みみの無趣味な故に・・・

読書感想、本にまつわるアレコレ話。時々映画、絵画鑑賞の感想も書いてます。

『彼女たちがやったこと』 唯野 未歩子

 

彼女たちがやったこと (単行本)

彼女たちがやったこと (単行本)

 

おすすめ ★☆☆☆☆
【内容紹介】

平凡な女と、非凡な美女。対照的な二人は親友同士だった。ふたりが立てた犯罪すれすれの計画は実行され、そして、暴走する。衝撃の書き下ろし長篇小説。

【感想】

「彼女たちのやったこと」...?なんだろ?と気になり、借りてみました。。まぁひどい。。笑。。登場人物、誰一人として、受け入れることができず、、苦笑いの連発。。こんな女の友情が成立するとは思えないし、、彼女たちのやったことは不可能に近い。。傲慢過ぎて、呆れてしまう。。

「この世でいちばん嫌いだからこそ惹かれあう女たち。女同士の友情には表裏一体の感情がある」

そうなのだろうか?未熟なわたしには、想像のつかない世界があるのだろうと、、言い聞かせるしかない。。苦痛なので一気読みしました。。📖💦

『土漠の花』月村了衛

 

土漠の花 (幻冬舎文庫)

土漠の花 (幻冬舎文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

ソマリアの国境付近で活動する陸上自衛隊第一空挺団の精鋭達。そこに命を狙われている女性が駆け込んだ時、自衛官達の命を賭けた戦闘が始まった。一人の女性を守ることは自分達の誇りを取り戻すことでもあった。極限状況での男達の確執と友情。次々と試練が降りかかる中、生きて帰ることはできるか? 

 

【感想】

残酷な場面が多いので、苦手な人にはおすすめできません。わたしも辛かった。。でも最後まで、止まりませんでした。

 

序盤から辛すぎます。。次々と殺されていく仲間、村の襲撃、虐殺、追撃、銃撃戦、追撃で、、息つく暇もない過酷な展開に。。中盤からは戦争を経験したことのない自衛官たちの恐怖、葛藤やそれぞれの人物背景が描かれ、確執、嫉妬など心理描写が浮かんでくる。。やっと人物の把握がしやすくなりました。。冷酷非情と思われた新開曹長遊牧民の子供たちと交流するシーンは緊張感が解け、心が休まる。。まさにオアシス。。それもほんのひととき。。冷静だった新開曹長が心の緩みでしてはならないミス...。(日の丸の徽章を子供の腕に巻いてしまったミスはいくらなんでも無いなぁと思った。この後の展開に繋げたいとは故、、無理がある)この後は壮絶過ぎて、壮絶過ぎて。。心を抉られる展開に。。ショック大きいなぁ。。うろたえる指揮官・友永曹長に新開さん渾身のエール...「歯を食いしばれ」シーンは号泣。。その後も銃撃戦が続く...。守られているアスキラも戦闘に参加。。意思と精神力の強さがすごい。


もう一つの敵は、アフリカの大自然。。見渡す限りの土漠の果て。。喉の渇き、照りつける太陽、ハムシンと呼ばれる高温の砂嵐が恐怖映画を観てるみたい。。土漠の花を守るために、命がけで闘い抜く自衛官たちの理想と現実には悲しみも残りますが..アフリカの希望を祈らざるを得ない物語でした。。

『パフューム ある人殺しの物語』 パトリック・ジュースキント

 

ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)

ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

18世紀のパリ。孤児のグルヌイユは生まれながらに図抜けた嗅覚を与えられていた。真の闇夜でさえ匂いで自在に歩める。異才はやがて香水調合師としてパリ中を陶然とさせる。さらなる芳香を求めた男は、ある日、処女の体臭に我を忘れる。この匂いをわがものに…欲望のほむらが燃えあがる。稀代の“匂いの魔術師”をめぐる大奇譚。

 

【感想】

なんて奇妙なお話なんだろう。。匂いが充満していて、ものすごくパワーを使った気がする。。それほどインパクトの強いお話でした。

十八世紀のフランス。天才肌のおぞましい男ジャン・バディスト・グルヌイユ。彼の物語です。。生まれつき体から全く匂いがしない。。乳母から悪魔の子と言われ、孤児院に送られる。慈しみ、やさしさ、愛情より生を選び取ったグルヌイユは不気味な存在を放つ。鋭い嗅覚の持ち主で全ての物が発する匂いを感じ取り、匂いにより記憶を刻みつける。のちに香水調合師となり、さらなる香りの追求に励んでいく。。
人間の臭気から逃れ、孤独な世界を探し求める旅をする。。山の洞穴で引きこもり生活を始め、匂いの記憶で妄想暮らし。。自家製の匂い王国で7年も過ごす。。世に出た姿は髪が膝頭まで伸び、細い髭がヘソまで垂れる。指先は鳥の爪のよう...((((;゚Д゚)))))))
人間の世界に戻り、香水作り再開。。なんと体臭を作り上げる。。体臭レシピに驚き。。体臭用の香水を全身にふりかける。。体臭をなびかせて街を歩く。。体臭を得た喜び。。「匂いを支配するものは、人の心を支配する。」と、自信に満ちた人生を歩んでいく。。その後、TPOに合わせた体臭用の香水を作り上げていく。。日常用の無個性型や同情憐憫用。。さらなる狂気の世界へ歩むグルヌイユはついに美しき究極の香りに出会い、魅了され、その香水を作るために...。

 

狂気と匂いが満ちた世界に驚きの連発でした。人間を含むあらやる物の描写を匂いで表現する力には脱帽しました。顔を背けたくなるような町の濃厚で強烈な悪臭から甘美な芳香まで本から匂いが立ち込めてくるようです。。その中で唯一匂いを持たない男が放つ異彩な不気味さ。。すごかった。。体臭への果てしない憧れと探究心。。最初から最後まで衝撃的でした。。たまに音楽、絵画、文化を体感する読書はあったけど、、こんなに香り立つ読書は初めて。。危険な香りと衝撃度で星五つです。。

『東京』 林 真理子

 

([は]1-2)東京 Hayashi Mariko Coll (ポプラ文庫)

([は]1-2)東京 Hayashi Mariko Coll (ポプラ文庫)

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

豪壮な邸宅が並ぶ高級住宅街の一軒家に下宿をすることになった健と真由美。家の一階に住む政代は、一見きさくな性格の裏に、東京に住む上流階級の人間特有の驕慢さが次第に明らかになっていく…。煌びやかな「東京」に息づくリアルな人間模様を切り取った傑作短編集。

地方出身の女性が東京に憧れ、上京する短編集。

【感想】

地方出身者の東京の憧れとコンプレックスの間に渦巻く心理が東京出身者への偏見に変わり、苦しそう。。時代背景がバブル期だからだと思うけど、高級志向で、高級住宅街や一等地へ住むこだわりが強く、東京の男性と結婚すれば真の東京人になれるという都市伝説?みたいな話にやや苦笑する。。東京に暮らす女性も優越感が滲み出てて、意地悪に描かれてる。。だからこそ、面白いのだろうけど、、共感するかというと、あまり共感できず、勝負のつかない不思議な女の闘いは怖いなぁと感じました。。東京出身ですが、都心に出ればおしゃれな街並みに気持ちは上がるし、高級店に入る時は緊張しないわけでもないし...。東京の事、、そんなによくわかってないです。。😅

『作家と一日』 吉田 修一

 

作家と一日 (集英社文庫)

作家と一日 (集英社文庫)

 

おすすめ ★★★★☆

【内容紹介】

やっぱり旅っていいもんだ。大切な“一日”がまた増える。
ポルトガルでパトカーに乗せられたりなぜか別府でタイ古式マッサージにハマったり……

ポルトガルのビーチでパトカーに乗せられ、新宿ゴールデン街でなぜかフィンランドのヘヴィメタバンドと意気投合し、仕事場では愛する猫に癒される──。それら全てが作家・吉田修一の一日。そして、『悪人』『怒り』などベストセラーを生み出し続ける彼の素顔なのだ。ANAグループ機内誌『翼の王国』の人気連載をまとめたエッセイ集第三弾。本書を手に取ったあなたは、きっと旅に出たくなる。


【感想】

取材のために行く旅行ではなく、、旅行に行くうちに小説の構想が出来上がる吉田さんの旅行記はご本人曰く、、「別に何も...」の旅。。特に予定を決めるわけでもなく、ぶらっと歩いて、街並みや風情を楽しんだり、一日中ホテルの部屋で、その国のテレビを観続けたり、、ご自分の意外な嗜好に気づいたり、、その瞬間に出会う人、風景を体全体で実感し、吸収して、吉田修一が彩られていき、感性豊かな「一日」を歩まれているのです。。こちらまでワクワクしてしまう。。各地の吉田修一おすすめツアーのおかげで、行きたい場所がたくさん増えました。。近場の「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(真っ暗闇の世界を体感するツアー)から体験してみたい。。

旅行記だけではなく、日常や失敗談も面白い。。役者さんの声を日本酒に合うとか。。ご自分の声は日本酒には似合わないとか。。「代々木」を頭では「よよぎ」なのに、「だだぎ」の発音しそうになって焦ってたり。「代々木ゼミナール」を「だだぎゼミナール」と覚えてしまったからだそうです(わたしも勘違いしてる地名や読み方、たくさんありそう💦)

雪国で「音」のない世界を知ることなど、、吉田さんの感性の表現が素敵(たまにかっこつけすぎ?って時もあるけど)で、小説家の書くエッセイは惹きつけられるものがあります。

 

わたしの好きな『パレード』という小説に出てくる伊原直輝の人物像についても、何とも興味深い解説が。。「不器用な若者ではなく、器用な大人の恐ろしさ」。。八方塞がりな直輝。。読後の不気味さを思い出します。これは得した気分♪

 

「一日」というものが奇跡的で貴重であること。。吉田さんがとっても人間好きで幸せの拾い方が魅力的な人だなぁと、さらにファンになりました。。空の旅でこんな素敵なエッセイが読めるのですね。。📖🎶

『劇団42歳♂』 田中 兆子

 

劇団42歳♂

劇団42歳♂

 

おすすめ ★★★☆☆

【内容紹介】

大学で劇団を組んでいた5人の仲間。今は違う道を歩む彼らだが、
卒業後20年の節目に「劇団42歳♂」を再結成した。
一日限りの公演に向けて「オセロー」に挑むが、各自の抱える事情もあり、
稽古はなかなか捗らない。果たして無事に幕は上がるのか?
そして彼らが直面する問題の行く末は?
迷える不惑の男たちにエールを贈る連作短編集。

【感想】

男の友情はややこしいのね。。42歳になっても昔と変わらない男たちの上下関係?わがままで横暴な松井とバカにされ続ける岩清水。。こんな関係が20年も続く友情ってあるの?とか。。心の内をあまり明かさないイケメン小柳を心配しながら見守る優しさとか。。本音を言葉では伝えられない男たちのプライド、見栄、妬みなどが絡まりもつれ、鬱屈さがあるのに重苦しさがないとか。。男の友情ってとても繊細だけど絆が強い。。こじれていく男たちだけど演劇に対しての情熱はパワーを感じます。。真剣に打ち込み、シェイクスピアの解釈を何度も話し合い、役づくりに一生懸命取り組む姿がまっすぐで良いなぁ。「オセロ」の登場人物の心理を掘り下げていく部分はとても面白かったです。
語り手の演出担当の佐藤が個性は「普通の男性」なんだろうけど、、なんかやだなって感じでした笑。

【追記】

著者の作品インタビューを読みました。言葉を尽くし過ぎる女の友情と違い、言葉を尽くさない男の友情。。42歳って大人だと感じた昔。。大人でも幼いし、でも悩んだり学んだり、かといって、また昔に戻ったら。。42歳だからこそのどうしようもなさも彼らの魅力。。

 

わたしが佐藤の人への鈍感さに不快な気持ちを抱いていた事がこう書かれていました。

「今、再びの青春を謳歌する間にも現実は進行し、実は器用に立ち回る佐藤こそ、女心が最もわからないゲス男だった。」

 

なるほど、、と思いました。
人の心の奥底を読み取れない佐藤の演出家として、人としての未熟さ。42歳で「オセロ」という作品を通して、人間の言葉では言い尽くせない心の内を感じ、他者の気持ちに寄り添い、愛の深さを知る。。佐藤の成長物語。。そう思うと、変われた佐藤を「やだな」とは思えなくなってきました。。
もう少し、深く読み取れるようになりたいなぁ。。

『64』 横山 秀夫

 

おすすめ ★★★★★

【内容紹介】

元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、“昭和64年”に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。

【感想】

内容が盛りだくさん。。登場人物が多い。。把握することが精一杯だった上巻を読み終わってから、下巻に行く前に再読しました。理解できたかなぁ。。おさらい。


かつて刑事部に所属していた三上義信は広報部広報官として警務部に配属される。記者との関係を無難に過ごし、刑事部への復帰を約束されていたが、一人娘・あゆみの家出を機に、事態は急変。警務部長へ娘の捜索願いをし、絶対服従の関係に。。ここから悩み多き日々が始まる。。匿名問題で広報部と記者との関係悪化、対立。やがて広報部の部下との関係も不穏。娘の家出で妻・美那子(元ミス県警。美人。三上さんは強面。美女と野獣カップル)の心身衰弱...と、夫婦としての不安(美人妻を持つ夫の自信喪失?ちょっと可愛い悩み)。。などなどあらゆる問題が降りかかる。。記者クラブとの修復に勤しんでいる時に舞い込んできた長官視察。。視察内容は時効目前の未解決事件「64(ロクヨン)」の遺族慰問や現場視察。。これが厄介な抗争に発展していくの。

ロクヨン」とは昭和64年に発生した「翔子ちゃん誘拐殺人事件」当時7歳の少女が誘拐され殺害された事件。当時は刑事として捜査に関わった三上は広報官として「ロクヨン」の調査に。。関係者から「幸田メモ」という存在を知り、刑事部と警務部の間に大きな壁があることが判明。。長官視察を阻止したい刑事部と視察を遂行したい警務部の溝にハマる三上広報官。。「ロクヨン」にはどんな秘密が隠されているのか?

 

ふぅ。。大変。。なんて息の詰まる物語なんだろう。。警察内部抗争の密度が濃い。。でも引き込まれ、のめり込んでいく。。下巻は止まらなかった。。

(ネタバレします)

刑事部で現警務部の三上広報官の心理描写に胸苦しくもなり、熱くもなる。。組織に翻弄され、限界に苦しみ、暴走を生み出し、裏目裏目になりながら、正義と不正義に真っ向に立ち向かってる姿に涙する。。記者クラブとの亀裂が生じた匿名問題。。実名の重みを感じます。。匿名では不透明だった人間。。想像や推測に過ぎなかった存在が実名により、実体を持ち、リアルな存在となる。。実名をどう扱うかで人生が左右されていくこと。。警察と記者の攻防も神経が擦り切られる思いが伝わります。。広報部の紅一点。雑用ばかりさせられる女性警察官・美雲ちゃんの仕事に対する正義感と熱意。。頑な三上広報官の意識を変える大きな存在。。広報部としての役目をわかりやすく説明してくれた。。わたしのお気に入りです。

さてさて大筋である「ロクヨン」の真相には息を呑んだ。。三上とその周辺で起こる無言電話。。娘を殺された父の「執念」。。それに尽きる。。マ行多目だよ。。うまくいき過ぎ感はあるけど、、あくまでも『64』は警察内部抗争とマスコミと警察の攻防に焦点を置いてあるので...「ロクヨン」解決やら模倣犯やら家出娘やらは、、曖昧でも全く気にならなかったなぁ。。

超大作。。久しぶりの警察小説。。複雑な人間関係に不安が多かったけど、、面白く読めてよかった。。😌👌