おすすめ ★★★★⭐︎
【内容紹介】
美術教師が殺害された事件を追う女刑事。彼女と事件を繋ぐのは、少女の写真をアップしているアングラサイトだった。
事件の真相は彼女自身も抱える捻れた愛によることに気づき……。
第39回小説推理新人賞奨励賞に選ばれた「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」を含む四編を収録した短篇集。
謎が解かれた先の、人の感情の揺れを丁寧な筆致で描く期待のデビュー作!
【感想】
冒頭のニーチェの言葉
「怪物と戦う者は、自分もそのため怪物とならないように用心するがよい。そして、君が長く深淵を覗き込むならば、深淵もまた君を覗き込む。」心の深淵をテーマとする短編集。なかなか興味深いです。
「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」
美術教師変死事件を追う女性刑事。死んだ教師が残した遺書と娘の裸の撮影データ。「父が、好きでした」と語る娘。罪悪感から教師は自死を選んだのか、それとも...。
(父と娘の真相に迫ると同時に女性刑事の過去の父とのトラウマに苦悩し葛藤をしていく。心の深部を見つめたことで彼女は真相に辿りつく。娘と美術部の男子生徒の心の内側にある愛憎と悲痛の叫び..おぞましさすら幻想的に思えてくる)
「人でなしの弟」
二人きりで生きてきた兄弟。親代わりになって弟を育ててきた過保護で優しい兄。兄の転落死がきっかけで知られざる兄のもう一つの顔が浮かんでくる...。
(見えていた部分が覆される事の衝撃。次々と明らかにされる兄の冷血さを知る弟の怒り。人間って多面性があり、一面ではない。。最後の弟の言葉がうれしかった)
「さかなの子」
小さな漁村で父を殺された少年。彼を気遣う教師。教師の元に記者が現れ、事件現場へ。教師の不可解な様子に記者は...。
(これは完成度が高い‼︎すごく良かった。信頼する健気な少年と無自覚に悪意を潜ませる教師。その深部を追い込む記者。複雑な人間心理の描写が素晴らしかった。久々に興奮してしまった。これはぜひ読んでほしい)
「メーデーメーデー」
交通誘導員の青年が突然見ず知らずの女子高生から声をかけられる。街角で起きた小さな交通事故の調査依頼をされ、ある人を探してほしいと...。
(無気力でめんどくさがりの青年と強引で正義感溢れる女子高生。高校の頃に好きだった女子からの言葉をきっかけに他者との関わりを避けてきた青年。暴いた真相や女子高生の真意に迫るうちに高まる優越感、幸福感。深い人間関係から遠ざかっていた青年の心の変化に...わたしも駆け出したくなった)
「君が長く深淵を覗き込むならば、深淵もまた君を覗き込む。」
ニーチェの言葉は以前違う本で知り、とてつもなく怖かったので書き留めた覚えがあります。心の深部は美しくありたいけど、残酷を孕んでて、清くありたくても、醜さも潜んでて...そういう心の深淵を描き切る作品がデビュー作とは...凄い‼︎の一言でした。後半二作で五つ星なんだけど、期待を込めて星四つ(*^^*)これからも追い続けたい作家さんです。