みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『狐狼の血』 柚月 裕子

 

孤狼の血 (角川文庫)

孤狼の血 (角川文庫)

  • 作者:柚月裕子
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 文庫
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

昭和六十三年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく―。

【感想】

大上刑事(ガミさん)は優秀な刑事である一方、癒着や違法捜査などの黒い噂が絶えない男。。ガミさんの下に配属された国立大出身の若き刑事・日岡秀一。

暴力団担当係の警察小説は初めて読みました。なんともギラギラした世界。。違法スレスレではなく、完全アウトなガミさんの魅力が極上に描かれ、人間的に惹かれていきます。極悪刑事なんだろうけど、好き。。昭和の時代背景が洗練される今時と違い、無骨な男たちの生き様がリアルに描かれ泥汚さも魅力的に感じられる。。広島弁の言葉の凄み、裏の世界の男女の色気、漂う空気が妙にかっこいい。堅気(←一般市民)に危険を及ぶことだけは許されないと、暴力団同士の抗争を阻止したい警察。。バイオレンスが苦手なのですが、暴力描写があまりないです。。しかし緊迫感、恐怖感がひしひし伝わります。ガミさんの荒々しさにハラハラし通しで、読む手が止まりません。。任侠の世界...暴力、欲望、信頼、裏切りに立ち向かう正義...ヤクザと警察...正義とは何か?綺麗事では済まされない世界。日高刑事から見た大上刑事の生き様...どう受け継がれていくのか...続編も楽しみ。。

『強欲な羊』 美輪 和音

 

強欲な羊 (創元推理文庫)

強欲な羊 (創元推理文庫)

  • 作者:美輪 和音
  • 発売日: 2015/07/14
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

とある屋敷で暮らす美しい姉妹のもとにやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた数々の陰湿で邪悪な事件。ついには妹が姉を殺害するにいたったのだが―。“羊の皮を被った狼”は姉妹どちらなのか?圧倒的な筆力で第七回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。揺れ動く男の心理と狡猾な女を巧みに描く「背徳の羊」、愛する王子と暮らす穏やかな日々が崩壊する過程を、女たちの語りで紡ぐ「ストックホルムの羊」ほか全五編で贈る、女性ならではの狂気と恐怖を描いたイヤミス連作集。

【感想】

「強欲な羊」

洋館に住む美人姉妹。艶やかな美貌で気性の激しい姉と可憐で儚げな優しい妹。幼い頃から姉妹の間では陰湿な事件が起きる。ついに妹が姉を殺害...。(姉妹の欲深さ..真相解明だけでは終わらない。そこからが本当の恐怖)

「背徳の羊」

絵に描いたような幸せ4人家族。妻のお腹の中には新しい命が。友人家族と過ごした別荘でほんの小さな違和感から、ある疑惑が...本当に自分の子なのか?妻への不信を募らせ、過去を探ると...。(この話が一番イヤミスかも。でもものすごく面白い。人の不安感を煽り、精神的に追い込む...ラストの意外性が良かった。ほんとに悪い人なんで関わりたくないけど、見事だわって思った笑)

「眠れる夜の羊」

恋人は「年齢が十歳も離れている妻子持ちの男性」だったが、離婚は成立している。両親に強く結婚を反対されてしまい、そのうち親友に恋人を取られてしまった女性(29歳)は不眠症に陥る。親友が公園で殺害される事件が起きる。自分が殺してしまったのか...。(母親の監視が強く、呪縛から解き放たれたい娘...なぜ両親が結婚を強く反対していたのか。母親がとても毒に感じるが、「歳の離れた妻子持ち」言葉の錯覚...思い込み...なるほど、確かに不安だわ)

「ストックホルムの羊」

愛する王子に仕えるお世話係の女性たちのそれぞれの視点から語られる。閉ざされた塔で幸せに暮らしていた女性たちの前に、突然現れた異国の言葉を話す女性・マリア。女性たちの暮らしが崩壊していく...(これはオチが最高に面白かった。異国の言葉に爆笑。マリアから見た光景は衝撃的だろうなぁ)

「生贄の羊」...こちらは今までの短編にまつわる人たちが登場します。ホラーな仕上がり。ラストはあの話に繋がるのだろう。

 

言葉巧みに操られたように感じます。言葉の錯覚、思い込みでラストのプチどんでん返しが面白かったです。女性の狂気の生贄にはなりたくないですね。『暗黒の羊』も読んでみたいです。。腹黒い羊たち..怖そう。

『結婚させる家』 桂 望実

 

結婚させる家

結婚させる家

  • 作者:桂 望実
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

40歳以上限定の結婚情報サービス会社「ブルーパール」で働く桐生恭子は、婚活界のレジェンドと崇められている。担当する会員のカップリング率一位のカリスマ相談員なのだ。恭子の発案で、大邸宅「M屋敷」に交際中の会員を泊まらせ、一緒に暮らしてみるという「プレ夫婦生活」プランがスタートした。中高年の彼らは、深刻な過去、家族の存在、健康不安と、様々な問題を抱えているが…。人生のパートナーを求める50代男女の滋味あふれる婚活物語。

【感想】

桐生恭子は50代の女性にカップリング成功をする秘訣を提示していく。女性のプロフィールの修正(偽りではなくあくまでも修正です)、会話の「さしすせそ」。。さすがですね。知りませんでした。凄いですね。センスがいい。そうなんですか...という相槌...会話の五十音を考えてみたくなりました。「ありがとう。いいと思います。うれしい。えー?...からの驚きですね」素直に肯定する事が大事なのではないかと...。男の子3人と暮らし学んだ肯定術...笑。

話は物語に戻して...
独身の恭子は相談員の立場を考慮して、既婚者を偽る。孤独には慣れている...しかし時折、ふと涙が出る。恭子にはこの涙の意味がわからない。。プレ夫婦生活プランを通して、相談者と深く関わり、気持ちに寄り添い、ただ闇雲にカップル成立を達成させるだけではいけないと気づく。
50年、歳を重ねた男女には歩んだ人生があり、波乱万丈もあり、平凡な毎日と思う人もあり、生活に追われ奮闘している人もあり...同じ幸せの形で収まるのではなく、人生の足跡により幸せの形はそれぞれが違う。50代ともなると、親の介護や、成人した子供たちの事情、本人の気持ち次第だけで事が運ぶわけではない。。自分の人生をどう豊かに歩みたいか..歩める可能性を秘めているのもこの年代からなのではないかと...わたしはあともう少し歳を重ねた後の人生に夢を見ているのです。。
「人を幸せにする仕事」ではなく「人の幸せを願う仕事」....業種問わず全ての仕事をしてる人たちに共通してますね。人間性は大事。外見がどんなに良くても、この人と過ごしていきたいと思う人間性がなければ、人は離れて行く。そう思ってもらえる魅力のある人になりたい。

『ルームメイト』 今邑 彩

 

ルームメイト (中公文庫)

ルームメイト (中公文庫)

  • 作者:今邑 彩
  • 発売日: 2006/04/01
  • メディア: 文庫
 

おすすめ  ★★★☆☆

【内容紹介】

私は彼女の事を何も知らなかったのか…?大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが…。

【感想】

大昔に読んだ本。ルームメイトが自分の真似をして段々似てくる...そんな内容だった気がする...大はずれ...見事に内容を忘れてました。

東京でアパートを探す大学生・春海。不動産屋で出会った女子大生・西村麗子と意気投合し、一緒に住むことに。しばらくすると麗子に異変が...。その後失踪した麗子の跡を追うと、別人格で三重生活を。。幼い頃の虐待により引き起こされた解離性同一性障害。多重人格者であるルームメイトの本当の顔を知りたいと強く思う春海...凶悪殺人事件を追いかけるライターや本物の西村麗子、春海の憧れの先輩が絡み、驚愕のラストへ...という流れです。

 

ネタバレします。ご注意を。

女子大生・西村麗子の正体は麗子の実母である青柳麻美(←42歳だけど、20代に見える若さ)麻美の中のルームメイトはホステスのマリ、娘の麗子、幼少時アメリカに住んでいた頃の6歳の麻美(サミー)...。

この本の驚愕な所は、春海も多重人格者だった...なのだと。純粋で素直な春海の別人格は幼い頃に亡くなった兄。マリと関わり、凶悪殺人事件に手を染める。。残虐で凶悪な人格が潜んでいる春海と多重人格者の麻美が出会い、一緒に住む...すごい設定だわ。。かなり無理矢理な力技...この力技に押されるがまま、ラストの展開に大きな期待をかけている自分がいる。。さぁどうなるの?...春海の憧れの先輩から宥められ、聞き分けの良い凶悪な兄。静かに浄化されていく...穏やかに収束していく...。📖( •ω•) ポカン。

 

数年後...また忘れそうな内容だ。再読してまた拍子抜けするのか...それとも驚愕するのか..それもまた楽しみではある。笑。

『ヒトのオスは飼わないの?』 米原 万里

 

ヒトのオスは飼わないの? (文春文庫)

ヒトのオスは飼わないの? (文春文庫)

  • 作者:米原万里
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

ネコ4+イヌ2+ヒト2=8頭この総数は流動的だが、いつもニギヤカな米原家の日常。ロシア語通訳の仕事先で恋に落ちたり、拾ったり。ヒトのオスにはチトきびしいが、ネコとイヌには惜しみなく愛情をふりそそぐ名エッセイストの波乱万丈、傑作ペット・エッセイ集。ネコ好きもイヌ好きも楽しめます。

【感想】

米原さんと犬猫たちとの家族ドラマを面白おかしく書かれているエッセイです。

1冊丸ごとペットの話だけど、米原さんの知識とユーモア炸裂で面白かった〜♪

わたしは愛犬家ですが、猫の愛くるしさ、深い感受性、予想を遥かに超える行動力に心を奪われてしまいました。。でも猫は戦利品をわざわざ持ち帰ってくるので...飼うのは無理かな。。あっ!無理💕💕米原さんの愛猫の名前の付け方が面白い。名前の最後に「り」をつけるこだわりを持つ米原さん。歴代の猫の名前は「ビリ」「チビリ」。新しく家族に迎えた白茶猫(オス)と白黒猫(メス)の名前は白茶が、いつも白黒のエサを横取りしちゃうので「無理が通れば、道理が引っ込む」から白茶が無理(ムリ)、白黒が道理(ドリ)。。その後も2匹の猫を迎えるのだけど、名前の候補が面白い。。きり&くもり、ちり&ほこり..笑。どんな名前になったかな?

無理は喧嘩が強くて生傷が絶えない、家族を守る姿がかっこいい。無理の恋のお相手・道理は町内一の美人さんでモテモテ。ヒトとネコの生活に米原さんが連れ帰った野良犬のゲンが加わる。。新参者に無理と道理はどうなるのか?

個性豊かなのは犬猫だけではありません。笑いが込み上げてくるのは、全ロシア愛猫家協会の会長・ニーナは強烈に面白い。猫と出会えばネコ語で会話。。会話もめちゃ面白い。。ニーナは米原さんにとって強力な存在となり、色々と助けてくれるのです。

最後はとても悲しいお別れがあり、、すっかり愛着が湧いて、感想を書いてる今も涙が浮かんでしまいます...。日々奮闘しながら、犬猫たちに惜しみない愛情を注ぐ米原さんの数々のエピソードには喜びも驚きも悲しみも笑いも。。出会いから別れまで、生き生きと綴られるエッセイ。。わたしも愛犬との毎日を大切にしていこう。

 

『さいはての家』 彩瀬 まる

 

さいはての家 (集英社文芸単行本)

さいはての家 (集英社文芸単行本)

  • 作者:彩瀬まる
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: Kindle版
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

家族を捨てて逃げてきた不倫カップル。逃亡中のヒットマンと、事情を知らない元同級生。新興宗教の元教祖だった老齢の婦人。親の決めた結婚から逃げてきた女とその妹。子育てに戸惑い、仕事を言い訳に家から逃げた男。行き詰まった人々が、ひととき住み着く「家」を巡る連作短編集。

【感想】

帰る場所、帰らなければいけない場所から逃げる人々たちの「家」。。片田舎の古い家は人生の通過点。誰もが帰る場所を念頭に置きながら生活をしているうちに、不穏な展開に。

特に印象深いのは元教祖の老婦人。巨大な組織の教祖様から転落し、数少ない信徒たちとの逃亡のうち、ひとり、またひとりと亡くなり、孤独の果てに行き着いた「家」。。光の国を作り上げた人生の果ては地獄なのか。

美しさと醜さの景色に見惚れた人生。この世から逃げたくて仕方がない。それと同じくらい、この先にどんな地獄が待っていても、この世に触れたくて仕方がない。

見える景色がガラリと変わる瞬間が人生にはあると思う。どんな世界にたどり着き、どんな景色が見られるのか。逃げても逃げても、生き延びて見届けていかないとね。。自分だけの景色だから。

『不実な美女か 貞淑な醜女か』 米原 万里

 

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

同時通訳者の頭の中って、一体どうなっているんだろう?異文化の摩擦点である同時通訳の現場は緊張に次ぐ緊張の連続。思わぬ事態が出来する。いかにピンチを切り抜け、とっさの機転をきかせるか。日本のロシア語通訳では史上最強と謳われる米原女史が、珍談・奇談、失敗談を交えつつ、同時通訳の内幕を初公開!「通訳」を徹底的に分析し、言語そのものの本質にも迫る、爆笑の大研究。

【感想】

「不実な美女」と「貞淑な醜女」。。翻訳の整い方を女性の美醜で表現してます。どんな通訳、翻訳が最も望ましいか。理想は「貞淑な美女」。最悪なのが「不実な醜女」。。発言者の言葉は予測不可能。立ち行かなくなるので、通訳者のほとんどの訳が「不実な美女」か「貞淑な醜女」となるそうです。

 

政治、経済、宇宙飛行士、核燃料、医療、ファッション、スポーツ...あらゆる機関の発信者の言葉を受け継ぎ、「忠実」に訳さなければならない。はしたない言葉も修正する権利がない。話し手の使いそうな用語や表現をまとめ、専門知識や用語も頭に叩き込む。。事前の準備は必須。。時代と共に変換される差別用語や地域の方言、中国の固有名詞、日本の漢字読み違いなどなど、言語との悪戦苦闘が繰り広げられてる。通訳者に必要不可欠なのが「記憶力」。。話し手の発言内容(瞬間記憶)、話し手の専門知識(中期的記憶)、大量の語彙(長期的記憶)。。知識収集は「本を読むこと」。。暗記という苦痛を和らげ、理解のプロセスという極上の快楽を生む。。なるほど。わたしも本からの知識はとても役に立ってます。記憶の定着はたまにないけど笑。

 

通訳の仕事、本音、苦労、心凍るほど緊迫状態、失敗談もユーモアと下ネタを交え、独特な筆致で面白くおかしく紹介してあります。言語の本質追求、研究への迫り方がすごい。「言葉の戦い、また和解の物語」と称された本作が米原さんのデビュー作。通訳者を目指してる人たちはこの本を読んだ方がいいと思います。