みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『息が詰まるようなこの場所で』 外山 薫

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

タワマンには3種類の人間が住んでいる。資産家とサラリーマン、そして地権者だ――。
大手銀行の一般職として働く平田さやかは、念願のタワマンに住みながらも日々ストレスが絶えない。一人息子である充の過酷な受験戦争、同じマンションの最上階に住む医者一族の高杉家、そして総合職としてエリートコースを歩む同僚やPTAの雑務。種々のストレスから逃れたいと思ったとき、向かったのは親友・マミの元だった。かつては港区で一緒に遊び回り、夢を語り合った二人だったが――。幸せとはなんなのだろう。
逃げ場所などない東京砂漠を生きる人々の焦燥と葛藤!

【感想】

砂漠Twitterで綴る窓際三等兵の「タワマン文学」が小説化された本です。

湾岸の人気タワーマンションの最上階に住む資産家・高杉家。中層階に住む地権者・伊地知家。低層階に住むサラリーマン・平田家。中学受験で妻が抱える焦燥と葛藤。夫の悲哀。。

「第一章 平田さやかの憂鬱」念願のタワマンに暮らす共働き夫婦。一人息子を高杉家の息子と同じ名門塾に通わせるが、成績が伸び悩み焦るさやか。仕事にPTAと日々ストレスを抱えていく。「第二章 平田健太の憔悴」大手銀行に勤めるさやかの夫・健太は職場では出世競争、高学歴の新入社員の世話、家庭では受験で不機嫌な妻に神経をすり減らしていく。

「第三章 高杉綾子の煩悶」元読者モデルの綾子。医者の一族に嫁ぐインフルエンサー主婦。義母の重圧に耐え、後継である息子の名門中学合格を目指す。起業家の義弟と転校してきた帰国子女に影響を受ける息子の小さな変化が綾子をざわつかせる...。

「第四章 高杉徹の決断」父の病院を嫁いだ徹。美人の妻、成績優秀な息子と音楽の才能を持つ娘とタワマン最上階に住む資産家。後継ぎとして厳しく育てられ、起業して成功する弟に複雑な思いを抱く。息子に将来の夢を打ち明けられ...。

高杉徹の決断に泣いてしまった。自分の受験と重ね合わせてしまう徹や社会のしがらみに悲観し、息子に同じ思いをさせたくない健太。母より受験に関わりの少ない父親も葛藤がある。最上階に住む高杉家の満たされない心情がリアルで興味深かった。地方出身者のさやかと綾子が憧れた東京の暮らしは息が詰まるような場所だが、地権者一家・伊地知家(タワマン建設地に元々住んでいた地元の人々)にとっては住み慣れた場所。子供の進路は公立中学で受験とは無縁の生活を送る伊地知家への高杉家と平田家の憧憬の思い。境遇の違う母親たちの「タワマン、中学受験、PTA」というキーワードだとドラマのような殺伐とした母親たちの関係性を連想されるが、心の中ではヒエラルキーに多少の妬みはあるものの、小学六年生の受験に必死に取り組む両親の現実が描かれていて、なかなか面白かった。タワマン最上階が最上ではなく、上には上がいる。。東京には、世界には、キリがないほど上がいることを叩きつけられる物語でした。

地べたで暮らす東京すみっこ暮らしのわたしは高層に住む人々のお受験に圧倒されてしまった(さやかは狂気を帯びていた)。地権者妻・理恵のようにのびのびと子育てをしてきたが、実は甘々なお受験だったと気付かされた。