みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『マークスの山』 髙村 薫

 

 

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

「マークスさ。先生たちの大事なマ、ア、ク、ス! 」。あの日、彼の心に一粒の種が播かれた。それは運命の名を得、枝を茂らせてゆく。南アルプスで発見された白骨死体。三年後に東京で発生した、アウトローと検事の連続殺人。《殺せ、殺せ》。都会の片隅で恋人と暮らす青年の裡には、もうひとりの男が潜んでいた。警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補の眼前に立ちふさがる、黒一色の山。

【感想】

気合の入った文章に圧倒されながら、混乱しつつも最後まで読み終えた。達成感!混乱した理由は不慣れな文体と登場人物の相関性を把握するまでに時間がかかったこと。主要人物だけは認識できた...多分。

北岳の麓で両親が車中で心中を図るが、一命をとりとめ、救助された10歳の少年は一酸化炭素中毒により精神的な病を患う。同時期に北岳で起こる殺人事件。時が経ち、現場付近で発見された謎の白骨死体。その後に都内で起きる連続殺人事件。生き残った少年がどう絡んでいくのか?

主役?ですよね?合田雄一郎刑事は...。クセの強い登場人物が多すぎて、若干わたしの中では存在薄めの合田刑事。どのセリフが合田さんか見失う...(読み手の失態です)...しかし、たまの帰宅で見せる生活感。清潔感があって好き。合田刑事が自宅に帰る前に自動販売機で缶コーヒーを2つ買って、身分を隠して近所の交番のおまわりさんと世間話をしたり、お風呂でいつもスニーカーを洗ってたり、元妻の兄でもあり、友人でもある加納検事(合田宅の合鍵持ってる!)の置手紙に思いを馳せたり、元妻との苦い思い出にクヨクヨしたり、という緊張感を解す、静かな時間は好き。それ以外はずっと怒号が飛び交う警察内部や所轄間のしがらみで進まない捜査に焦り、イライラ。感情的になると飛び出す関西弁にドキッとする‼

髙村先生の丁寧な心理描写と地理描写には感嘆しました。精神異常を期した青年の狂気と養父母の不安感や彼女の無責任さ、どうしようもなさなど、、ダメ感の描き方が凄まじかった。あと、私事ですが、青年と彼女が暮らす住宅付近が、我が家の近所。病院から駅周辺、彼女の自宅まで丁寧に描いているので、脳内に風景がまざまざと。あまりのリアリティに震撼しちゃう。

真相や動機について残る疑問や、いくつかの案件は触れずにこのまま終わるの?とか、青年の狂気に至る核心についてもう少し深堀してほしいなぁというモヤっとした部分もありましたが、一山超えた感じがします。山で狂う人もいれば、山に狂わされた人もいる。。ラストは思いもよらぬ切なさが広がる。