みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『川のほとりに立つ者は』 寺地 はるな

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。
「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

【感想】

恋人、友人、家族、仕事仲間...どんなに関わりが深くなっても、相手の全てを知ることはできない。相手の言動で人物像を作り上げ、好意や嫌悪感を抱き、誤解をしたりされたり...。「他人をわかったつもりでいる」という危うさ。自分の常識という物差しで相手を測ってしまうことで、それ以上の想像が出来ず、相手を傷つけてしまう。強い人ほど、相手にも強さを求めてしまうのかもしれない。。「相手の立場になって考える」。。「弱い部分を認めてあげる」。。特にコロナ禍のこの数年で、急激に強まった意識だと思う。繊細な人だけじゃなく、強靭な人も生きにくい時代なんだなぁと感じました。

 

過去の松木と清瀬の日常のなかで時々出てくる海外文学「夜の底の川」。「川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない」でも清瀬は水底の石がそれぞれ違うことを知っている。川自身も知らない石が沈んでいることも。人はひとりひとり違うからこそ、関わることの難しさを問われた物語でした。正解はないけど、希望を感じられるラストでよかった。