みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『ぶらんこ乗り』 いしいしんじ

 

ぶらんこ乗り (新潮文庫)

ぶらんこ乗り (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。―天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて…。物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。

 

【感想】

ぶらんこに乗るのも、悪ふざけも、おはなしを作るのも、動物たちのお話を聞くのも、指を鳴らすのも、、お姉ちゃんをこちらの世界に引き戻すのも上手な「あのこ」。。今はいないあのこ。。「あのこ」のノートに認められた物語を「私」は読む。「私」は思い出を浮かべながら、楽しげに読んでいた。

家族で見に行ったサーカスの思い出。ぶらんこ乗りに心奪われる弟(手を繋いでも、すぐ離れる手。また繋がれ、また離れる手。繋がれ離される手。怖いだろうなぁ)

飼い犬になる野良犬との思い出(飼い犬の名前が「指の音」これだけで心弾む)

ぶらんこ乗りに夢中になった弟の悲劇。事故で声を失った弟は動物から聞いた話を書き連ねる。。読み進めるうちに弟の孤独を知る「私」。。弟の悲劇に相次ぎ、不幸な事故が姉弟に降りかかる。。両親の事故死。。姉がぶらんこに乗ってるような行ったり来たり状態。。悲しみの浮遊感。。すごくわかる。。弟は底知れぬ恐怖を抱いているだろう。。姉をこちらの世界に引き寄せる最後の物語。。誰の目にも触れられなかったノートは姉に聞かせる弟の物語だった。。

とても切なかった。。胸を痛めながら読んだ。。誰に見せるわけでもない小さな物語。。姉も弟も不思議な引力に自然と引き寄せあいながら、見えない手を繋ぎ合う。。あの頃は気づかなかったことを「あのこ」のノートから感じ取る今の「私」と一緒に今のわたしも寂しさが募っていく。。

ひらがなの物語にも、たまに「あのこ」の絵が描いてあったりして、その絵がものすごく和むよ。。ほわっとする。。

「おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ」

人の気持ちに寄り添う、思いやる、感じ入る。優しさが染みる物語。ひらがなで書かれた小さな物語が心にじんわり響く物語。

でもしんみりして悲しい。。いや寂しいかな。。そんな切ない物語である。