みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『傑作はまだ』 瀬尾 まいこ

 

傑作はまだ

傑作はまだ

 

おすすめ ★★★☆☆

 

【内容紹介】

「実の父親に言うのはおかしいけど、やっぱりはじめましてで、いいんだよね?」
引きこもり作家・加賀野の元へ生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子・智が突然訪ねてきた。月十万円の養育費を振込むと、息子の写真が一枚届く。それが唯一の関わりだった二人。初対面の息子との共同生活が始まり、、孤独慣れしていた加賀野に変化が...。

 

【感想】

本屋大賞の『そしてバトンは渡された』は読んでません。。初読作家さんです。。とても読みやすかったです。。

小説家・加賀野さんは売れっ子作家さんだけど想像力が乏しく、世間知らず、情が薄く、人との付き合いに欠落あり。。でも感受性は高そう。。息子との生活で一気に世界が広がる。。息子が持ち帰ってくるコンビニの人気商品に感動したり、息子と参加する自治会の子供祭りで出会ったご近所さんと不器用ながら、交流し始めたり。。あまりいい印象ではなかった加賀野さんが憎めなくなってきた。。いくら女性が一人で育てるとはいえ、、一度も会いに行かずに無関心でいるのって冷たいなぁという印象だったので。。

読み進めると、孤独の怖さを感じられた。。引きこもると人間関係で傷つく事はない。。自分の価値観だけで生きることができる。。ストレスも減少される。。でも、、人の優しさに触れて思いやる感情を持つこともできず、人に傷つけられて強さを知ることもできず、お店に並ぶお菓子の新商品に心弾んだり、季節の移り変わりの自然を感じることも知らずに生きること。。この事に気づけない怖さ。。それを息子くんから気づかせてもらった父は幸せだったと思う。。明るいお話でした。。加賀野さんの描く小説(中村文則さん風?)とは違って笑。。

『湯を沸かすほどの熱い愛』 中野 量太

 

湯を沸かすほどの熱い愛 (文春文庫 な 74-1)

湯を沸かすほどの熱い愛 (文春文庫 な 74-1)

 

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

銭湯「幸の湯」を営む幸野家。しかし、父が1年前にふらっと出奔し銭湯は休業状態。母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。 そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。その日から、彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め実行していく。家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる、気が優しすぎる娘を独り立ちさせる、娘をある人に会わせる…母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うものだった。ぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく家族。そして母から受けた大きな愛で繋がった家族は、究極の愛を込めて母を葬ることを決意する。

 

【感想】

冒頭に愛される銭湯の雰囲気があったか〜と始まる回想シーン。。夫失踪後の休業をした銭湯から静けさと寂しさが伺える。。双葉の強い人柄が休業を告げる張り紙でわかる「湯気のように店主が蒸発しました。しばらくの間、お湯は湧きません。幸の湯」

双葉と安澄母娘の二人生活。。安澄は高校でいじめに苦しむが母は娘に強くなってほしい。。娘は母に心配をさせたくない。。心の内に不安を持ちながら、お互いを思いやるとても良い母娘関係。。ここまではよくある母娘関係の話だけど、、突然余命2ヶ月という宣告を受ける双葉。この瞬間からタイムリミットを覚悟した彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め実行していく。1秒も無駄にできない双葉の想いが周囲を巻き込んで、一気に駆け巡る。。家出した夫を見つけると夫の隠し子と思われる小学生の女の子・鮎子と同居。二人を連れ帰り、、四人暮らしが始まる。。急かされ、、焦る気持ちが時には人を傷つけてしまう。。家族がその愛に精一杯応えようと変わっていく姿に、、心打たれる。。双葉の「やっておくべきこと」。。自分がいなくなる世界の為に命がけでやらなければならないこと。。最後の最後まで、家族を思う双葉と母を安心させて見送りたい家族。。ずっと泣いた。。全力の愛情が全身に伝わり、、震えるくらい泣けた。。感想を書いてる間も、、泣けてくるわ。。

そして衝撃のラスト。。ネタバレします。

涙うるうるで読んでだけど(இдஇ )「ん?」ってなった。。母の遺体を湯船に?。。お湯を沸かして、グツグツ?。。えっと...自分たちの手で?煙突からは「モクモクモクモク」。。双葉を一人にさせたくない家族の思い。。熱い♨️熱すぎる♨️タイトルはここに繋がるわけね。。♨️熱い愛だわ。。

映画はとても評判が良いそうです。。宮沢りえさんが美しいそうだ。。観てみたい。。ラストがとても気になる。。

『罪と罰を読まない』 岸本 佐和子 三浦 しをん 吉田 篤弘 吉田 浩美

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

抱腹必至。読まずに語り、読んで語る読書会

翻訳家、作家、作家であり装丁家の四人が名著『罪と罰』の内容を僅かな手がかりから推理、その後みっちり読んで朗らかに語り合う。

 

【感想】

めちゃくちゃ面白かった。。📖🎶🎶
ドストエフスキー(ドストと四人は独自のアダ名を付けてます)の名作『罪と罰』を読んでいない四人の作家さんたちが少ない情報から内容を推察していく「読まない」読書会。
作家さんたちの視点が面白い。。冒頭1ページを読み、主人公の人物描写から、物語の展開を予想していく。。素晴らしい想像力。。どんどん人物像が作り上げられていく。。各章の気になるページを少しだけ読み、僅かなヒントで登場人物の心理状態や関係性から物語を創造していく。。作家さんたちの考察が深い。。特にしをんさんが面白かった。。さすが妄想力が長けてます。。あくまでも想像の物語なので、『罪と罰』の内容とは異なる。。妄想ストーリーを考えた四人は最後に『罪と罰』を読むのです。。そこからの検証も面白かった。。まず『罪と罰』は相当面白いそうです。。登場人物はみんな変。。苦悩フェチで中二病な主人公・ラスコーリニコフ(ラスコ)、松岡修造的暑苦しさのラズミーヒン(馬)、気弱→教祖→聖母へ変貌するソーニャ、妻に鞭打ちされ、まんざらでもないソーニャ父・マルメラードフ(マメ父、マゾのマ)など。。謎めいた男・スヴィドリガイロフ(スベ)は女性陣たちの心を惹きつけたようで、かなり盛り上がってた。。唯一男性の吉田篤弘さんが作家目線ならではのドスト小説の素晴らしさを物語ってます。。

本を読まなくても「読む」ことができるのは教養と知識がある作家さんの作品を深く読み取る力と名作が成せること。。『罪と罰』を読みたくなる錯覚が起きる。。1000ページ( ; ⊙ω;⊙;)。。名前が覚えられない自信がある(「アダ名を付けて読む」は今後参考にしていきたい)。。人気者スヴィドリガイロフの幻想的な場面は読んでみたい。。「読書会」面白かったぁ。。😊📖🎶

『老後の資金がありません』垣谷美雨

 

老後の資金がありません (中公文庫)

老後の資金がありません (中公文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

後藤篤子50歳。夫54歳。娘28歳。息子22歳。子供の教育費が終わり、老後に蓄えていた貯金1200万と退職金で悠々自適な暮らしを夢見てた。。ところが、娘の派手婚、舅のお葬式、墓代、姑への仕送りで資金がどんどん減って行く。。貯金は300万円に。。見栄張り夫とは意見が合わずイライラ。。その上、夫婦でリストラにあってしまい、退職金もなし。。再就職の道は厳しい状況。。お舅さんのお葬式やお姑さんの今後の生活を話し合う義妹夫婦とのやりとりが生々しい。。親族だからこその難しさ。。長男である夫の見栄と逃げが、、笑っちゃうほど、リアリテイがある。。娘の結婚相手はDV夫?かも?娘の事を思うと、お金お金お金💦と負の連鎖に陥り、心配が尽きない。。習い事で知り合ったお友達、節約家・サヤカとセレブの主婦・美乃留に不安や劣等感が募っていく。。今までなかった感情が込み上げ、心まで貧乏にと嘆く。。後々、幸せそうな篤子の周辺の人々にも忍び寄る生活破綻という陰が彼女たちを追い込む。。垣谷さん。。心のざわつかせが天下一品だわ...と感心しちゃう。。

後半は優雅なお姑さんの生き生きする姿に老後も悪いもんじゃない?と思わせられるけど。。年金詐欺の片棒の真似はしたくない。。寿命が縮む。。笑

 

相談しにくいお金事情。。自分だけの苦しみではない。。人の価値観は違うけど、見栄を張ってしまう部分は少なからずあるのだろうから、、大切なお金を人に惑わされないようにする為には予備知識は大切だと思う。。お金ももちろんだけど、、友達はほんっとに大事だと思いました。。お金があっても孤独は辛い。。まだまだ老後資金まで考えられないと思ってたけど、、平穏な暮らしと、、たまに友達と遊べる資金は残したいなぁ。。

『みかづき』 森 絵都

 

みかづき (集英社文庫)

みかづき (集英社文庫)

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

昭和36年。放課後の用務員室で子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、ある少女の母・千明に見込まれ、学習塾を開くことに。この決断が、何代にもわたる大島家の波瀾万丈の人生の幕開けとなる。吾郎と千明は結婚し、娘誕生。戦後のベビーブームや高度経済成長の時流に乗り、急速に塾は成長していくが...。

【感想】

戦後から平成までの塾業界の歴史を見事に描き切ってくれたおかげで、、自分の子供時代の塾(厳しかったよ)から我が子の現代までの塾(現在進行中)の思い出がまざまざと浮かび上がりました。。
文部省と塾の対立、詰め込み教育からゆとり教育、受験戦争、学力低下、所得による教育格差。。(どの問題も頭悩ます)。。時代の移り変わりと共に変化していく教育制度と弊害。。求められる教育を追い続け、塾が大きく成長するにつれ、塾開設時の理想からかけ離れていく千明。。塾長でもあり、妻でもあり、母でもあり、、家族との葛藤もあり。。長女・蕗子は母の天敵である公立学校の教師の道へ。。母の性格にそっくりな次女・蘭は塾経営に。。天真爛漫で明るい三女・菜々美は外国で慈善活動を。。強気な母に反抗的な娘たち。。母の生き様、芯の強さは受け継いでる。。娘たちの困難を全力で受け止める母親の度量(やや過干渉ではあるが...)と、、吾郎と血の繋がらない蕗子との血縁を超えた父娘愛にじんわりさせられる。
千明の母・頼子さんは孫や娘、婿さんを陰ながら支え、適切な助言をしたり、教育現場には欠かせない保護者対応の心遣いなど、大島家にとって、大きな存在。。おばあちゃんが出てくるとε-(´ー` )ホッとする。
蕗子の長男・一郎が悩み悩み、学習支援慈善事業を営む。塾に通えない子供達に学びの場を作り、一人一人に必要な学習とは何か?と切磋琢磨していく姿も応援したくなる。。それぞれ違う教育の場で子供の自立教育に真摯に向き合う大島家の人間模様も良かった。

千明の塾開設前の言葉。
「学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思う」
後に語る言葉。
「教育も自分と同様、常に何かが欠けている三日月。欠けている自覚があればこそ、人は満ちようと研鑽を積むのかもしれない」「満月たりえない途上の月」

夢や希望に満ち溢れてた頃と激動の人生を歩んできた言葉。。重みが感じられる。。
満ち足りないからこそ、人は向上していこうと思い、情熱を注いでいく。。そんな人生を全うできたなら、、最期は満ち足りた人生だと思えるんじゃないかなぁ。。🌕

『戦慄の絆』

 

戦慄の絆 <デジタルリマスター版> [DVD]

戦慄の絆 <デジタルリマスター版> [DVD]

 

おすすめ ★★★★☆

 

【感想】

ネット開通工事により、映画チャンネルが増えたので、久しぶりに映画鑑賞。。朝からサイコスリラーを観ちゃった。

野心家で自信家で策略家の兄・エリオット。。繊細で真面目で研究熱心な弟・ビバリー。。幼い頃から一心同体に育ち、産婦人科医を開業する。。全く正反対の性格を持ちながら、すべてを共有し、許しあってきた兄弟。。2人で栄光を掴み、お互い必要不可欠な存在に。。しかし、クレアという女性患者との出会い...ビバリーのクレアへの愛情が全てを共有する兄弟の間に初めて秘密が生まれ、均衡を保っていた兄弟の精神を蝕みはじめる。。ビバリーの兄離れから、、精神崩壊。。薬に頼り、狂い始める。。一方兄も、弟の異変に徐々に精神崩壊の道へ。。

 

怖かった。。朝からこんな怖い映画を流していいのかしら。。産婦人科医師が崩壊していくというだけで、、女性としてただただ怖い。。崩壊医師の診察、手術シーンだけでも恐怖炸裂。。赤色の手術衣。。震える手。。器具の冷たさと鋭さ。。患者の酸素マスクを奪うほどの酸欠医師。。手術放棄。。どれも怖すぎる。。

 

効果音と映像は恐怖を煽る演出として時代を感じるが、、双子の医師を演じるジェレミー・アイアンズ。この人の演技が底の見えない闇に包まれてて怖すぎる。。同一人物とは思えない演技力で双子を演じ分けている。。2人が崩壊してから見分けのつかなくなる狂気には心ざわつき、震える。。ラストの誕生日。。まさに戦慄が走る。。心臓を鷲掴みされたかのような痛みが走るわ。。朝から刺激的。。落ち着かないと。

完璧な双子。。完璧って恐怖に繋がりやすいのかなぁ。。兄のエリオットの方が完璧主義だけど、精神崩壊した兄の心の弱さは弟よりも激しく崩れてた。。

『あずかりやさん』大山 淳子

 

([お]15-1)あずかりやさん (ポプラ文庫)
 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

高級自転車、遺書、一通の封筒、大切な本…。あずかってと言われたものをあずかり、それがどんなものだろうと、一日百円。心やさしい店主・桐島透が営む、不思議なお店「あずかりやさん」を舞台に、お客さまが持ち込む「あずけもの」に隠されたそれぞれの思いと秘密が交差する。悩み傷ついていた心がじんわりと癒される物語。

 

【感想】

明日町こんぺいとう商店街の西の端に藍染ののれんが掛けられたお店「あずかりやさん」

とても誠実でとても優しくとても読書家で盲目の店主・桐島透。

人の抱えられない「物」を預かる「あずかりやさん」。。店主の桐島くんは「あずかりもの」との距離を置き、どんなお客様でも依頼は全て誠実に対応。。小さなお客様でも不穏なお客様でも、時には店主の心を動かす素敵なお客様でも、「物」をあずかる姿勢は変わらず。。桐島くんは店内で点字ボランティアの相沢さん(準レギュラー?)が訳してくれた本を読む生活。。行動範囲は狭くてもたくさんの人々や物たちとの関わりで、豊かな人間性を育まれてる。。人との交流の大事さも気づかされました。


この物語のとても良かったところは店主に恋するのれんやちょっとひねくれ者のガラスケース、「社長」という名の白い猫、預け物の自転車...と人ではなく、物や動物の視点で語られるところ。場所もほぼ店内だけ。。「物」を通して人の心に寄り添っていくあずかりやさんにふさわしい語り手たち。猫は時折寝ちゃうので、、店主とお客様のやりとりが突如途切れちゃうのも楽しい。。^_^

 

誰しも事情があって、不思議な行動にもワケがあり、その人にしかわからないこと。。そんな事があってもいいんじゃない?と思える温かな気持ちが広がる物語でした。。
やわらかい風が吹き込む店内で、オルゴールのトロイメライを聴きたいなぁ。。