みみの無趣味な故に・・・

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『春、バーニーズで』 吉田 修一

 

春、バーニーズで (文春文庫)

春、バーニーズで (文春文庫)

  • 作者:吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/12/06
  • メディア: 文庫
 

おすすめ★★★★☆

【内容紹介】

妻と幼い息子を連れた筒井は、むかし一緒に暮らしていた男と、新宿バーニーズのスーツ売り場でばったり再会する。懐かしいその人は、花柄の派手なシャツを着て、指には大きなエメラルドの指輪、相変わらずの女言葉で、まだ学生らしき若い男の服を選んでいた。当惑した若い男の姿は、まるで10年前の自分だ。日常のふとしたときに流れ出す、選ばなかったもうひとつの時間。デビュー作「最後の息子」のその後が語られる表題作にはじまる、磨きぬかれた連作短篇集。

 

【感想】

離婚歴のある子持ちの女性と結婚した筒井。何気ない日常を過ごす男性の心の内が描かれた短編。

 

「春、バーニーズで」昔、同棲していた男との再会。なんの苦労もなく居心地の良い場所を逃げ出した過去。若い頃の自分を振り返り、父性愛が滲み出るラストが良かった。

「パパが電車をおりるころ」息子とマクドナルドで相席した女性と息子の何気ない行動でメアド交換をする事に。。日常で起きる非日常の何気なさが、日常にうまく風化されていく様。ドラマにならない出来事。まさに日常でいい。

「夫婦の悪戯」後輩の結婚式に夫婦で出席。ホテルで酔った妻が一つずつ嘘をつく遊びをしようと言い出す。筒井は嘘をつくはずが、過去の秘密を暴露。妻も驚きの嘘をつく。もちろんお互い「嘘をつく遊び」をしてるので、嘘なんだけど、ぎこちない空気が流れる。これは面白かった。夫婦には時々、こういう危うさってあるね。

「パーキングエリア」出勤途中、衝動的に遠出をしてしまった筒井。修学旅行で置き去りにした腕時計を思い出す。もし目的地で見つけたら..。不満も何もない人生だけど、言葉では表せない何かが理由で、ふとハンドルを切ってしまう衝動。妻の不安と計らい。とてもよくわかる。

「楽園」選ばなかった人生を歩む筒井?不慮の事故が起きない限り、楽園は続くの?

今までの日常が嘘のような不穏な空気をもたらすラスト。こういうのが、吉田修一らしい。

 

日常の中にあるさりげない非日常くらいが幸せなんだと思う。。非日常の世界に突入するって、先の見えない恐怖に襲われそう。トーヒコーも踏み込み過ぎると怖い。。引き返すブレーキになる存在でもありたいし、ブレーキを持ち合わせたい。

 

読後に【内容紹介】を読んで、『最後の息子』の続編と知った。昔読んだことがあるけど、思い出せず、再読しました。今読むと切ないわ。

『最後の息子』 吉田 修一 - みみの無趣味な故に・・・