みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『スワン』 呉 勝浩

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃事件が発生した。死傷者40名に迫る大惨事を生き延びた高校生のいずみは、同じ事件の被害者で同級生の小梢から、保身のために人質を見捨てたことを暴露される。被害者から一転して非難の的になったいずみのもとに、ある日一通の招待状が届いた。5人の事件関係者が集められた「お茶会」の目的は、残された謎の解明だというが...。

【感想】

事件発生までのショッピングモールで過ごす人々の視点のなにげない日常、平和な休日が浮かびあがる中、犯人側の視点では銃撃事件の計画、動機や経緯、模造拳銃の入った鞄、仲間割れなど非日常な場面から緊迫感が走る。ショッピングモールという行き慣れた場所なので、想像がしやすく、店内のパニック状態の恐怖が身近に感じられる。

犯人と接触し、生き残った女子高生のいずみは犯人から犠牲者を指名を命令された事実を公表されてしまい、世間から非難されることとなり、被害者から一転して加害者のような扱いを受けてしまう。いずみたちに送られた招待状の目的は事件で亡くなられた高齢女性の死の謎を解明したいとうこと。召集された5人の事件関係者は当日のそれぞれの行動を確認されるが...真実を語らない者、何かを恐れる者、怒りをぶつける者...隠された真実は一体何なのか?

『爆弾』のヒリヒリする衝撃が思い起こされる。ただそこにいただけで、人生を狂わされてしまう。事件に遭遇しただけでも理不尽なことなのに、マスコミや世間から受ける誹謗中傷。。(言葉は心を殺してしまうと改めて考えさせられる)。。「当事者」という苦しみは当事者にしかわからない。当事者以外からすると、通りすがりのような事件で時がたてば新しい事件に目を向け、またそれをも忘れていってしまう。しかし当事者は自責に駆られ、苦悩を抱えながら生きていかなければならない。事件解明よりも心動かされたのは、いずみや被害者たちそれぞれの抱える問題に怒り、悲しみ、苦しみ、どう向き合うか、どう乗り越えるか、どう許せるのか。。すべては当事者が決断すること。決して世間ではない。人間心理の動きに強く引かれる物語でした。