みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『中国行きのスロウ・ボート』 村上 春樹

 

おすすめ ★★★☆☆

小川洋子さんの『注文の多い注文書』の第三話に出てくる村上春樹さんの「貧乏な叔母さんの話」に興味を持ち、手に取った短編集。初期の作品です。

「貧乏な叔母さんの話」

貧乏な叔母さんについて物語を書こうとする小説家。貧乏な叔母さんが身内にいるわけではない。いつの間にか、ことばの概念として存在する「貧乏な叔母さん」が背中に現れる。書こうとしても書けない貧乏な叔母さんの物語。恋人らしき女性の「あなたは何ひとつ救えない」。貧乏な叔母さんの世界では小説は何の救いにもならないという嘆きが伝わってくる。電車で母親から叱られ悲しむ少女すら救えないと悟る小説家の背中から貧乏な叔母さんは消え去るのです。読み終わり『注文の多い注文書』の第三話を再読。背中にいた貧乏な叔母さんがいつの間にか消えたシーンから、嘆き悲しむ少女に貧乏な叔母さんは乗り移ったのではないか?悲しみを抱く者に光を見出すまで見守る天使のような存在なのではないか?村上春樹さんの物語の救いのないネガティブな感情が残る貧乏な叔母さんが小川洋子さんの物語で天使のような存在に変貌していた。。不思議と心が湧き立つ。

他の作品は村上春樹短編集でも大好きな『象の消滅』に収録された物語でした。こちらも隙間時間で再読。本の旅をしてるようで、楽しい。