頑固。次女・七葉(なのは)は美人で自由奔放。三女・紗英は天真爛漫でみんなに愛される末っ子。。優しい父と母と正しさを教えてくれる祖母と物腰やわらかな町でなんの不自由もなく育つ麻子。思春期を迎えたときに気づく、七葉との違い。。成長するにつれ、七葉と比較をしては自分を見出せずに苦しむ麻子。。社会人になってからの話がとても面白かった。

様々な出会いや恋が麻子に影響を与えていき、大きな心の変化はないけど、伸びやかに成長していく心象風景がとても丁寧に描かれ、読んでいて心地よい。。

わたしがとてもお気に入りのシーンは麻子が仕事で達成感を得る場面から心萎みながらも小さなやり甲斐を見つけて半歩前に踏み込んでいくところ。。わたしまでも晴れやかになっていく。。自分のことが一番不可解であり、特に良い面は気づきにくいもの。。麻子から見た七葉は眩しく見えるかもしれないけど、七葉から見た麻子も同じなのではないかなぁ。姉妹っていいなぁ。。💞

『夜また夜の深い夜』 桐野 夏生

 

夜また夜の深い夜 (幻冬舎文庫)

夜また夜の深い夜 (幻冬舎文庫)

 

おすすめ ★★☆☆☆

【内容紹介】

友達に本当の名前を言っちゃだめ。マイコにそう厳命する母は整形を繰り返す秘密主義者。母娘はアジアやヨーロッパの都市を転々とし、四年前からナポリのスラムに住む。国籍もIDもなく、父の名前も自分のルーツもわからないマイコは、難民キャンプ育ちの七海さん宛に、初めて本名を明かして手紙を書き始めた。疾走感溢れる現代サバイバル小説。

 

【感想】

謎めいた母との暮らしは閉ざされた世界。。バイト先のお菓子屋さんと自宅の行き来だったマイコが心惹かれる場所に出会う。。漫画喫茶。。店長のシュンの好意で、お店を手伝いながら、漫画を読み耽る。。「花より男子」「あさきゆめみし」「うる星やつら」「めぞん一刻」「るろうに剣心」「NANA」「スラムダンク」「バガボンド」「MONSTAR」「ぼくの地球を守って」などなど。。世代がわかる漫画選び。。わたしも好きです笑。(後に浦沢直樹PLUTO』が出てくる。。これも大好きです)

漫画喫茶に通い、狭かった世界が日本の漫画を通して徐々に広がり始める。。平和な日本に夢を見、言葉や文化を知り、妄想という楽しさを覚えるマイコ。。

ところが母に漫画喫茶へ通っていることを叱られ、家出をしたマイコ。家出後から急展開。。幼い頃に壮絶な経験をした2人の少女・エリスとアナに出会う。。3人のサバイバル生活が始まる。。

過酷な現実を目の当たりにし、平和と夢だけの漫画の世界に絶望をしていく。。綺麗事では生き抜けないストリートの世界。。

 

内戦で家族を殺されたエリスの言葉が印象的で心に残る。
「人間は他人の経験なんて、正確に理解はできないよ...だから、そのシンプルな事実を受け入れて、後は想像して生きるしかない」

 

3人の友情が危ういながら、微笑ましいからこそ、、犯罪に手を染めていく救いようのない生活が心を痛ませる。。

 

いくつかの気になる謎。。マイコの母親の秘密とは?自分は一体何者?七海とは?3人の少女の行く末は?

後半に明らかにされていくが、、なんというあっけなさ。。わからないことだらけで、頭の中は???ばかり。。???な部分を置き去りにして、、終わってしまった。。残念。。

『天上の葦』 太田 愛

 

天上の葦 上

天上の葦 上

 
天上の葦 下

天上の葦 下

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

白昼、老人は渋谷の交差点で何もない空を指して絶命した。死の間際、老人はあの空に何を見ていたのか。突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。老人が死んだ同じ日、一人の公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる刑事・相馬。廃屋に残された夥しい血痕、老人のポケットから見つかった大手テレビ局社長の名刺、遠い過去から届いた一枚の葉書、そして闇の中の孔雀。二つの事件がひとつに結ばれた先には、社会を一変させる犯罪が仕組まれていた。鑓水、修司、相馬の三人が最大の謎に挑む。


【感想】
『犯罪者』で手に汗握るスピード感とスリルを楽しみ、『幻夏』で冤罪で苦しめられた人々の悲しみの深さに切なさと重みを引きずり、ようやく読んだ『天上の葦』。。圧巻でした。

素晴らしかった。。その一言以上になんて言えばいいのかしら。。とにかく素晴らしかった。。やっぱり一言では収まらないので、、感想書きます。少しだけネタバレしちゃってます。

ある人物の正光と共に戦った頃の語りには、凄みを感じました。。今も胸に刻み込まれた恐怖と悲しみ。。残酷さを伝える側の苦しみ。。信念が崩壊していく瞬間。。忘れてはいけないあの日。。
ここまでスピード感のある展開だった物語が老人の語りで一気にスピードダウンをさせ、壮絶な戦争の大きな過ちをこれでもかと叩き込んでくる。。

今も昔も情報に踊らされる国民。。戦時中に奪われた発言の自由。。戦闘意欲を高める報道。。使命、信念だけでは生き抜けられない現実。。生きていても苦しい時代。。正光が指差した想いを忘れてはいけないと心の底から思えます。。今までにはない角度から描き切る戦争の恐怖。。悲しみに圧倒されながらも、、とても感動しました。

 

本作の主人公はいつも飄々として軽い雰囲気の鑓水。。鑓水が正光へこだわる理由は彼の知られざる過去にあり、より人間性に深みが増し、とても惹き込まれます。

 

3作を通して、太田さんは人間の描き方がとても丁寧だと思いました。おかげで鑓水、相馬、修司に寄り添いながら読めたと思います。。

 

「常に小さな火から始まるのです」

 

まさに太田さんの描くストーリーは小さな火から始まり、壮大な物語に。。面白かった。シリーズ内でベストだけど、1作目から読むことを強くオススメします。。本作は今年のマイベスト確定だと思います。